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3月19日 プレコンファレンス リハ法508条

登録をすませて最初のPreConferenceに向かう。「リハビリテーション法508条の実現」といえばいいのか、2001年6月21日に施行されるこの法律の内容と、その影響についてほぼ1日かけて説明が行われた。
リハビリテーション法は、最初は1973年に制定され、その504条などはADA(障害を持つアメリカ人法)の成立に大きな影響を与えている。その後1986年に追加された508条は、IT産業のアクセシビリティの進化に大きく貢献した。これは、政府の調達基準を定めたもので、連邦政府が調達するIT機器は、障害を持つ職員や顧客が使えるよう、アクセシブルでなければならないというものである。この法律はこれまでは強制力をもつものではなかったが、1998年に改正され、政府が購入するIT機器はこの法律に遵守していないと「買ってはいけない」ということになったのである。連邦政府もIT産業界も蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、指針は?チェックリストは?実際に実現している製品は?違反したときの対応は?と多くの議論がなされてきた。 今回、セッションをしきるのは、おもに3名である。アクセスボードで最も影響力のある視覚障害者、Doug Wakefield, Department of Justice(司法省)からはいかにも優秀なLawyer、Ken Nakata(日系人だろうか?)、そしてDepartment of EducationからはAssistive Technology Programの責任者Joe Tozziである。会場にはInclusive DesignのJim Tobias, PSINETのCynthia Waddellなど、この業界の錚々たるメンバーが揃っている。

日本でもいくらか文献は読んできたのであるが、やはりアメリカ国内で聞くと508条の影響は無視できないと感じる。全米に存在する政府の調達関係者は本当に必死である。無理もない。支援技術の専門家であったわけでもないのに、あと半年で、買うものはすべて障害を持つ職員や市民に使えるように、と言われても、どうしていいかわからないだろう。午前中は何を買えばいいのか、という調達関係者の質問が相次ぎ、国の調達基準の番号などがとびかったため、話についていけなくて難儀した。

プレセッション風景
午後になると少しテクニカルな会話も混じってきた。私がよく理解していなかったことの一つに、この調達はTech Actのファンドを受けている機関がすべてこの法律の統制下に置かれるということがある。このTech Actとは障害者を受け入れるための予算措置で、全米の大学や障害者支援にかかわる組織がこの基金を受け取っているはずであった。今回、大学やAFBなど、多くの団体が508準拠、というセッションを出している意味を、私はおそまきながら理解した。508条は政府の買うパソコンやWebだけではない。全米の大学や多くの組織が、そのWebサイトをアクセシブルにしたり、共用のコピーを障害者対応にしていく義務を負うのだ。なんという大きな市場の変化になることだろう。教育省が必死になってアクセシビリティのサポートセンターを開設したのも、自分の省の問題だけではないからだ。かかわる部分が膨大だからである。 
購入する方も必死なら、作るほうも大変だ。各メーカーは508対応専門家を置いて、デザイナーや開発部門の教育に余念がない。6月21日以降はアクセシブルでなければ売れないのだ。USのこのような会社はまだアクセシビリティに理解があるからいいが、いったい、日本の企業はこれからどうやってこの3ヶ月のあいだにデザインを変更できるのだろうか?社内にATの専門家も508条コーディネーターもいないのに。非関税障壁になることを、まだ日本は国も企業も理解していない。 

夕方、初めてツアーのみなさんと会って夕食となる。なかなか楽しそうなメンバーだ。年齢も障害も立場も支援技術への経験も、さまざまな人が一同に会する。それこそ、多様性を絵に描いたような組み合わせ。会社の中で同じような年齢、同じような背景の人々としか会っていないと、見えなくなるかもしれない人間の多様さを、こういったツアーが補ってくれると嬉しい。わたしもオフィスというか、家にこもるより外へ出て人に会おう。なんだか良い仲間に恵まれたような気がしてきた。


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