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地平線を越えて:ICT革命とユニバーサル社会

新しい可能性

ICTの進歩は、障害を持つ人々の仕事、教育、旅行、娯楽、健康管理や自立生活を含む日常生活の改善に、新しい可能性をもたらすだろう。また、企業はこれ までより少ない努力で、よりアクセシブルな主流の技術を生み出せる可能性が大きい。同様に、既存のATに比べてより良く、より安く、より効果的なバージョ ンのATや、全く新しい種類のATを創り出せるかもしれない。

可能性1:よりアクセシブルな主流製品(よりシンプル、より適応可能で、かつ主流ゆえの利点のより多いもの)

主流製品のデザイン改良は、これまでのトレンドを継承しつつ、改善されていく場合も多い。だが、製品によっては、革命的な変化をもたらすものもある。主流 製品の本質まで変化させ、異なる種類の障害者に使えるようになることもあるのだ。いくつか例を挙げよう。

より内蔵されてゆくアクセシビリティの可能性 今日では携帯電話、目覚し時計、電子レンジ、オーブン、洗濯機、サーモスタット等を含むほとんど全てのものが、一つまたは二つ以上のマイクロコンピュータ によって制御されている。テレビのリモコンのような小型の装置でさえ、マイクロコンピュータが内蔵されている。ほとんどのものが、ますます処理能力が大き くなるマイクプロセッサのプログラムによって制御されており、それは将来も増えていくだろうと予測されるため、ユーザーごとに異なる指示に従ったり、異な る動きをしたりする製品をデザインすることも今では可能になったのである。様々な製品が既に障害者に配慮して調整できるようになっている。例えば、携帯電 話には、大きな活字を表示する設定が付いている。コンピュータは震えのある人々が操作できるよう、調節可能になっている。人々は今ではテレビ視聴時に、字 幕の有無を選択できる。多くの郵便局の自動郵便センター(訳者注:郵便機能を持つATMのような機器)にはタッチスクリーンや触覚ボタン、音声読み上げ機 能が備わっている。家庭や職場、公共の場所等で使われるより広範囲の製品を、ユーザーのニーズに合わせて作り出す能力はますます増加し、同時にコストは下 がっているのである。例えば、音声読み上げはもはや重大なコスト要因ではなく、ハードウェアのコストをほとんど、または全くかけずに、機能を加えることが できる。

より簡単に使える製品 今日の傾向として製品は非常に複雑になってきているが、我々はヒューマンインタフェースにおける革命の先端に立っている。非特定話者で声を認知したり自然 言語処理をしたりする能力は、将来はより進むであろうし、これらの技術を特定話者の範囲で(例えばコントロールされた家庭の電化製品で)実際に使う機能は すでに出現している。そのような製品では、して欲しいことをただ話しかけるだけでいい(例えば「これを華氏450度(摂氏約230度)で1時間調理して」 とか、「ワイルド・キングダムを録画して」とか、「8時30分に起こして」とか)。その機能は、認知障害がある人々、そしてさまざまな理由で製品のボタン やメニューなどを使えない人々にとって、すばらしい進歩になる。このような機能は一般の人にとっても魅力的であるため、市場に出せる状態になれば自然に売 れるであろう。話すことのできない人々のためには、テキスト入力あるいは音声出力する機器が使われるだろう。

相互運用性:内蔵されたダイレクトアクセスの必要性を減らすために ダイレクトアクセス とは、ユーザーがATを必要としないで製品を操作する能力のことである。ダイレクトアクセスを製品に組み込むことは、通常、最も効率的で、最も肩身の狭い 思いをしなくて済み、最も利用でき、最も安価に、さまざまなタイプの障害を持つ人々が製品にアクセスできる方法である。しかし時には、他のタイプの障害を 持つ人々、特に、複数のあるいは重度の障害を持つ人々にとっては、主流製品にダイレクトアクセスを組み入れることが実用的ではないこともある。点字ディス プレイや電極、車椅子に取り付けられたセンサーといった、必要とされるインタフェースのいくつかは、典型的には主流製品に標準的な部品として含まれること はない。このような人々にとってはおそらく、標準化された内部接続と制御方法により特別なATインタフェースを使って、主流製品にアクセスすることが最も 良いアプローチであろう。つまりこのような人々には、特別なATインタフェースの装置を持つことが求められるということになる。

新しく出現しつつあるワイヤレス相互接続技術や、さきほど述べられたユニバーサル・リモート・コンソール(URC)によって、装置へのアクセスに特別なイ ンタフェースを必要とする人々が、各自のインタフェースから、装置につながり、それを操作することが可能になる。家庭や職場、コミュニティにおいて、サー モスタットからオフィス機器に至るまで、ほとんど全ての装置が対象になるのだ。URCは、点字ピンディスプレイや呼気吸気スイッチ、自然言語インタフェー ス、そして将来的には脳直接インタフェースのような、あらゆる現在と未来のATを含むだろう。主流製品におけるこのような接続方法は、音声や知的エージェ ントによって製品の制御を可能にするといった、一般市場に訴求するアプリケーションとなりうる。

柔軟な 「あらゆる形態での」コミュニケーション マルチモーダル・コミュニケーション(声、ビデオ、チャット)が全て一つの装置でできるという傾向は、感覚障害をもつ人々、とりわけろう者、難聴者、聾盲 者、発話障害者にとって恵みとなるであろう。もし、マルチモーダル・コミュニケーションが、テレビの字幕のように主流技術の全てにあまねく可能になった ら、ろう者や難聴者は、ほとんど全ての電話機を使えるようになるだろう。ろう者は、テキストモードを使える。聴覚に障害があっても話せる人は、話す時には スピーチを使って、返ってきた文章を電話機のディスプレイ上で読むことができる。難聴者は聴くこととテキストの表示を、同時にも、また内容が理解しがたい 場合にも、行うことができる。コミュニケーションを容易にするために、手話で話す人々は手話が使え、認知障害のある人々は身振りや視覚的手がかりを使うこ とができる。進化しつつあるモダリティ翻訳の可能性が加われば、ネットワーク上のサービスは、コミュニケーションの形態を、必要に応じて変化させることが できるであろう。遠く離れた誰かとコミュニケーションをするほうが、顔を合わせるコミュニケーションよりも容易になるかも知れない。これらの機能を主流の 技術に組み入れることはまた、特別な技術を利用することに対して感じる肩身の狭さを軽減することになるため、加齢と共に障害を持つようになった人々が、こ れらの形態を選んだり利用したりする際に、多大な助けとなるであろう。

このような進歩が主流となる利点を示すことができれば、この技術は容易かつ迅速に採用されていくだろう。そして、クローズドキャプション(テレビ字幕)の ように、消費者に要望され、ユニバーサルに受け入れられていくだろう。しかしながら、ユニバーサルに利点があるとして紹介され使い続けられるアクセシビリ ティ機能は、それほど多くないかもしれない。残りに対しては、サポートやインセンティブが、なお提供される必要がある。

可能性2:より良い(より安く、より効果的な)ATと新しいタイプのAT

技術の進歩は、現在のATの改善と全く新しいタイプのATの出現へとつながるだろう。これらの技術のいくつかは、今日実現されつつある。いくつかは、将 来、出現するだろう。しかし政策を決める際には、そのような技術の全てが考慮されるべきである―というのは、技術に比べると政策が変わるのは大変時間がか かるからである。

コスト、サイズ、能力 電子デバイスが、サイズは小さく能力は大きくと、毎年急速に進歩していることは、より小さく、より安価で、よりインテリジェントな製品を作り出すことにつ ながっている。このことは、全く新しいATを作り出す、より多くの機会を与える。かつてそれはサイズが大き過ぎたり消費電力が多すぎたりしたものであった のだが。

高価ではない技術 認知障害のある人々が自分用の技術を使うときに心配なことは、失くしたり盗られたりしないかというリスクである。中心的な機能がネット上のサービスとして 組み込まれ、技術にかかるコストが劇的に下がれば、認知障害のある人々のための、会話を支援できるポータブルな装置やその他のATは、近い将来それ程高く なくなり、紛失しても簡単に取り替えることができるようになるであろう。こんな価格にたどりつくためには、しかし、デバイスは普通に使われる主流デバイス を元にしたものでなければならない。音声および自然言語処理技術や知能エージェントソフトウェアが改善されるに従って、主流製品で、このように使われるも のが、今後10年のうちには出現しているだろう。

ウェアラブル技術 ウェアラブル(身につけられる)技術の進歩によって、障害を持つ人々は機器を持ち歩く必要がなくなり、自由になった両手で、他のことができるようになるだ ろう。このことは杖や歩行器、介助犬などを利用する人々はもとより、もっと一般的に片手しか使えない状態の人にも、大きな助けとなるであろう。機器の存在 を覚えておくことが困難で、ともすればどこかへ置いてきてしまうような認知障害を持つ人々にも、この技術は恩恵をもたらすだろう。ネットワークを使った サービスでは情報や記憶をネットワークに蓄えておくことができるため、新しい装置が導入されても、プログラム不要で以前使っていた装置が残した最新の状態 を引きつぐことが可能になるため、経費を削減することができる。最新のコミュニケーション技術や健康モニタリング技術は、今や腕に巻いたり衣服に織り込ま れたりしているので、置き忘れられることも少ないだろう。トレンドは、より安く、より機能を持つ製品へと向かっている。

意味を翻訳し変換するAT 自分を取り巻く情報は、広い範囲でかつ様々なレベルで複雑に提示されるので、認知障害を持つ人々にとっては、理解が難しい場合がある。言語間の翻訳を行う 技術を開発してきた研究者たちは、より複雑な言語とより簡単な言語の間の翻訳をも手がけてきた。彼らは、今や同じ言語の中で、さまざまな複雑さや語彙のレ ベルの間での翻訳を行うツールを開発しようとしている。このような言語翻訳技術は、手話言語と口話言語の翻訳にも適用できるかも知れない。

新しいインテリジェントなATの可能性 技術は急速に小型化しているため、画像処理装置をコンタクトレンズに埋め込むようになるまでには、それほど時間はかからないであろう。これによって、既に 視力の良い人は更に増強できるようになるかもしれないし、自動的にあるいは人が指示をオンデマンドで出すことによって、見るだけでテキストを読み上げられ るようになるかもしれない。そのような可能性は、言語、学習、認知などの障害を持つ人々にとって恵みとなるだろう。既に、写真に撮った文章を読み上げるカ メラもあるし、写った人の顔を認識するカメラを内蔵した眼鏡の試作機も存在する。増大するコンピュータの処理能力と経験知を利用し、情報の複雑な表示(例 えば、ショッピングモールの通路でその先にある店の情報を全部表示するなど)ができ、ユーザーに理解しやすい形で提示するATを考え始めても良いであろ う。

能力の拡張 障害を持つ人々の世界をより使いやすくすることに加えて、技術の進歩はまた、障害を持つ人々が出会う世界とつきあっていくためのさまざまな能力強化を助け ることもできる。人工内耳手術は、義肢と同様に、すでに可能となって久しい。人工網膜の研究も進んでいる。電子画像やロボット工学、コンピュータプロセシ ングにおける進歩は、このような分野における前進を約束し、人々が出合う世界にアクセスする基本的な能力を強化するだろう。

これらの新しい撮像と画像処理技術を使うことによってまた、今までとは異なった新しい方法で障害を克服する道が開ける。例えば、基本的な移動を行うために 必要な視力は人工眼で得られるかも知れないが、10ポイントの文字を読むには不十分であろう。しかしながら、同じ人工眼に処理装置を搭載して光学的文字認 識(OCR)ができるようにすれば、どのようなテキストでも読めるようになるであろう。テキストを読み込み、音声に変換して、耳につけた小さな装置に伝え るのである。このようにすれば、自分で紙を拾い上げ、残った視力を使って、読みたいテキストを自分の耳に向かって読ませることができるであろう。ネット ワークに接続すれば、必要であれば(文字認識された結果を)翻訳してもらったり、更にわかりやすくしてもらったり、説明してもらったりすることもできる。 人間の能力に近づく技術を組み合わせたり、埋め込み可能な人工器官に人間を超えるような機能を提供したりすることは、自然な視力を回復するといったことを 越えて、人間の更に大きな可能性を拓くことになるのかもしれない。

想像を超えたことを可能にする技術 基本的なコミュニケーションや操作を行うために、直接脳制御の技術は、既に使われている。しかしながら、そのためには現在では開頭手術を行い、電極アレイ を埋め込まなければならない。だが将来的には、進化した信号処理によって、頭骸骨の外側から信号を読むことが可能になるかも知れない。また、血球よりも小 さなセンサーが血管に注入されるようになるかも知れない。コンピュータ制御によって、そのセンサーは脳に泳いでいって定められた場所に留まり、体の動作 や、放射された電気によって動くセンサー網を作るのだ。これらのセンサーは脳の活動の地図を供給し、眼鏡や耳当てに取り付けられた外部のセンサーにそれを 送り、ネットワークに繋げ、使用者が環境を制御したり、車椅子を操作したり、コミュニケーションをとったり、情報を探したりすることを可能にしてくれるだ ろう。外科的手術はもはや不要であり、装置が作動しなくなっても、ネットワークを破壊することはない。

可能性3:QOLを向上させつつ純コストを減らすこと

技術のためのコストは徐々に減少してはいるものの、ゼロではない。ATの中には、たしかに高価なものもある。ある種の特別な技術にかかるコストは、1万ド ルかそれを超える(更に外科手術で埋め込まれる必要があればもっと)こともある。しかしながら、障害を持つ人々が使えるようテクノロジーをアクセシブルに することに失敗した場合のコストは、もっと高い。例えば、2005年の老人介護施設における準個室の平均コストは、1年間で6万ドルを超えた。もし老人介 護施設に入るのを6ヶ月間でも遅らせたり、少しでも自立した生活環境で生きられたりする技術があれば、大きな可能性が生まれるのである。


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