いま、わたしたちは、社会や産業の構造が根本的に変革しようとしている21世紀の夜明け前の世界に生きています。
これから何が大切なのか、生きるために必要なものは何か、個人の新しい価値観が問われている時と言えるでしょう。
このような環境において、情報をどう捉えるか、自分のアンテナともいえる「五感」を意識し、活性化することがとても重要です。
また、感覚を意識して活性化することは、頭脳、感覚の延長であるコンピュータと人間の関係をも捉え直すことになります。
「黎明 : Reimei Project」 は、視覚を遮断し、聴覚や触覚などの感覚を使って闇の中を進む、対話型空間プロジェクトです。
眼からの情報は、全体の80%と言われますが、参加者はそれに頼らずに、耳、鼻、そして手や足の皮膚に感覚を集中して闇の中を歩いていきます。
しかし、そう簡単には歩くことができません。そこで先導役を勤めるのは、視覚障害者です。
彼らとともに、その空間を移動しながら森を感じ、小川のせせらぎを聞き、 アートに触れ、驚いたり、対話しながら一緒にドリンクを楽しむうちに、自分が本来持っていた感覚の鋭さを思い出したり、見えない世界の美しさに気づいていきます。
そしていつか、障害者を感覚の先達として尊敬している自分に気づくのです。
このシンプルで懐かしいのにもかかわらず、はじめての経験は、皆さんのなかに眠っていた感覚を呼び起こし、自らに対する新しい関係と親近感を生み出し、障害をもつ方の世界の豊かさを知るとともに、人間の奥深いメカニズムを感じることができます。
その意味で、これは障害者疑似体験ではありません。
人間の尊厳と可能性に気づくためのプロジェクトです。
このプロジェクトのオリジナルのコンセプトは、「Dialog in the Dark」というもので、
1989年にドイツのハイネッケ博士のアイデアで生まれ、ヨーロッパ各地に広がっていきました。
今回、ComJapanと同時開催されるATACのご協力により、このコンセプトのほんの一部ではありますが、日本で初めて皆さんに体験して頂く機会を得たことを感謝しています。
体験されたさまざまな方々の創造力で、本格的な「Dialog in the Dark」の日本開催が実現することを期待しています。
また、この「黎明 : Reimei Project」が、人間力を再生させ、真に豊かな社会の成熟へ向けての何らかのきっかけになることを願うとともに「Dialog in the Dark」の発案者、ハイネッケ氏と写真家・星野道夫氏に捧げます。