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2008年CSUNツアーレポート:梅垣正宏 (研究員)

 

短期集中!

今年のCSUNは、セッションの初日である12日の昼にロサンジェルスに到着して、最終日の15日朝にはホテルをチェックアウトするという、実質2日半の滞在。展示をじっくりと見てまわる時間も取れず、慌ただしいスケジュールでした。特に、今年はお腹の調子が良くない日が続き、朝も昼もバナナにビスケット、日本から持ち込んだ小さなカップめんで食事を済ませるという貧しい食生活。実は、昨年も一昨年も、時差ボケが全く気にならなかったので、日頃の不規則な生活のおかげで「時差ボケには強いんだ」、と何の根拠もない自信を持っていたのです。しかし、これが災いして今年は時差ボケがひどく、迂闊にも W3C/WAI の Judy Brewer さんのプレゼンテーションで、自分の名前が紹介されて「はっ」と気がつく始末。恥ずかしい思いをしました。それでも、そんな苦しかった?滞在の中で気がついたことをコンパクトにご紹介しようと思います。

本題に入る前に、東洋大学の池田先生に感謝。なぜかというとツアー直前に参加者メーリングリストで、航空会社にスペシャルミールをリクエストするといい、というヒントをくださったからです。飛行機の食事で気分が悪くなることがあり、できれば野菜や果物だけにしたいと思っていたのです。すぐに航空会社に電話、フルーツ中心の食事に変更してもらいました。あんまりお腹がすくのもよくないと思って、飴玉をカバンに忍ばせておきましたが、結局出す機会はありませんでした。

WAVE toolbar

さて、まず初日の12日。最初に出たセッションが、Advanced Web Accessibility Evaluation with WAVE です。WAVE は、Webアクセシビリティチェックツールとして有名なもののひとつです。海外のツールではよくあることですが、残念ながら日本語のページをチェックすると全部文字化けしてしまって、実質的には使えません。しかし、朗報が!すでに、CSUNに行く前には情報をつかんでいましたが、WAVE toolbar というFirefoxのアドオンとして動作するWAVEがリリースされていて、これを使うと日本語が文字化けしないのです。機能的には、他の Web Accessibility Toolbar や Web Developer Toolbar に比べると、見劣りしますが、しかしオリジナリティのある面白い機能が盛り込まれています。なかでも、面白いのがその開発ポリシーです。WAVEはWebAIMというNPOが、大学と一緒に開発しているツールですが、WCAG2.0、リハ法508条基準などのガイドラインへの適合という考え方をまるで持っていないのです。Jared Smith と Aaron Andersen のプレゼンテーションでは、こんなことを言っています。

WAVE and Guidelines/Standards

  • Web Content Accessibility Guidelines? Yep!
  • Section 508? Yep!
  • More? Yep!
  • Less? Yep!
  • WAVE checks most everything that an automated system can check
    (and that really isn't very much)

No tool can tell you if your site is accessible
(but they're relatively good at telling you when they are inaccessible)

どんなガイドラインや規格を使ってもいいし、使わなくてもいいけれど、ツールのチェックだけでWebがアクセシブルであるなんて言えないのだ、だから規格への準拠をチェックツールがチェックするなんて考え方はナンセンスであるとはっきりとしたコンセプトを持って開発しています。もちろん、ガイドラインや規格に意味がないといっているのではありません。ツールでチェックできることだけが、対象だとはっきりさせているのです。すがすがしいほどに、ツールの限界について自覚するその開発姿勢は、NPO故のものかもしれません。

 

Judy Brewer さんとミーティング

セッションに続いて、W3C/WAIJudy Brewer さんと1時間ほど意見交換をしました。今回は、日本規格協会の委員会としての出張ですので、X8341-3とWCAG2.0の協調をどう進めるかという話。X8341-3は今年改定作業を行って、2009年春には改訂版を出しますので、いわばその下打ち合わせ第一弾というところです。まだ、個人的な意見交換ですので、ここには詳細を書きませんが、詳しいことを知りたい方は個人的にご連絡をください。

ただ、Judyから「日本では障害者団体からの意見は出ないの?」と問われて、言葉を失いました。もっと当事者を巻き込んだ活動をしなければと、思いました。まだまだ、本当の意味でX8341-3を定着できているとはいえないですね。

NVDA開発メンバーとミーティング

12日の夜は、フリーのスクリーンリーダー開発プロジェクトの一つ、NVDAの開発者とのミーティングでした。NVDAはMozillaから資金を受けて開発が進められており、担当している Michael Curranさん、James Tehさんはとても若い方たちでした。私は、日本語変換への対応がスクリーンリーダーの日本語化で不可欠であることを説明して、特に漢字候補の選択画面の読み上げについてマイクロソフトの IME、TSFについて説明しました。長時間にわたるとっても充実したミーティングでしたが……疲れました。

  • NVDA日本語化プロジェクト http://nabe.jot.com/WikiHome/NVDAJp/
  • NVDA http://nvda-project.org/
  • NVDA blog http://www.nvda-project.org/blog/

リハ法508条の動き

13日は、朝からいくつかのミーティングをこなした後に、Refreshing the Section 255 and 508 Accessibility Regulations というリハ法508条のセッションに参加。紹介された情報には目新しいものはありませんでした。気になったのは、508条の動きで、日本から提案し国際化されている ISO9241-20などが全く視野に入っていないことです。国際化の話でも、EUや中国は出てくるのに、日本の話がほとんどない。東洋大学の山田肇先生がかなり力を割いて TEITAC の活動に参加しているのにです。日本の主張をもっと積極的にすべき、と痛感しました。決して日本の活動は遅れてはいません。たしかに、法制化や政策制度面では進んでいるとはいえないが、技術的解明や標準化では世界をリードしています。そういった活動をもっともっと世界に向けて発信していかなければと思います。

午後からは、いくつかの仕事をこなして、夕方の International Reception に参加しました。

中国人と出会う

International Receptionでは、中国本土からの参加者がいるとのことで、探しまわりました。最初に中国人と思って話しかけた方は、なんと筑波技術大学の先生(つまり、日本人)でした。ヒゲの具合が絶対に中国人だと思ったのですが……。で、その隣にいた中国からの参加者4名と名刺交換。英語が話せる人が二人だけだったのですが、それでもなんとかいろいろな話をしようと仲良くはなったのですが、アクセシビリティに関する話は聞き出せませんでした。どうも、一人はL.A.の中国駐在員で、もう一人はリハビリテーション関係者で、アクセシビリティ分野は実は詳しくないとのこと。Webサイトも教えてもらったのですが、日本に帰ってチェックしたらほとんどが中国語で、情報もあまりない。その後送ったメールにも、なしのつぶてです。残念。

冷や汗の続いた14日

14日は、午前中にNTTドコモさんの Description of Rakuraku Phone: Mobile Telephone with Features for Japan`s Accessibility Issue に出席、それを中座して、International Perspectives on Conformance Assessment Approaches for IT Accessibility セッションにパネリストとして参加しました。テーマは、アクセシビリティの適合性評価。IDCがまとめたホワイトペーパー "Using Appropriate Conformity Assessment Tools to Ensure Effective Consumer Protection(PDF)" のディスカッションでした。

画像:メンバーの写真参加したのは、コーディネーターのKen Salaetsさん(ITI)、Ima Placenciaさん(EU)、Mary Frances Laughtonさん(カナダ)、Alex Liさん(米国、SAP)に私の5名。みんな有名人ばかりで、とてもとても緊張しました。問題になったのは、適合性評価を自己認証(SoDC)でやるのか、第三者認証でやるのかという点で、それぞれの利点や欠点を議論するというのがテーマでした。私は、誰がやるかという問題よりも、どう評価すればいいかという点をもっと議論すべきと主張して、日本で進めている評価手法の研究を紹介しました。議論は正直にいえばかみ合わず、それぞれ言いたいことを言って終わってしまった感じでした。1時間はあっという間で、会場から質問を受け付ける時間もあまりなくあっさりと終わらざるをえませんでした。私は、少しホッとしましたけれど。

セッションが終わった後、Cynthia Waddellさんが声をかけてくださって、あなたの英語はよかったよって褒めてくれて、一気に疲れが飛びました。次の日の朝も、このセッションの件でデンマークのHelle Bjarnoさんが声をかけてくれました。

画像:ステーキの写真この日は、もろもろの打ち上げを兼ねてステーキを食べに行きました。やわらかくって、うまかった。疲れが吹き飛びました。店の名前は、えっと、Flemming's Prime stake house です。


15日が一番元気

滞在最終日の15日は、朝から How Web Accessibility Guidelines Apply to Design for the Ageing Population というW3C/WAIのShadi Abou-ZharaさんのWAI-AGEの発表を聞きに行きました。WAI-AGEはEUの資金を使って、高齢者向けのWebのガイドラインを調査研究するプロジェクトです。もう1年以上前から始まると聞いていたのが、ようやく動き出したところで、また高齢者分野の研究を取りまとめて、WCAG2.0などのガイドラインでどの程度カバーできているかなどを調査している段階です。担当者もまだ全部決まっていない状態のようです。最近は、Shadiさんがいろんなところで活躍していて、つまりはWAIも人材不足なのでは?と思います。

画像:会場の様子発表が終わったところで、であったと人たちに挨拶をして大急ぎで展示を見て回りましたが、ほとんど店じまいが始まっている状態でした。


USBでAT

駆け足で見た中で気がついたのは、Zoom Text の USB 版が出ていたこと。昨年も、USBを刺すだけで動くスクリーンリーダーが発表されていたが、今年はZoom Text にも USB バージョンが出ました。こういう技術が普及すると、ちょっと人のパソコンを借りて使うというような場合でも、自分の障害に合わせた支援技術(AT)がすぐに使える。なかなかいいアイデアです。

そして帰路に

駆け足での展示場まわりの後、ホテルに戻って身支度、空港へ。空港はとても混んでいて早く行ってよかった、とその時は思ったのですが、搭乗手続きが終わるころには空いていて、なんだかがっくり。

やはり2日半の滞在は短かった。しかし、いつもよりも密度の濃いCSUNであったことは確かです。ただ、少々気がかりなのは、セッションの参加者が少なかったこと。わりと有名人と思われる人のセッションでも、3割くらいしか入ってない会場もありました。また、発表も目新しいものが少なく、事前にWebをチェックしておくとわかる程度のものもあり、残念。セッションの質の向上には、もっと取り組まないといけないでしょうね。でも、いろんな人と出会えるのがCSUNの楽しみの一つ。このことに関しては、大変満足のいく渡米でありました。とくに、CSUNの参加者たちはとってもいい人というか優しい人が多い。パネルディスカッションのコーディネーターのKenも、僕の英語力を十分に受け入れて対応してくれました。感謝。

来年も行くかまだわかりません。でも、すくなくとも1年間英語を鍛えなおしです。最大の成果は英語力がまだまだだとはっきり自覚できたことかもしれません。日本から、英語で意見するということが、何よりも大 事。そのとてもいい機会がCSUNだと思います。「参加するだけじゃなくて発表する」これが、CSUNに参加する最もお勧めの方法です。


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