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地平線を越えて:ICT革命とユニバーサル社会

課題解決へ向けたアクション

これまで述べてきた技術のトレンドにおいて、多くの提案が、バリアを最小限にしたり、可能性を最大限にするためになされている。ほとんどの提案は、このト ピックに関するNCDや他のレポートの中に見つけられる。例えばNCDの2004年のレポート「インクルージョンのためのデザイン:新しい市場の創 造」(Design for Inclusion: Creating a New Marketplace46)、「実現可能性:国家対策本部による技術と障害に関する勧告」(Within Our Reach: Findings and Recommendations of the National Task Force on Technology and Disability.47)などである。

ここでは七つの鍵となる活動項目が挙げられている。

#1-ATをできる限り有効に利用できるようにするとともにコストは下げること- 人々の総合的な能力 を最大限に引き出し、自立を可能にするためである。鍵となる戦略は、市場で入手できるようになるまで、結果重視の研究開発を推進することである。

進化する技術は、現存するATを改善し、以前には不可能だった全く新しいATのタイプを作り出す可能性をもたらす。これらのATが機能を回復させ、人々が 働いたり自立して生活したり、そしてより自立してもっと長く生きることを可能にするのであれば、個人と社会に対する利益もコスト改善も、共に大変に大きな ものとなるだろう。急速に高齢化が進む社会では、技術へのアクセスを改善することはますます重要になってきている。アクセスを提供することは、社会問題か ら経済問題へと変わってきているのだ。

高価でない携帯型のテキストリーダーは、急速にコストとサイズが縮小している同じ技術を使って、開発され得る。キャンディ棒ほどの大きさのテキストリー ダーを手に持ち、テキストにかざせば、ユーザーは正しくテキストを読んでもらえる。薬の瓶もスキャンされ、視力の弱い人々が薬の分量を確かめたり、その薬 が自分のものであるかをチェックしたりできるようになる。どのような印刷されたテキストも、アクセシブルにすることができる。

進化したGPSが環境に置かれたRFIDタグと結合すれば、建物の中でも、今より良いナビゲーションを望む人々に使われるだろう。GPSは、通話プラン込 みで69ドルで売られている携帯電話の中にも入るだろう。視力や認知に障害がある人々を含むどんな人でも、オフィスのドアまで直接案内するようにプログラ ムされた携帯電話も、考えられるのである。

ろう者は主に手話でコミュニケーションをとっているが、手話の文法は英語の文法とは全く異なる。その結果、ろう者の書いたテキストには、英語を母語として 話す人々とは、かなり異なった文法上の間違いがあるかもしれない。文法をチェックするソフトは、言葉を話す人々による一般的な文法の間違いをチェックす る。主に手話でコミュニケ-ションを行う人々の書いた文法を修正するツールの開発は、優れた教育エイドとなり、彼らの文章コミュニケーション力を改善し、 手話以外の話し手との会話を始めることにつながるだろう。

言語、学習、および認知の障害で機能を強化するための実用的な装置は、これまでのところ限定的であった。しかし、間もなく利用可能になる完全な処理能力 と、常時接続される能力、そしてデバイスの縮小によって、この分野の支援に全く新しいアプローチが可能になるかも知れない。

FCCが、新しい医療装置で使うための追加周波数を提供する提案に対してコメントを求めたとき、それはこのように述べてあった。「将来、埋め込まれたり身 に付けたりした装置によって、麻痺のある人々が、脳・神経・筋肉の間の無線インタフェースを通して、考えるだけで義手や義足をコントロールできるかもしれ ない。視覚障害者は、目の後ろに取り付けられたマイクロチップの助けによって、ある程度の視力を回復するかもしれない。今日でさえ、脳に電気信号を送る、 埋め込み型の迷走神経刺激装置が、重い慢性鬱病の治療に使われている。パーキンソン病に関係する震えも、脳の深部を刺激する埋め込み装置で治療されてい る。インシュリンポンプ等の新しいタイプの埋め込み装置によって、医師は、伝統的な有線の接続技術より、もっと簡単で正確に、無線でデータを取り出し、作 動のパラメーターを調節できる。いくつかのケースでは、調節はコンピュータ制御で、即座に可能である。ヘルスケア提供者と患者にとって、そのような無線埋 め込みモニター技術は、通院や外科的処置の間隔を空けることで、医療費を下げる可能性がある。」

  • 新しい技術を研究開発するためには、資金援助が必要である。それは、障害を持つ人々へのATを改善するために使われる。
  • ATの発達によって、より多くの人々が、人生で出会うさまざまな環境にアクセスすることが可能になった。jこのことは、彼らのニーズに合ったアク セシブルな主流技術を作り出すことが常に可能とは限らない、より重度や重複の障害を持つ人々にとって、特に重要である。見る、聞く、読む、道案内する、 思っただけでものをコントロールするといった能力を、人々にもたらすことのできる機器は、少なくとも初歩的レベルでは、全てこれまでにデモされてきた。障 害を持つ人々の能力を最大にすることは、環境の中で出会うバリアを減らすだろう。このことは重度または重複障害の人々にとって特に重要である。なぜならそ のような人々のために、製品への直接のアクセスを作ることはしばしば困難な課題となるからである。。

#2-障害者や高齢者が標準的な製品をすぐに使えるように、主流の情報通信技術を使った製品のアクセシ ビリティをできるかぎり高めること。鍵となる戦略としては、アクセシビリティ分野への理解を促進するために、研究、考え方の裏づけ、主流製品のアクセシブ ルなデザインを実現するための方法の強化に対して財政的な支援を増やすこと、また、企業内の関係者がビジネスケースを構築するのを支援する方向でアクセシ ビリティに関する規制を作ることがあげられる。

ATは人々が環境にアクセスして利用する能力を強化することができるが、個々人を主流技術に適用させる戦略は、個人が制御できる範囲内の技術に限定されて いる。技術の進歩は、ほとんど全ての分野で、ATが追いつける能力を超えた急激な速度で動いている。はるかではあるが、最も望ましい状況とは、誰もが効果 的効率的に、主流技術に直接アクセスして使えることなのだ。障害を持つ人々や高齢者は、他の誰もが使っている同じ製品を使いたいと思っている。より高価で しばしば機能の少ない、特別に作られた製品に限定されたいとは思っていない。これは常に可能であるとは限らないが、制限のある人々にとっても、社会全体に とっても、最も経済的なメカニズムなのである。実際に、高齢化する人口は、社会問題というだけではなく、同様に経済問題でもある。主流製品にアクセシビリ ティを組み入れることや、また内蔵されたアクセシビリティがいつどこで投資対効果を生むかを定量化することの、より良い戦略を研究開発するため、新たな研 究資金が必要とされている。

既存のアクセシビリティの法規(例えば1996年の通信法255条や1973年のリハビリテーション法508条の改正など)を適用し強制したことは、主流 技術の市場に、ユニバーサルデザインの原則を、広く受け入れさせることになった。これは、苦情の申し立てへのハードルを低くし、法規の施行を急がせ、専門 家の助言や事例を提供することで、達成されうるだろう。以下で議論されている「充分な手法」のアプローチは、この助言や事例を提供する方法の一つである。 重要なステップは、自己宣言から認証モデルへの移行であるかもしれない。企業は、これまでのように、単に自社の製品をアクセシブルにしたと宣言し、標準に 合致したかどうか何の保障もないというのではなく、その製品がアクセシビリティ標準のどの条項に合致しているかいないかを、きちんと認証するようになるだ ろう。購買担当者や他の顧客は、今のところ、どの製品がアクセシビリティ標準に合致しているかどうかを評価することが、大変に難しい。なぜなら、それぞれ のメーカーは情報をばらばらに提供しており、異なる用語を使って各社の製品の特徴を述べていたりするからである。またメーカーは条項に合致するために、異 なった標準を用いる。デザインプロセスの一部として、メーカーはその製品をアクセシビリティ標準に対し注意深く評価すべきであり、アクセス条項に合致して いるかどうかをレポートすべきである。このことが、購買担当者の、購買プロセスにおけるアクセシビリティへの配慮を円滑にするのである。自社製品のアクセ シビリティを正確に評価できる企業は、第三者認証サービスを使うことを強制されるべきではない。他の多くの分野と同様に、企業は自己認証を許されるべきで ある。その製品が特定のアクセス標準に合致しているかどうか購買者がわかるよう、充分な情報や証拠を提供していれば、の話であるが。

調達要件(Pull型規制と呼ばれる)は、ビジネスモデルに最適なように思われる。508条のような調達要件を連邦政府だけでなく市場に拡張することは、 主流製品を障害者や高齢者に使えるようにする上で、大変効果的だろう。電子機器に留まらず、それを拡張することも大切だろう。繰り返すようだが、生産され る全ての製品をアクセシブル標準に合うよう義務付ける(Push型規制と呼ばれる)よりも、より良い出発点になるのは、すなわち州政府、地方政府、公立学 校、政府により資金援助を受けている団体などで使用される製品は、購入要件としてアクセシビリティ法規に合ったものを要求するという、Pull型規制の方 なのである。このことは、企業が、公企業向け市場で勝つため製品にアクセシビリティ機能を加える動機付けとなり、しかもなおその市場以外でも製品を売れる ことになる。最初のちょっとした誘引効果が、いつかあたりまえの状態を作り出すかもしれない。これは、政府にもそれ以外にも売るつもりで製品を作っている マスマーケットでは、より有効である。サービスや製品を、顧客ごとに変えて作っていては意味が無い。また政府、公立学校、政府に資金援助を受けている団体 によって使われない製品でも、有効ではないだろう。Push型規制はPull型規制では届かない市場から、またPull型が有効と証明されないところで は、要望されるかもしれない。

#3-公共施設の物理的な場所へのアクセシビリティが保障されてきたように、インターネットや他のバー チャルな環境へのアクセシビリティを保障すること。

よく知られている通り、アクセシビリティ法が書かれた時、Webはまだ存在していなかったために、この重要な分野はアクセシビリティ法の中では特に言及さ れてはいない。しかし世界は急速に変化しており、教育、社会的活動、日常生活、商品販売や雇用が、ますますネットワークによるサービスを用いて行われるよ うになってきた。インターネット上だけに存在する店も出てきている。多くの専門店が、特に小さなコミュニティの中では、姿を消しつつある。ある種の製品や サービスを入手する唯一の方法は、インターネット経由なのである。社員は、ネットを通じてつながり、リモートオフィスで働く。大学の講義も今ではオンライ ンだ。多くの講座で、学生はインターネットを使って情報にアクセスしたり演習を行ったりすることが求められている。

こういったバーチャルな環境は、ADAのような初期のアクセシビリティ法が起草された当時には存在していなかったので、これらの技術や環境は、ADAの中 では特に述べられていない。NCDは2003年に出版したApplication of the ADA to the Internet and the Worldwide Webの中で、ADAのインターネットへの適用性の問題を分析し、ADAはインターネットに適用すべきと 結論づけた。

裁判所は、この問題に関して一貫性した判断を示しておらず、障害を持つ人々は、問題解決のために訴訟を起こすほかなかった。ウェブサイトがアクセシブルで ないことで訴えられた幾つかの企業は、これらのバーチャルな環境は、ADAのような初期のアクセシビリティ法ができた当時は存在していなかったのだから、 法がカバーすべきものは、ウェブサイトではなく、企業の物理的な設備だけであると主張した。このような訴訟の一つが、Ninth Circuit(サンフランシスコ連邦高裁)で係争中である。既存のインターネットなどの環境、もしくは今後進化するイントラネット、他のネットワークや バーチャル環境は、生活のほとんど全ての活動の中心になり、障害を持つ人々が生産的で自立して生活する上での強力な道具になってきている。

#4-デジタル著作権管理(DRM)によってもたらされた、デジタルメデイアへのアクセシビリティの新 しいバリアに立ち向かうこと。その際には、映像に関する権利と、音響に関する権利が別々に売られている場合も含めること。

我々は、情報のほとんどを、デジタルで出版する方向へ動いている。情報を柔軟に提示することで、アクセシビリティを増す大きな可能性がある。しかし、デジ タル著作権管理(現実には大変重要だが)、ビジュアルとオーディオの権利を別々に売るといったマーケティング方針、そして内蔵されたアクセシビリティの欠 如等が組み合わさって、アクセスのための深刻なバリアを引き起こしている。この新たなバリアに対処するためには、メカニズムと法律の改革が必要である。メ ディアを開いて電子的に読ませることは、著作権侵害の問題を露呈するかもしれないが、プレイヤーにアクセス条件を組み込むことが必要かもしれない。しか し、点字ピンディスプレイのようなアクセス機能を全てのプレイヤーに組み込むことが現実的でないのであれば、障害を持つ人が自分の道具を使って合法的、効 率的にデジタルメディアにアクセスすることは、特にろう者、全盲者、盲ろう者にとって、より有効かも知れない。それらの特別なATを経由してアクセスを可 能とするよう、主流のDRM装置のメーカーと協業するのも一つの解決策かも知れない。内蔵されたアクセシビリティの機能(例えば読み上げ機能)を、出版社 が、出版物ごとに永久に止めることによってアクセスを妨げている、問題にも、取り組まなければならない。

#5-ICTのアクセシビリティに関連する全ての政策は、ビジネスケースの重要性を認識した上で 構築すること。市場の力だけでは安定したビジネスケースを実現できないときには、アクセシビリティに関する規制と、それを守るための効果的なメカニズムを 作ること。すなわち規制を遵守する場合には明らかに利益が上がり、しない場合には不利になるような仕組みである。

アクセシブルな製品が利益につながる事例を示すことによって、企業が自社製品をアクセシブルにすることを奨励すること。しかし、アクセシビリティが利益に つながるかどうか明確でないところでは、よりアクセシブルな製品を作りたいと考えている企業の社員がそれを可能とするには、ビジネスケースを作ることとは 異なる仕組みが用いられるべきである。自然なビジネスケースを欠く機能と製品のためには、社会は、規制と強制、すなわち利益に影響を与え、遵守する者には 利益を、遵守しない者には減益をもたらすような、しくみを作り出さなければならない。いつどこで、その製品が個別の規制条項に適合したかを明確にするため の適合性判定のしくみを作り出すことが、法令遵守の鍵となることだろう。

#6-アクセシビリティの法と規則を作るときは、個々の技術に特化するのではなく、デバイスの機能に基 づいて作成すること。どうすれば標準に十分に適合できるかということに関する明確なガイダンスを提供すること。また最低これだけは譲れないという基準を設 けることにより、技術の進化に際しても、評価可能な要望を入れることを許すこと。国際的に販売される製品のために、可能な限り、法や規則を、他の国々のも のと協調させること。

法的基準は、技術や製品のカテゴリーよりは、原理原則に基づくべきである。過去において、異なる技術には、異なるガイドラインが作られてきた。一連のガイ ドラインがテレコミュニケーションのために作られ、他のものがATM用に、また別のものが情報技術に、という具合だった。ガイドラインは、例えば情報シス テムが「オープンな」とか「閉じた」といったカテゴリーによってさえも、異なるものとして書かれていた。

これらの区別は、最新の技術では曖昧になってきている。どの定義を考慮しても、どっちつかずのエリアに分類される多くの製品がでてしまう。多様な機能を実 行する製品もあり、一連のガイドラインがある製品の一つの機能に適合し、また他のガイドラインが同じ製品の別の機能に適合するといった状況になっている。

ガイドラインは、機能と性能に基づくべきだが、同様に、技術にも中立であるべきである。このことはガイドラインをより抽象的にしてしまう傾向となり、その ためにガイドラインが、より分かりにくくて簡単に適用できないものになってしまっている。この問題への対処を助ける二つの概念が、「ベースライン:基準線 (訳者注:プロジェクトマネジメント用語で成果物が満たすべき要件一式)と「充足性」である。

ベースライン 今日、技術の進歩は速すぎるので、標準や法制化の作業は追いついていくことができない。特に法規は、長期にわたってゆるぎないものであるべきだが、なおも 技術は絶えず変化している。アクセシビリティ法規を作り出すとき、それが今日意味のあることであり、明日の技術のために役立つようにするのは、挑戦的なこ とだ。一方、アクセシビリティの標準や法規は、将来だけを考えて作るわけにはいかない。いつかはアクセシブルになる製品を作り出せるかもしれないが、今障 害を持つ人が使う技術に対し有効でないアクセシビリティ標準は、意味が無いのである。

ベースラインを導入することによって、標準は、長期にわたる技術の変化を説明するための指標となり得る。本質的に、ベースラインとは、時間をかけて確立さ れてきた一連の技術や機能のことであり、それはユーザーが使うATと互換性がある。従って製品は、ベースラインの技術や機能を使用するとき、アクセシブル にならなければならない。時と共に、ユーザーの持つ技術は変わって行き、標準を書き換える必要もなく自然に進化することが可能となる。このアプローチもま た、より予測可能なものであり、特定の解決策に基づくよりもむしろ、機能に基づいたものである。

充足性 より機能ベースの標準を使用する際の課題は、その標準がどれに適用されるかという、特定性に欠けているということである。機能的な標準はイノベーションに つながるが、その分野の専門家でなければ、それが標準にあっているかどうかを決定することが困難になる可能性がある。もう一つの課題は、技術の厖大な多様 性である。アクセシビリティに関する本質的な要件は不変かもしれないが、実現するための実際の手法は、あの技術、この技術と、実に幅広いのである。券売機 で役に立っても、携帯デバイスでは役に立たないかも知れない。ソフトウェアをダウンロードしてインストールできる個人のワークステーションでは役に立って も、共有される公共端末はユーザーによる変更がきかないので、役に立たないかも知れない。

充足性を考慮すれば、ガイドラインは、明確にかつテスト可能な形式で書くことが可能になる。この時点でガイドラインを満たすのに「充分な」テクニックが、 ここで確立される。ガイドラインに適合するために「充分な」新しいテクニックが作成されると、それらはガイドラインを変更することなく、評価され、文書化 され、「充分な」テクニックのリストに追加される。この方法で、「充分な」テクニックのリストと使われる条件は、定期的に更新され、それはアクセシビリ ティの基本を書き直す必要は無く、変化する時代や変化する理解を反映したものになる。

異なる一連の「充分な」テクニックは、製品を異なるカテゴリーに分類することができるだろう。例えば、製品にインストールされうる特別な技術の利用を含む テクニックは、ワークステーションには充分であると考えられるかも知れないが、ユーザーが自分用の支援ソフトウェアをインストールすることを認められてい ない、公共の情報端末には充分ではないと考えられるだろう。「製品のラインアップ」アプローチを使うことは、もしユーザーが、購入の際に全ての製品ライン を見ることができれば十分かもしれない。だが、もし購入の際に(アクセシブルな型を含まない)製品ラインの一部だけしか見ることができなかったり、これら のモデルが特別なオプションに含まれていなかったり、包括販売の一部として利用可能でなかったりすれば、それは「充分」とはいえない。「充分な」テクニッ クの使用は、ガイドラインに何かを足したり引いたりすることはないが、どのテクニックがガイドラインに合っていてどれが合っていないかを、購入担当者、 メーカーなどに対して、彼らがその分野の専門家でなくても、明確にすることができるだろう。

ベースラインと充足性の使用はまた、かつて利用可能だった特定の技術のさらなる開発を促すことができ、また、より柔軟性のあるテクニックで充足することを 許すこともできる。例えば、もし、ウェブアクセスの新しい技術が開発され、新しいウェブ技術を扱えるATに組み込まれたとすると、これらの技術を使って提 示されるコンテンツに対してアクセシブルな代替(ALT属性)を提供する必要は、もはやなくなるだろう。その技術は、その後、ベースラインに加えられる。 全てのテキスト電話が新しいIPTextのフォーマットを扱える時と場所では(そして残る全てのTTYテキストが、新しいIPTextのフォーマットに翻 訳されれば)、IPTextのサポートだけで十分なのかもしれない。このアプローチはまた、異なる言語と文化のために異なるレベルのATが存在しうるとこ ろでも、国際的な調和を促進することもできるだろう。

もし適切に用いられれば、オープン、クローズドといった技術の問題にさえ、どっちつかずのグレイな部分を縮小する方法で対処することができるだろう。もし グレイ部分に遭遇した時、どちらにするか決断することで消費者の受けるインパクトも、最小限に押さえられるだろう。つまり、AかBのどちらの状況が適合す るのかがはっきりしない「グレイな」ケースにおいても、どちらが合理的でアクセシビリティを満たす結論なのかを明らかにし、選択されうるだろう。

国際協調の必要性 この地球規模の経済において、あらゆるアクセシビリティの標準や規制を効果的にするための鍵は、国際協調である。複数の国に対して製品を開発している企業 が、矛盾した法的、標準規定に対処した単一の製品ラインを作り出すことは困難である。ここで鍵となる言葉は「矛盾」である。標準は異なっていても、協調す ることは可能である。例えば、一つの標準が信号からの音を15デシベル以下であることを求め、他の標準が20デシベル以下であることを求めたとする。もし 20デシベル以下の製品を作ることで双方の標準に合わせれば、協調は可能なのである。協調とは、標準を同じものにせよという意味ではなく矛盾のないものに せよ、というだけなのだ。全ての標準が同時に同一であるということも、ありえないことではない。しかし、全ての国が、全く同じ標準や規制を持つ必要もない のである。各国の標準や規制が、全く同一であることを求めることは、途上国(彼らが合わせられない標準を強制するので)ばかりではなく、先進国(進歩を妨 げるので)にとっても公平ではないだろう。しかし、国際的に同一の形式で、市場に販売される製品を各国のアクセシビリティ標準や規則の中でデザインするこ とは可能なはずである。残るのはローカライズの妥当性の問題だけだろう。もしアクセシビリティ方針を設定する機関が、互いに協力し、同一の言語やクライテ リアを使えば、それは全てにとって有益なものとなるだろう。しかしながら、相互運用性の分野では、より高いレベルの互換性が求められる。相互運用性の標準 は、「矛盾しない」こと以上のものでなければならない。それは特に通信技術において、互いに協調して動き、国際的な相互運用性を可能とするものでなくては ならないのだ。

#7-アクセシブルな主流技術[AMT]と支援技術[AT]に関する最新の情報が、一般の人々から入手 や利用が可能であることを、保証すること。

このレポートの大半は、科学技術の進歩と、それが新たなツールの開発を可能にするかに焦点を当てているが、新たなツールの開発の必要性と同じくらい、現在 の技術が未だ使われていないということを思い起こすことも大切である。アクセシブルな主流製品も、ATも、まだ充分には使われていない。いくつかのケース では、それはツールが大きく、高く、あまり有効でないからという理由だった。研究開発は、これらの課題に取り組むべきである。

他のケースでは、これらの技術を使うことの肩身の狭さが、技術利用を妨げている。これらのアクセシブル機能を主流技術に組み入れることや、より良く、小さ く、目立たない技術の開発は、活用を妨げているバリアに対処することを助けるだろう。

いくつかのケースでは、十分に活用されていないことは、製品のコストによるものだった。より新しく、安価な技術の開発は、この問題に対処することを助ける だろう。障害を持つ人々の中には、ATを買うための資金源を持たない人もいる。そのような技術はたいてい、多くの人々が買えるよりも、ずっと高いかもしれ ないのである。このような場合、技術に留まらず、社会的な資金援助のしくみをも見ていく必要がある。アクセシブルテクノロジとは、障害を持つ人々の生活の 質を改善するために、社会が彼らに提供すべきものなのだろうか。それは、社会的コストを下げるために社会が提供すべきものなのだろうか。

しかし多くの場合、人々は、単に、そのようなものが存在していることを知らなかったという理由で、ATを使わなかったのだ。現在では、ほとんどのATは、 障害を持つ人々やその家族によって購入されている。費用がかかるからといってATを買わない人もいるが、大多数は、単純に自分たちを支援してくれる技術が あることを知らないのだ。彼らは、自分の使用している製品の中に、自分が製品をより簡単に使えるようにする機能が、既にあることに気付いていない。彼ら は、市場の製品の中にある、自分が主流製品を使えるようにする機能に、気付いていない。販売員、営業担当者、宣伝担当者は、主流製品のアクセシブルな機能 に、たいていは気付いていない。障害を持つ人々が園芸をし、料理をし、手紙を書き、本を読み、或いは働くことを可能にするATは存在しているが、しかしほ とんどの人々は、これらの製品について知らない。製品についての情報は、インターネット上にあるかもしれないし、製品を見つけることは難しくないだろう が、ほとんどの人々はそれらの製品の存在を知らないので、見つけようとしない。一般の人々に以下のことを知らせるために、公的な告知サービスなどのしくみ が必要である。

  1. 支援技術(AT)とアクセシブルな主流技術(AMT)が存在していること
  2. ATとAMTは学校、雇用、自立生活における能力を強化できること
  3. 高齢者にとっては、ATとAMTは生活をより楽にするものであり、それによって人々はもっと沢山のことが(場合によっては始めることも)できるよ うになり、そして彼らが自宅でより長く、家族からより自立して、生きていくことを可能にするものであること
  4. 多くの人々がATとAMTを利用していること
  5. ますます増えつづけるATは、かっこよく使うことができること、そして
  6. ATやAMTを探せる場所がたくさんあること

もしこういった情報が、障害を持つ人々、その家族、友人、介護者、そして医療や健康のプロたちに共通の知識となるならば、既存の技術利用と、将来の技術の 市場も、共に増えていくだろう。製品を、よりアクセシブルにしてほしい、アクセシビリティ機能を内蔵してほしいという自然な要求も、どんどん大きくなって いくだろう。

ある種のATは、選択とフィッティングにおいて、訓練された健康管理の専門家の支援を必要とすることも忘れてはならない。現時点では、主に資金の欠如に よって、効果的な選択とフィッティング、およびATを使った訓練ができる専門家は不足している。これはメディケアやメディケイドのような公的機関を始めと する、第三者機関により、対処されるべきである。保険によってカバーされ、長期にわたる市場での安定したサービスは、自然にこの問題を医療健康サービスプ ログラムに統合することになるだろう。このことは、健康サービスの専門家がより知識を得ることへとつながるだろう。


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