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3月11日(到着初日 周辺環境のUDチェック)

今回は総勢17名のツアーとなった。ただ、同じ旅程でない人も多く、行きは11名での出発である。今回は、視覚障害学生の野澤さんが一緒だ。金森先生と太田先生のご一家など、親子も二組いた。やはりアナハイムだ!ディズニーランドもある!大谷翔平もいる!ファミリー参加もありだと思う。

8年前までは空港のホテルが会場だった。それからサンディエゴへ移動し、今回、8年ぶりのLAだ。アナハイムに泊まるのは初めてだし、今年は私も模様見である。宿もカンファレンス会場もどんな状態なのか、皆目見当がつかない。ま、ユニバーサルデザイン(UD)であるのは間違いないのだが。

今年は19年ぶりにCSUNに参加する長野大の伊藤先生がいるので、エアでは話しながら行きたいねと約束していた。サンフランシスコのWWWカンファレンスに行って以来なので、積もる話もある。座席指定が出発24時間前なので、メールと電話でやりとりしながらなんとか並びの席を予約した。

成田も出国がかなり自動化されていて驚いたが、LAXでは、入国審査が全部、多言語のタッチパネルになっていてびっくりする。準備した入国用の申請書は結局不要だった。入国のハンコも押されないのでちょっと寂しくはある。日本では、いつも、「ハンコ文化反対!」と言っているのだから、自分でも矛盾してるなあ。

JTBがガイドさんとバスを手配してくれていたので、とりあえずお迎えの大きなバスに乗り、ホテルへ向かう。

(大きなバスに乗り込む)

アナハイムについての基本的な情報をここで得ることが出来て、後からかなり助かった。お昼前にホテルに着いたが、チェックインカウンターは長蛇の列である。ガイドさんが交渉してくれて、とても早くチェックインでき、助かった。やはりこういうとき、JTBのツアーは強い。部屋にも早い時間から入れた。

で、そのままこの日はディズニーへ行く!二つもあるということすら知らなかったが、今回は、ディズニーカリフォルニアにした。そこまで、バスでも行けるのだが、歩いても行ける距離なのだ。チケットはホテルでも買える。一日128ドルで、3日だと210ドルという魅力的なパスがあり、自分は買わないで人には勧めてしまう。林先生が乗せられていた。で、中に入って驚いた。いやはや、平日だというのに、なんでこんなに人が多いんだろう。もちろん子供も大人もシニアもいる。どこも長蛇の列である。1時間以上待ちながら、アトラクションに乗っていった。観覧車もすっごく怖いジェットコースターも、恐怖の落下エレベーターも乗ったぞ。

(ジェットコースターはかなりこわい)

野澤君と一緒にいたメンバーは、ジェットコースターの列の途中でファストトラックに行けて、早く乗れたらしい。エレベーターで恐怖の落下体験をした後、雨が降り出したので宿へ戻る。途中のチャイニーズでおかず2品、焼きそばやチャーハンなどのセット10.99ドルを、二個頼んで4人で分けた。すごい量だった。この日の歩数計は2万歩近く、新記録だった。

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3月12日(キーノートは手話での講演)

この日は朝から、ツアーメンバーでレジストレーションへ行く。会場はHiltonの目の前のMarriottなのでとても楽で安全だ。車道をほとんど通らないで行ける。これまでのCSUNで最も近くて安全なケースかもしれない。補助犬用トイレが4か所も準備されている。

(補助犬用トイレは4か所もあった)

会場ではまず事務局長のSandyを探した。毎回、われわれのツアーにいろいろと便宜を図ってくれているのだが、今回は特に世話になった。事前登録に期日があることを忘れていた参加者がいたのだ!もうエアチケットやホテルのキャンセルはできないし、ものすごくがんばって会社の出張許可を取ったのに、行けないなんてあまりにもったいない。直前だったが、最後の望みとして、Sandyに急遽メールした。追加料金を払っても参加したいという人のための特別エントリー枠を準備してもらい、追加分を割り引いてくれた!今回だけの特別仕様である。CSUN側も、初めてのアナハイム開催でとても忙しかっただろうに、よくやってくれたと思う。感謝感激だ。で、そのお礼も言いたくて彼女を探したのだ。彼女はツアーメンバーを大歓迎してくれた。レジストレーション自体は、実にスムーズにできた。画面はいつもながらアクセシブルだ。
(レジストレーションもアクセシブル)

その後は明日からのセッション内容を読み込んだり、今後のための買い物をしたりして周囲の環境を確認して回る。コンビニやドラッグストアは歩いて10分ほどにいくつかある。レストランや小さなショップもいくつかあって問題ない。子ども連れやシニアが多く、治安はとても良い。実際、かなり夜遅くでも、若い女性や家族連れがディズニーから歩いてホテルに戻る姿をみかけた。

午後はUberで近くのアウトレットへ買い物に行く。たった7ドルで着いてしまう。ここも安全で清潔だ。フードコートでメキシカンのシーフード丼?を食べる。ライムが効いていてまるでお寿司のようにさっぱりしている。サックスフィフスアベニューでいつもの爆買いをする。私は日本では洋服をほとんど買わない。体形が合わないからだ。アメリカに来ると、自分がものすごく太った人だと思わずに買い物ができる。ものによってはSサイズで済む!ここでも、アメリカは許容度合いが広いというか、太っ腹というか。。。あ、この例えは良くないな。要するに、多様性を認めるということだ。

16時に戻ってきて、今度は夕方のキーノートスピーチへ行く準備に入る。

Marriottの会場へ30分前に着く。まずSandyが開会宣言をし、今のセンター長が挨拶をする。現在のセンター長は全盲である。最初こそ、ステージの上に上がるときやスピーチ台のマイクにたどり着くのに少し周囲の助けを要したが、二度目は完璧に一人で移動していた。メンタルマップを一瞬で作れるのだろう。

キーノートのスピーカーは、聴覚障害者としては初めてNASAの制御室勤務となったJohanna Luchtである。彼女が手話で話し、手話通訳者がそれを読み取って見事な講演にする。PC要約筆記もあるので、英語に耳が慣れていないわれわれにも、とてもアクセシブルだ。
(キーノートスピーチはすべて手話で)

ドイツ生まれの彼女にとって、最初の言語はASLだったそうだ。アメリカで教育を受け、授業や仕事でも完全な情報保障を得て、今もばりばりと、NASAで宇宙船のクルーを支援するミッションをこなしている。音声認識と、インターネットを介した情報保障があれば、何の問題もないのだ。それはおそらく英語が母国語でない研究者などがチームに入ったときにも同じ効果を持つのだろう。今年のCSUNでは、視覚だけでなく聴覚に関する当事者の発表が多く、その点でも新鮮であった。キーノートの段階では、まだ耳が英語に慣れていないので、PC要約筆記の画面の前に座ったので、なんとか内容についていくことができた。有難いことだ。
(手話と音声とテキストでUDに)

彼女は、Assistive Technologyを、Access Technologyと言い換えたらどうだろうと提案していた。また、支援技術を究めながらも、最終的にはユニバーサルデザインを目指そうとも呼び掛けていた。考えてみれば、このCSUNのキーノートで、UDを最初から目標として語ることはあまりなかったかもしれない。少し感動してしまった。

その後は、レセプションになった。なつかしい人をたくさん見かける。Trace CenterのGregg Vanderheidenの名前がないなあと思っていたが、ばったり会場で会えた。論文エントリーに二分遅れて、間に合わなかったそうだ。今年からしっかり査読が付くようになったので、これまでのゆるさが消えたのかもしれない。で、今回のレセプションは意外と豪華である。これまで、なんだかセロリスティックとチーズくらいしかなかったのに、今回はホットフードもたくさんある。ワインも二杯目以降は有料だったこれまでと違い、お代わり可能だ。なんだか、この日にディナーをセットするのは間違いだなあ。。。

とはいえ、この日にディナーにしないと、メンバーが顔を合わせる機会が減ってしまう。ツアーメンバーに、会場で会った中根さんや西本さんも加わってみんなでMcCormick & Schmickへ行く。
(初日のディナーでみなさんと)
ここはLAXで開催していた時、よく行ったレストランだ。ただ、今回はちょっとサービスが悪く、アピタイザーの出るタイミングが悪かったり、最初からチップを20%で自動計算してきたり、と、私にはちょっと不満が残った。

ま、気を取り直して、関根部屋をオープンする。買い込んだワインやナッツ、持ち込んだ柿の種などで、みんなで飲む。毎回、これがツアーのキーポイントだと思う。

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3月13日(Uber,Amazon,Bookshareなど)

朝9時から最初のセッション、Uberへ行く。昨年のCSUNでも、視覚障害者にとってUberが大変楽なシステムだという発表があり、納得していたのだが、今年も視覚障害者とUber社で発表していた。Uberのサイトはアクセシブルだし、現金でのやりとりがないので、安心である。多くの障害者にとって、移動を楽にしてくれるものなのだ。

昨日のキーノートの講演の中でも、聴覚障害者は、Uberが普及してから多くの困難から解放されたと語っていた。
(Uberは多様な障害者に対応可能)
たしかにタクシーを電話で呼び、行き先を伝え、金額を知り、料金を払うことは、聴覚障害者にとって、多くの困難が伴うものであった。行き先も今いるところも、相手に伝えようがなかったこれまでと比べれば、Uberが出来てから、本当に楽になったはずである。私たち外国からの観光客も、耳の遠い高齢者にとっても、とてもユニバーサルなサービスだ。肢体不自由者に対しても、今では車いす対応のアクセシブルなバンを指定して呼べるし、介助サービス付きの指定もできる。それも、金額が特に高くなるわけでもない。
(車いす対応も特に高いわけでもない)
セッションでは電動車いすをどう乗せるか、などについて写真で解説していた。スロープを備えている車も増えているという。

会場からは、視覚障害者であるということを、相手にどう知らせるべきか、探してくれないと出会えないという意見も出されていた。盲導犬や白い杖に気づいてくれるといいのだが、基本はこちらが相手の車のナンバーや車種、ドライバーの顔写真などで見分けるので、視覚障害者には難しい部分もあるのだ。自分の障害など、個人的な状況を一時的に開示することも、必要かもしれない。この便利な仕組みが日本では使えないことが、なんだか歯がゆい。アメリカでUberに慣れてしまうと、帰国してから、かなりストレスが溜まる。障害者や外国人の移動に絶大な力を発揮するのだから、日本でもオリパラまでには普及してほしいものだ。

その後は、Googleのセッションに行こうと思ったのに、激混みで、全然入れない。ま、初日は人数が多いので仕方ないだろう。

今回は、全てのセッションと展示が同じフラットなフロアで開催されるので、移動はとても楽である。LAXでは、マリオットが視覚、ヒルトンが肢体不自由という感じで分かれており、それもかなり外を歩かなくてはならなかった。サンディエゴでは、フロアが違ったので、これもセッション間の移動が大変だった。それに比べたらかなり楽である。ただ、セッションに関しては、今年から新しいルールが適用されていて、開始から10分過ぎたら入れてくれない!これには参ってしまった。これで行きたかったいくつかのセッションを棒に振った。

デジタルアクセシビリティに関する法的状況に関するセッションでは、Webアクセシビリティの訴訟が2015年には57件だったのに、2018年には2285件に増えたと話していた。
(Web訴訟の件数はうなぎのぼり)
係争中のものも多いそうで、行政だけでなく企業も大学も訴えられている。昨年聞いていた、MITとハーバード大の映像にキャプションがない件も、まだ係争中のようだ。508条は行政だが、ADAは民間も含むので強い。508条の状況説明のセッションもあった。
(508条もユニバーサルデザインを重要視)
ここでも、ユニバーサルデザインの重要性が語られている。Access BoardのTim Creaganの英語は、相変わらず聞き取りにくい。私の英語力のせいなのだろうけど、聞き取りにくい英語を聞きやすくする技術もほしくなる。

次にAmazonのAIスピーカーのセッションに行く。Alexaを介しての電子レンジ調理(今はまだ専用品だが)や、テレビやDVDなど家庭内全ての映像機器のコントロール(まもなくリモコンは消えるのだろう)、そしてネット上でファッションの指南をしてくれる機能を紹介していた。
(Alexaでのクッキング事例) (あらゆる映像コンテンツをAlexaで) (ファッションの指南をしてくれるAlexa)

デモコーナーにはかつてSun MicroでアクセシビリティのリーダーだったPeter Cornが居る。みんな、どんどん転職している。
(デモしているのはPeter Cornだ!)

カナダの図書館とBookshareのプロジェクトも聞いた。カナダは国を挙げて、図書の電子化とユニバーサルデザインに取り組んでおり、国内のすべての図書館がつながるCELAというネットワークの中で電子図書を共有できる仕組みを作っている。蔵書の目録とデータは共有され、更に障害者のための世界的電子書籍ネットワークであるBookshareとも連動している。Bookshareとは、アメリカで始まり、世界の80カ国以上が参加する、読書障害者(Print Disability)に図書を提供する組織である。障害のある子供や学生が、勉強のために必要な本の電子化を依頼すると、ボランティアが本を裁断し、OCRで読み、校正してDBに登録する仕組みである。存在する図書ならすぐに、ないものも1週間程度で届けられる。すでに65万冊以上が44言語で提供されている。CELAとはデータフォーマットが異なるので全面的な連携には至っていないようだが、少なくとも図書館の蔵書やデータは、全て市民のために存在するべきという意識は非常に強い。

日本では図書の電子化はこの数年でやっと進んではきたものの、まだ市民権を得るには至っていない。点字本のデータベースであるサピエや、Daisy図書も増えてはきたし、HONTOやKindleで読めるものも増えては来ている。だが、例えば各大学の障害学生支援室でテキスト化されたデータは、校正が完全でないため、国会図書館には追加できない。一般の展示図書館にある本は小説が多く、大学で授業に使われる専門書は、ほとんど点字化もデータ化もされていない。そのため点訳ボランティアに依頼して点訳したり、自炊してテキスト化したりするのであるが、データとして共有する仕組みはない。各大学で一回だけ使われて、それ以降死蔵されるままになっているのはあまりにもったいないのである。ぜひBookShareを日本でも、と願うのみである。

今回は、Webアクセシビリティに関するセッションにほとんど行けなかった。一つだけ行ったのが、WCAGの次のバージョンであるコードネームSilverの説明である。
(WCAGの次期バージョンはどうなる?)
現在のAAなどのレベル分けもなくなり、スコアリングの方法もかなり変わってくるようだ。今後の情報が待たれる。

会場ではいろいろな人に会えた。ツアーメンバーなのだけど、ここでしか会えなかった引地さんは、かの有名なコミュニケーションロボットOrihimeと一緒に会場を回っていた。
(Orihimeとご対面)
これを使った映画「天の川」も、監督さんから直接、誘われたのに、ついに観に行けず、とっても惜しかったのだが、ここでデモを見ることが出来たのは嬉しかった。いつ見ても可愛いロボットだ。会場でも人気だった。

会場には、たくさんの障害者が、一人で歩いている。白杖の人も、盲導犬の人も、電動車いすの人も、ほとんどが単独歩行だ。周囲も慣れていて、必要なときだけ声をかけたり、道を空けたりする。

この日は、映像のアクセシビリティに関する国の方針など、ジャンルを超えて聞きに行ったので、かなり頭が疲れてしまった。みんなは誘い合って食事に行ったようだが、もはや私は少し頭とおなかを休ませたくなり、近くのベトナム料理店にフォーを食べに行く。連れ合いはアメリカ食が続くとエネルギーレベルが落ちるタイプだ。ベトナム料理やタイ料理なら大丈夫なのである。ただ、予測した通り、フォーも一個が巨大なアメリカンサイズで、一つを二人で分けても食べきれないくらいだった。
(巨大なフォー。二人で分けても多すぎる)
ビールを二本頼んだら、一本タダでついてきた。面白かったのは、カードで支払うときに、カード読み取り機の上のディスプレイ上に、Good,Great,Ecxellent、と3つ選べるようになっていたことだ。それぞれ、15%、18%、20%でチップが入る仕組みだ。楽しくて、ついExcellentを押してしまいそうだ。昨日は勝手に決められたので怒ってしまったが、自分で選べるなら気分よく払える。人のこころとは不思議なものである。写真を撮りそこなったのがつくづく惜しい。また来年いかなきゃ。

この日も、21時に関根部屋オープン。ソニーの方などもワイン持参で参加され、にぎやかだった。賑やかすぎたのか、23時にホテルマンに怒られた!誰でも開けて入れるように、少しドアを開けておいたのがいけなかったらしい。この日は大慌てで解散になった!

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(番外編その1)補助犬について

CSUNの会場には、数えきれない補助犬がくらいいる。犬種もさまざまだ。日本だと盲導犬は、ラブラドールとゴールデンのレトリバーがほとんどだが、ここでは、シェパード、コリーなどもっと幅広い。今回は、大型のプードルがたくさんいて、可愛かった!色も、黒、白、茶色とさまざまだ。セッション中はみな、大人しく寝ているのだがときどき寝言?をいうので、それも楽しい。人と同じく、犬も多様である。

(茶色のプードル) (これは黒のプードル) (白のプードルが美しくて見とれる)
(黒い介助犬は賢そうだった) (ぐっすり寝ているがときどき寝言も)
(これは訓練中かもしれない) (電動車いす、白杖、補助犬ユーザーもみな単独移動)

車いすの人を介助する介助犬は、ほぼ、盲導犬と同じ犬種だが、聴覚障害者をサポートする聴導犬は、その仕事の性質上、小さい方がいいので、ポメラニアンやチワワなどが多い。なぜ小さい方がいいのか、夜の関根部屋でなぞなぞとして出した。ここでは答えは言わないでおこう。今回のツアーメンバーは、UDやアクセシビリティに関心のある人が多いのだが、それでも、聴導犬や介助犬を日本でリアルに見たことのある人は多くなかった。それだけ数が少ないということなのだろう。

CSUNの会場には、上記3つの他に、バッグに入った小さな犬を見ることもある。これは、精神的な不安を抱える方のためのサービスドッグだ。うつや落ち込み、PTSDなどに対し、さまざまな支援をする。正規の訓練を受け、サービスドッグとしての鑑札も持っている。海外では時々見かけるが、日本の補助犬法では規定がない。オリパラに向け、日本でも受け入れのための議論が必要な時期ではないだろうか?

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3月14日(米国政府の情報保障政策、TeachAccessなど)

この日は、AIスピーカーのシニア対応など、ジェロンテクノロジー系を聞きに行く。ま、IAGGのジェロテクトラックほど量がないので、少し物足りない。とはいえ、全部で19トラックもあるので、なかなか全部には行けないし、行きたいセッションが同じ時間にぶつかっていて、惜しい。

日本だと総務省に当たるFCCのセッションもたくさんあった。FCCには、障害者の情報保障を権利として守る組織の「Disability Rights Office」がある。今回はそのトップが来て政府の方針を話してくれたのだが、彼女自身がろう者で、手話での講演だった。先日のキーノートと同様に、手話をしっかり読み取ってリアルタイムにナレーションにし、同時にPC要約筆記にもしてテキストで見せる。ここまでは先日と同じだが、今回は更に2名の手話通訳者が配置してあった。質問する人も多岐にわたるので、その情報保障を確保するためである。声で質問する場合は、それをろうの講演者にわかるように手話に通訳する。ろう者が手話で質問するときは、それを聴者の参加者にわかるように音声で説明する手話通訳者もいる。また、同じ内容を、盲聾者にわかるよう触手話で伝える通訳者もいる。今回、情報保障としてのセッションが多く、以前より、聴覚障害系が増えた気がした。また、それを、米国政府が明確に権利としていかに保障するか、熱心に進めているのが印象的だった。視覚の時と同様に、それは連邦政府の中で働く、聴覚障害者自身が、技術や法律や制度を熟知したうえで進めているのである。

インターネット上の映像に対しても、きちんと字幕や音声解説を確保するためのツールが次々に提示され、政府の担当者と技術を持つ企業が一緒に発表する。なんだか、羨ましい環境である。日本で、総務省や経済産業省が、支援技術やユニバーサルデザインについて、世界に向けて方針や技術を語るような会が存在するだろうか?ADAも508条もなく、情報アクセスは人権であるという意識のない中では、難しいのだろう。

午後には、昨年行って感動したTeachAccessのアップデートへ行ってみた。これは、Microsoft、Google, Facebook 、Appleなど、アメリカを代表するIT企業が、必要とされるアクセシビリティの人財を確保するため、米国の多くの大学と連携して、カリキュラムを作り人材育成を行う、産学協同のプロジェクトである。
(参加している米国の大学 (参加しているIT企業もたくさん
で、発表者を見て驚いた。おや、WGBHで放送のユニバーサルデザインを進めていたLarry Goldbergじゃないか!彼とは95年ごろからの長い付き合いで、98年、2004年にもボストンを訪ねている。この20年以上、映像などのアクセシビリティを推進するキーマンだったが、ついにベライゾンに移ったのか。TeachAccessは昨年、アクセシビリティに関心のある全米の学生たちをシリコンバレーに呼んでアクセシビリティ開発の現場を見せるキャンプやワークショップを行ったそうだ。どんどん進化している。アクセシビリティの開発は、障害とそのアクセシビリティニーズへの理解を始め、関連する多くの法制度、かかわる支援技術、ユニバーサルデザインの実現方法など、多くの知識と経験が求められる。セッションでは、必要とされるポジション5000人に対し、実際に仕事のできるアクセシビリティスペシャリストは5人しか育成されていないというデータが示されていた。
(必要とされる人数に比べ専門家は不足 (当事者のニーズを話し合いながら探る
日本ではニーズすら認識されていないので、育成どころではないのだが。デザインやコンピューターを専攻する多彩な学生たちをシリコンバレーの各社に連れて行って、障害のあるエンジニアたちと交流しながら、社会のニーズや最新技術について学ぶワークショップの模様は、見ているだけでも楽しそうでわくわくした。インターンシップの一環ともなり、雇用に結びついてもいるのだ。日本でもいつかこのようなプログラムができると良いなあ。

次にOrCamのセッションに行く。視覚障害者でもカーレーサーになれる!という過激な展示をしていたイスラエルの企業である。視覚障害者に特化したWearableコンピューターで、メガネにつけるとても軽い機器を指で触って動かす。目の前の情報、例えば資料やメニューを写真に撮り、OCRで読み取って、その場ですぐに音声で読み上げてくれるのだ。多言語対応なども進んでいたのだが、今年は音声コマンドの追加や、バーコードの読み上げなどの機能が追加されていた。
(眼鏡のつるにかけられる軽さ (展示会場のマシンは目を引く
この製品は、昨年、日本でもKGS社が紹介しており、日本でもかなり人気だったそうだ。私もその後、展示会場で少し試してみたが、カメラの精度がかなり高く、自動シャッターでターゲットを捉える能力が高いので、実用になると思った。以前、GoogleGlassが目指していたような、視覚、聴覚、肢体不自由など、ユニバーサルな用途に使えるというものではないが、これはこれで非常に面白い。今後、日本での展開が待たれるところである。

次に行ったのが、FCCが推進しているDirect Video Callingのセッションである。これは聴覚障害者がインターネット上のビデオコール、いわばテレビ電話を呼び出せるというものだ。かつて、FCCは、電話でのTDD、すなわちテキストと音声をリレーするサービスを推進していたが、それをネット上で、手話も可能なビデオのリアルタイムサービスに変えていくということだ。
(手話ユーザーを支援するビデオ電話) (ネット上の画面例)
ACE(Accessible Communication for Everyone)というプロジェクト名で、ビデオ、テキスト、音声、ビデオメールなどをやりとりするプラットフォームである。これまで、聴覚障害者が110番や119番に電話しても、いたずらと思われ切られてしまうことも多かった。企業の顧客サービスに電話をかけても、なかなか意思を伝えにくかった。だが、これを使って手話通訳者などを介せば、さまざまな場面での意思疎通が可能になる。手話が、一つの言語として正式に認められてきたことの証拠である。ネットでも、画面付きの電話でもよく、使える機器は多岐にわたる。役所や図書館、駅や空港のインフォメーションサービスなど、どこででも使える。政府が開発しているこのオープンプラットフォームは、電話会社も無料で利用できる。このようなプロジェクトを、FCC、日本でいえば総務省自身が起こしていることが、大変羨ましかった。日本でもぜひ検討してほしいものである。

今年は、聴覚障害に関する情報保障のセッションが多い気がする。今年の特徴なのだろうか?それとも、これまで私が気づいていなかっただけなのかもしれない。かつては、車いすの方が非常に多く居た。次第にそれは当たり前になり、視覚障害に対する情報保障がメインとなった。今年は、聴覚に対する情報やコミュニケーションの保障が、トレンドなのだろう。日本でも手話条例や情報コミュニケーション条例が増えているが、まだまだアナログだ。ICTが貢献できる分野としての、多様な情報保障が、今後も各分野で進むことを期待したい。

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3月15日(EUの動向、508条のカバーする範囲など)

この日の朝のセッションは、EUのアクセシビリティ動向だ。これまでEU Accessibility Directiveとして方針が出されていたが、ついに法制化されることになったのだ。実はこの翌日、3月16日にEU議会を通り、EAA(European Accessibility Act)として成立した。これから各国は国内法の整備を進めることになる。

内容的にはこれまで聞いたことが中心だったが、おかしかったのは、パワポを一枚めくるたびに、会場内から、それ違う!と異議申し立ての声が上がることだった。どうも、この資料を作ってからも、どんどん動いていたらしい。そのうち、他の人が、「講演者にまずしゃべらせろよ!」と突っ込んだりして、CSUNらしかった。ま、詳細は法律が出てから確認しよう。いずれにしても、日本はこのような法律を作る気はないし、ニーズすらまだわかっていないはずである。

おなじ部屋で508条のアップデートもあった。508条はICTの公共調達をアクセシブルなものに限るという法律だが、このカバー範囲は、今では映像、ネット上の動画、ヘルスケア製品など、非常に幅が広がっている。このセッションでは、何がどこまでカバーされるのか、QA方式で答えていた。日本では考えられないことだが、工場やオフィスの制御機器も、アメリカでは当然、508条の対象である。音声読み上げや、拡大などの機能を備えていなくてはならないのだ。ARも、VRもだ。GISなどMap系もできるだけUDにしなくてはならない。各産業界の人々や、行政の調達担当者が、何をどう学べばいいかという情報なども、詳細に紹介されていた。
(508条は工場の機器も対象?! (ARやVRも???
作る側も、買う側も、届ける側も、全て、アクセシビリティは、恩恵などではなく、前提である。その上で会話されていることが、少し羨ましく、悔しくもあった。ま、これはいまさら、ではある。

今回、なつかしい人にもたくさん会えた。CSUNのこのカンファレンスの創立者、Harry Murphyに挨拶できなかったのが悔やまれる。キーノートのとき、遠くで見かけたのだが、どこかでまた会えると思って挨拶にいかなかったのだ。毎年、しっかりハグしてくれたのに。WGBHにいたLarry GoldbergはVerizonに移っていたし、Sun MicroにいたPeter CornはAmazonでアクセシビリティの専門家として活躍している。夕食に行ったレストランでもばったり会った。日本IBMからUS IBMへ転職した浅川智恵子さんにも、ちゃんと会えた。
(US IBMへ移った浅川さんと)
日本でも年に数回しか会えてないのだが、ここでは会える。みんな、25年くらいのつきあいだなあ。産業界の変遷を感じる。

午後からはツアーメンバーの野澤さんなどと一緒に展示を見て回った。
(ツアーメンバーの一部と)
OrCamはもちろん面白いし、よく訳の分からない画像認識などもあって、本当に玉石混交なのだけど、それもCSUNの展示の面白さである。私としては、メガネの中に透過型で手話が映し出されるシステムが面白かった。授業や実験、議会での傍聴などに使えそうである。どこかの展示で数十か国語に同時変換できるというので、日本語で「CSUNはなかなか面白いです」としゃべったら、シーサンという4文字熟語を認識してくれず、「じいさんはなかなか面白いです」と表示され、可笑しかった。

今回、アナハイムに会場が変わったこともあり、最初は少しとまどったが、慣れてくるとこのパターンも悪くないと思うようになった。全部がフラットなので上下移動がなく、車いすユーザーには楽である。ただ、教室の名前が同じもののナンバリングなので、視覚障害者には探しにくかったかもしれない。私としては、とても治安のよいアナハイムなので、学生を連れていくには最適だと思った。ディズニーも近いので家族で参加できる!最後に行ったレストランでは、大谷翔平がよく来るらしく、ウェイターさんがツーショット写真を見せてくれた!
(大谷翔平もよく来るというレストランで)
Uberも多いので、これが使えれば、移動には全く困難がない。参加者はUberアプリをダウンロードしていくといいだろう。この便利さを一度使うと、絶対日本でも欲しくなる機能である。

今回は、なかなか全員が揃う機会がなかったが、相変わらずの自由なツアーだった。毎晩、遅くまで関根部屋で集まってくれた。CSUNで見聞きしたさまざまな技術や、制度や、人々について語り合い、これからの日本をどうすべきか、考える数日間だった。年に一度は、このカリフォルニアの青い空を見たくなる。一人でどんどん進んでいく全盲や電動車いすの人々を見たくなる。そのために、毎年、このツアーを続けているんだろうなあ。
(出発の朝、皆さんお疲れ様でした)

参加者のみなさん、本当にありがとうございました。

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(番外編 その2)LAXに見る空港のUD

久しぶりに行ったLAXの空港も、かなり変化していた。トイレが、もはや車いす利用者用ではなく、すべて「All Gender」表示に替わっていて驚いた。
(水飲み場は奥に入っていてぶつからない) (車いすトイレかと思ったが・・・) (サインはAll Genderに替わっていた)
内部は、かなり広く、おむつ替えシートもある。
(中はアクセシブルでおむつ替えシートも)
異性介助や男性で赤ちゃん連れの方も使えるし、LGBT対応でもあるのだろう。車いすユーザーとしては、男女それぞれの個室すべてがもともとかなり広いため、普通に列に並んで順番に使える。たった一個の車いすトイレを待たなくていいので、これもUDかもしれない。

ピクトグラムなどのサイン計画は、空港全体を通じて統一感があり、迷いにくい。また、発着ゲートなどの変化する情報は、デジタルサイネージで時々刻々と変化するボードが各所にあり、多言語対応もあって、情報を得やすくなっている。
(デジタルサイネージがあちこちに) (この大きな広告もデジタルサイネージ!)

今後、オリパラを控える日本の各空港も、より一層UDを進めなくてはと思った。

 

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