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地平線を越えて:ICT革命とユニバーサル社会

要旨

情報通信製品で使用される技術は、かつてない速度で進歩している。機器はより小さく、軽く、安く、そして高機能になってきている。電子技術がほとんど全て のものに組み込まれ、多種多様な製品がプログラマブルになったおかげで、製品はより柔軟に対応できるものになった。コンピュータの処理能力は急激に増大し ている。スーパーコンピュータで1年かかる処理が15年後には子供のゲーム機でできるようになるだろう。

障害者が使っている技術に影響を及ぼす多くの新しい技術のトレンドがみられるが、特にICTに影響を及ぼすと思われるのは次の四つである:

  • コンピュータの処理能力が、サイズとコストを減少させながら増大していること
  • バーチャル投影インタフェース、音声入出力、直接脳制御インタフェース、マルチモーダル・インタフェース、仲介者の役割を果たすことのできる人口 知能エージェントなどの分野における、新しいインタフェースの研究
  • ユビキタスな接続とネットワークサービス。その中には、人を支援したり、人の能力を拡張したりすることのできる、人やサービスとの常時接続が含ま れる―こうした接続やネットワークサービスは、近い将来にウェアラブルかあるいは、服の中に直接組み込まれるような技術によって実現されるであろう。
  • 人が「サイバースペース」の中で買い物し、探検し、学び、旅行し、人と交流し、働くことを可能にするためのバーチャルな場所、サービスプロバイ ダ、そして製品の創造

新しくもたらされる可能性

これらの技術の進歩は、障害を持つ人の日常生活(仕事、教育、旅行、娯楽、健康管理、そして自立した生活など)の改善に様々な可能性をもたらすものであ る。

主流製品を、よりアクセシブルにすることは以前よりも容易になってきている。技術の進歩によってもたらされる主流製品の柔軟性と対応性によって、製品に直 接アクセシビリティの機能を組み入れることは、より実用的で費用対効果の高いものになるであろう。そして多くの場合、一般市場に対し訴求効果の高いものに なるであろう。今まで製品は徐々に複雑なものになってきていたが、鍵となる技術の進歩によってこの傾向を逆転させることが可能となり、製品は単純化するで あろう。接続のしやすさと相互運用性の改善によって、UD製品の標準的なインタフェースを操作することが難しい重度または複数の障害を持つ人々は、彼らの 能力に合ったパーソナルなインタフェースを持つ機器の利用を通じて、こうした製品を使用することができるようになるであろう。

支援技術(AT=assistive technologies)は、技術の進歩につれて、よりコストが低く効果的になるだろう。しかしながらもっと重要なのは、様々な先端技術の出現によっ て、全く新しいタイプのATの開発が可能になることである。その中には、言語や学習、およびある種の認知的な障害を持つ人の要求に、より的確に答えられる 技術が含まれる。以前は不可能であった、新しい“インテリジェントAT”の可能性は高まっている。感覚や認知に障害を持つ多くの人々にとって知覚や理解が 難しい情報を、翻訳や変換の技術によって、こうした人々が使えるかたちにして提供できるようになるだろう。人の能力を増強する技術によって、一部の人の基 本的な能力を増強できるようになり、彼らの向き合っている世界によりよく対処できるようになるであろう。また技術の進歩によって製品のサイズは小さくな り、コストが下がるので、運んだり、身に付けたり、場合によってはより簡単に取り替えることができるようになるであろう。支援機器は、かつてはそれがなく なるかもしれないという怖れから使ってみようとも思わなかった人々にとっても、利用可能で使いやすいものになるだろう。

バリア、懸念、課題

アクセシビリティの改善に大きく貢献しそうな多くの技術的進歩はまた、障害者にとっての新たなバリアを生み出す可能性も持っている。アクセシビリティに問 題を引き起こしている、いくつかの新しい技術のトレンドを、以下に示そう。

  • 機器の操作は、より単純になる前よりもむしろ、より複雑になり続けるだろう。このことは主流のユーザーにとっても既に問題なのだが、認知的な障害 を持つ人々や加齢のために認知能力が低下している人々にとっては、さらに重大な問題である。
  • デジタル制御の利用の増加(例えば、ディスプレイやタッチスクリーンなどと共に用いられるプッシュボタンなど)は、全盲の人、認知やその他の障害 のある人々にとって問題を引き起こしている。
  • 製品の小型化は、身体または視覚に障害を持つ人々に問題を引き起こしている。
  • デジタル著作権管理やセキュリティ上の理由から、システムが閉鎖的になる傾向がある。そのために、個人が機器をアクセシブルにするために改造した り、したり、機器にアクセスできるようにATを取り付けたりすることが妨げられてしまう。
  • 自動セルフサービスの装置の増加は、特に無人の場所では、ある人々にとって問題であり、また絶対的なバリアになることもある。
  • 対面での対話が減り、eビジネス、電子政府、eラーニング、eショッピングなどが増えているため、インターネットで提供されるサービス環境にアク セスできない人々にとっては、利用できない日常的なサービスが増えてきてしまっている。

さらに、新しい技術が製品に使われることによって、現在使われている支援の方法や戦略が使えなくなる。主流技術のめまぐるしい変化は、製品が次々と入れ替 わることを意味するのであるが、この変化があまりに速いためAT開発者はこの速度についていくことができない。あるグループの人にとって、たまたまアクセ シブルであった主流の技術でさえも、あっという間に市場から姿を消してしまうのである。さらに状況を複雑にしているのは、機能を集約すると、実装方法が多 様になってしまうことである。以前は別々のデバイスで実現されていた複数の機能を、一つの製品で実現するようになってきているが、こうした「集約」された 製品が機能を実装する際に、異なった、(またたいていは互換性のない)標準や方法を使っていることが多い。これは、標準や基準が弱いか存在しない場合、 ATと主流技術の間の相互運用性に対して悪い影響を与える。従って、何らかの措置を講じなければ、主流技術を使った製品と、それをアクセシブルにするため に必要なATとの間の隔たりは大きくなり、アクセシブルにすることのできない技術が増加するであろう。

もう一つの懸念は、技術が進歩すると機能や製品の種類が、既存の規制の範囲を超えてしまうことである。例えば、電話機が公衆交換電話網(PSTN)からイ ンターネットに移行した際には、アクセシビリティに関する規制はその移行についていくことができなかった。人々は同じ電話機と同じ家庭用配線を使って、同 じ人々(多くの場合はPSTNを使っていた)に電話をかけていたにもかかわらず、FCCは、インターネットは情報技術であり、アクセシビリティに関する規 制は遠隔通信にしか適用されないと決定したのである。FCCは最近、IPサービスに対していくつかの遠隔通信政策を実施したが、アクセシビリティの保障を 要求する政策を含む多くの遠隔通信政策は、新しい技術には対応していない。適用されたIPサービスとしては、E911への対応、電子機器を用いた監視、ユ ニバーサル・サービスの基金への拠出等がある。現在、IPTV(Internet Protocol Television)の製造業者は基本技術の中に会話機能を入れることを検討しており、こうした「電話」に遠隔通信に関するアクセシビリティが適用され るのかという疑問が提起されている。アクセシビリティが旧式の技術と関係している場合、こうした技術は多くの場合は複数の新しい技術で置き換えられること になり、アクセシビリティに関する要求はしばしば遅れるか、適用できないとみなされてしまう。ADAが起草された後に、教育や販売などの活動がインター ネットを使うようになったため、こうしたインターネットを使った活動はADAの中では言及されていない。これは、政策が技術に追いついていないもう一つの 例である。著作権と、デジタル著作権管理(DRM)に関係する新しい技術もまた、政策が技術に追いついていない例の一つである。
政策が、技術と製品の進歩についていくことができないという問題は、しかしながら、アクセシビリティに関する規制に影響を与えるだけではなく、その範囲を 超えて影響を及ぼす。資金調達と受給資格の問題にも影響があるのである。その結果、障害者は自分たちの環境や活動では使えなくなってしまった古い技術を使 い続けなければならないことがしばしばある。

最後に、アクセシビリティに関する「ビジネスケース」の重要性は、より広い視点で認識されるべきであろう。本報告は、新しい技術と、それらがどのように障 害者の役に立つかということを主に論じている。これらの技術は、製品に組み込まれ、入手できるようになり、サポートされなければ、障害者の役に立つことは できない。そして、信頼できる形で、継続的にこれらのことを実現するためには、企業がそれぞれの新しい機能に対してビジネスケースを作ることが可能でなけ ればならない。製品が市場に出回り、市場に残ることができる主な理由は、純利益をあげられることであり、それは構想が異なるバージョンの製品に引き継がれ る主な理由でもある。これは障害者の問題に限ったことではない。全ての製品に当てはまることなのである。我々の社会がアクセシブルで、障害者が使うことが できる製品を市場に出すことを目指すのであるならば、アクセシブルな製品のほうが、そうでない製品よりも企業に大きな純収入をもたらすような仕組みが必要 である。

アクセシビリティ機能や性能が主流の市場に対して大きな魅力を持ち、アクセシビリティ機能を取り入れた方が、同じ努力を他のことに費やすよりも、より大き な投資利益を上げられる場合には、市場の力だけでもアクセシビリティ機能や性能は製品やサービスに組み込まれるようになる。こうした事例を特定し、奨励す べきである。そうでないアクセシビリティ機能は、純利益をもたらすような効果がなければ、どんなに安くても、主流製品に組み入れられなかったし、これから も組み入れられることはないであろう。利益を拮抗させるために社会的な価値を含めるよう規制を使うこともできるが、製品がアクセシブルである場合に収益が 上がり、そうでない場合には下がるような形で強制力を持つ場合にのみ有効である。「Pull型:引っ張る」規制(すなわち、市場を作り、アクセシビリティ に対して見返りを与えるような規制)は、一般的に、「Push型:押さえ込む」規制(すなわち、規制基準に適合することを求める規制)よりも有効である。 しかしながら、アクセスを可能にし、障害者の完全なインクルージョンを実現する社会政策を構築するためには、両方の種類の規制が必要である。強制力がなけ れば、どちらの種類の規制もうまくいかない。強制力は、製品をアクセシブルにしようとしている企業に対して、機会の損失ではなく、公平は競争の場と見返り をもたらす。こうした強制力が機能するためには、テストが可能なアクセシビリティの基準と、それらの基準に照らし合わせてテストされる製品がなくてはなら ない。

課題解決へ向けたアクション

以下では、これらの課題を解決するための七つの一般的な取り組み事項を提案し、議論する。

  1. ATをできる限り有効に利用できるようにするとともにコストは下げること-  人々の一般的な能力を最大限に引き出し、自立を可能にするためであ る。鍵となる戦略は、市場で入手できるようになるまで、結果重視の研究開発を推進することである。
  2. 障害者や高齢者が標準的な製品をすぐに使えるように、主流の情報通信技術を使った製品のアクセシビリティをできるかぎり高めること。鍵となる戦略 としては、アクセシビリティ分野への理解を促進するために、研究、考え方の裏づけ、主流製品のアクセシブルなデザインを実現するための方法の強化に対して 財政的な支援を増やすこと、また、利用者がビジネスケースを構築するのを支援するために、アクセシビリティに関する規制を作ることがあげられる。
  3. 公共施設の物理的な場所へのアクセシビリティが保障されてきたように、インターネットや他のバーチャルな環境へのアクセシビリティを保障するこ と。
  4. デジタル著作権管理(DRM)によってもたらされたデジタルメディアへのアクセシビリティの新しいバリアに立ち向かうこと。その際には、映像に関 する権利と、音響に関する権利が別々に売られている場合も含めること。
  5. ICTのアクセシビリティに関連する全ての政策は、ビジネスケースの重要性を認識した上で構築すること。市場の力だけでは安定したビジネスケースを実現で きないときには、アクセシビリティに関する規制と、それを守るための効果的なメカニズムを作ること。すなわち規制を遵守する場合には明らかに利益が上が り、しない場合には不利になるような仕組みである。
  6. アクセシビリティの法と規制を作るときは、テクノロジーに特化するのではなく、デバイスの機能に基づいて作成すること。どうすれば標準に十分に適 合できるかということに関する明確なガイダンスを提供すること。また最低これだけは譲れないという基準を設けることにより、技術の進化に際しても、評価可 能な要望を入れることを許すこと。国際的に販売される製品のために、可能な限り、法や規制を、他の国々のものと協調させること。
  7. アクセシブルな主流技術[AMT]と支援技術[AT]に関する最新の情報が、一般の人々から入手や利用が可能であることを、保証すること。

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