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障害者権利条約の政府公定訳案に反対する

 政府は、2006年12月13日に第61回国連総会において採択された「国連障害者の権利に関する条約(英語)」の公定訳を作成し、国会上程、批准する準備を進めています。現在公にされている和文は外務省仮訳と呼ばれるものですが、これ以外に民主党の谷ひろゆき議員が外務省から入手した検討中のもの、いわゆる「2009年雛祭バージョン」があります。現時点の最新版であるこの「雛祭りバージョン」には、次のような問題があり賛成できません。

  1. ICT(Information and Communication Techology)の訳が「情報通信機器」になっています。日本のIT戦略本部など、どの省でも、あき らかにこれはITと同義であって「情報通信技術」と訳 されています。「機器」には、 ソフトウェアやコンテンツ、ネット上のサービ スなどを含めることができません。ハードウェアだけが対象になるのは、絶対避 けるべきです。 また、文脈から機器に統一した、という説明もあるようです が、本文の「ICTとシステム」という文脈の中であっても、テクノロジーは技術 と訳すべきです。ハード、ソフト、アプリケーション、コンテンツなどの個々の 技術要素がテクノロジーで、それらを選択して一連の流れに組んでいくことがシ ステムだからです。 また、ユーザーが使うのは機器だけだからという意見もありますが、センサーな どが増える今後のユビキタス情報社会においては、目に見える機器だけをユー ザーが使うとは言い切れません。21世紀に通用する訳文をお願いしたいです。
  2. AT(Assistive Technology)の訳が「支援機器」に なっています。これも1990年ごろから広く 「支援技術」という用語が使用されてきました。これもハードウェア、ソフトウェア、及 び サービスが揃ってこその「技術」です。たとえばDAISYも、 機器だけでな く、ソフトやコンテンツがあって初めて役に立ちます。 ATは80年代においては 車椅子などの機器を指す用語でしたが、90年代以降はさまざまな技術を示す、よ り広い概念になっています。これも、時代にあった訳語をお願いします。
  3. アクセス、アクセシビリティといった言葉が全部置き換えられています。 インターネットにアクセスする、という一般的な言葉は、そのまま残すべきです。「利用する機会を有する」などという言い回しに置き換わっていますが、 本来は当事者が主体的にアクセスする権利を定めたもので、誰かに与えられるものではないはずです。「アクセシビリティ」も同様です。 今回、ユニバーサルデザインはそのまま残ったのに、「アクセス」「アクセシビリティ」が消えたのは大変残念です。海外ではあまりにも一般的な用語であるため大量に使われすぎていて、却って消されてしまいました。

川島聡氏(元新潟大、現東大)および長瀬修氏(東大)が最初に訳出したもの、外務省仮訳、雛祭りバージョンを比較してみてください。特に第9条などを参考になさってみてください。

なんとか、この3点に関しては修正すべきであると考えています。

みなさん、どうか力を貸してください。

この件に関するご意見をお寄せください。メールアドレス unc-opinion@udit.jp までお願いします。(@を半角に変えてください)

2009年5月28日
株式会社ユーディット 代表取締役社長 関根千佳

関係者からのご意見

1〜3の反対意見に対して全面的に賛成いたします。
文脈に適合し、かつ一般化している用語の原則に従って訳すことを強く希望します。

川島さんが新潟大学所属のとき、この条約について何回か勉強会を開催し、私もそれに参加しました。そのときtechnologyを「技術」・「機器」と文脈に合わせて使い分けたらどうか、という議論になった記憶があります。しかし、「技術」が全面的に「機器」に変わるというのは考えてもみませんでした。

林 豊彦 工学博士,歯学博士
新潟大学 教授 自然科学系
大学院自然科学研究科 人間支援科学専攻/情報理工学専攻
工学部福祉人間工学科(副学科長,学科就職担当)
人間支援科学教育研究センター長
新潟市障がい者ITサポートセンター長
URL: http://atl.eng.niigata-u.ac.jp

おっしゃる通りですね。 
どうしたらよいか、背景が分からないので、 どうしたら逆効果にならない手立てがあるのか、知恵がありませんが関根さんの意見を強く支持します。 

市川 熹 (あきら) 
早稲田大学 人間科学学術院 教授 
千葉大学名誉教授

テクノロジーに直面するプロダクトデザイナーの立場からみても、 「テクノロジー」を「機器」とわざわざ限定されるように訳すこと には違和感と時代錯誤を感じます。 従来「機器」を中心に扱ってきた私たちプロダクトデザイナーに とっても、ある目的を果たすために「機器」についてのデザインを 行うだけではもはや不十分で、ソフトウェアやサービスに関する 理解や計画、広域な分野の協力者との連携が不可欠です。 この条約は障がいの有無にかかわらず、我々国民すべての権利に関する 大変大事な条約だと思います。 批准のための訳には、この分野に詳しく、熱意のある国民の意見が もっと広く反映されるべきです。

松田 崇(プロダクトデザイナー/NECデザイン&プロモーション)