Home » レポート » ツアーレポート » 2012年度CSUNツアー » レポート:関根千佳 » 2月29日

レジストレーションを終えて、各自、セッションに入る。私はこの日は、Mobile Accessibilityのパネルから参加する。AT&TやG3ictなどの専門家が最新情報を報告しあうというものだ。G3ictとは、国連の中の、ITアクセシビリティに関する国際連携のための組織である。国連の障害者権利条約の中に、ITアクセシビリティが明示してあることから、各国は法整備を急いでいる。米国のようにリハビリテーション法508条のような強制法規が出来てから10年以上経つ国であっても、一般商品のUDや、中小企業サイトのアクセシビリティは万全とは言えない。だが、今回のG3ictの例示では、日本のらくらくホンが、いかに日本の高齢者のMobileアクセシビリティに貢献したかを総務省の年齢別IT利用で例示しており、嬉しいような、悩ましいような、微妙な気持ちになった。確かにらくらくホンは、シニアのIT利用には大きく貢献していると言える。でも、この総務省のチャート自体は、「ネット機能付き携帯の販売台数」から算出したものであって、正確な利用度ではない。らくらくホンは2000万台を超えているお化け商品である。それには確かにメールやWeb閲覧の機能がついている。しかし、購入した大半のシニアは、それらの機能のごく一部しか使わない。通話しか使わない人もいるだろう。販売台数イコール機能利用率ではないと思う。ま、実際に使っているかどうかまでは、調べる方法がないので、この数字も、参考にはなるはずなのだが。。ともあれ、海外の方が、UDなMobile機器は、シニア層のIT利用に貢献するというメッセージを受け取ってくれるのは、悪いことではない。その他、各国のMobile状況や、新しいプロジェクトなどの報告があり、各国の進展が感じられた。 

クイックランチを済ませ、午後はUniversity of California San Diego校(以下UCSD)を有志で訪問する。今回は、大学の先生がメインとなった。新潟大の林先生、放送大学の広瀬先生、富山大学の小松先生、それに私である。みな、アメリカの大学における高齢者の真奈美の現状について、興味深々である。UCSDは、San Diegoの北側、風光明媚なことで知られるLa Jolla(ラホヤ)に位置する州立大学で、広大なキャンパスを持つ。市内からタクシーで30分かからないのだが、とにかくキャンパスがばかでかい。ナビで知らせる場所へ行くと、どうもファカルティの住居とおぼしきところへ入り込んでしまった。うーむ、広すぎてわからないなあ。Informationを見つけてそこで場所を確認する。ナビが知らせた場所のすぐそばではあったのだが、道の向こう側だった。とにかく広い。

ようやく近くまで来て、携帯に電話をかける。駐車場まで、スタッフの方に迎えに来て頂いた。あまり遅れずに済んでほっとする。

今回訪問したOLLIの正確な名称は「Osher Lifelong Learning Institute」である。Bernard Osher氏がその財産を寄付して1974年に作った、Bernard Osher財団によって運営されている。これは、もともとは、高等教育における奨学金の財団であるが、25歳から50歳までの大学へUCSD OLLI 玄関の再入学への奨学金と、50歳以上に対する生涯教育のファンディングによって、広く知られている。

今回訪問したのは、そのシニア向けのプログラムである、OLLIであった。これは、シニアのための生涯教育の場であり、50歳以上の市民が近隣の大学で学べる仕組みである。全米の大学には、いまや117校がこのセンターを有し、地域の住民が学び続けられる環境を提供しているのである。主には、San Francisico Bay AreaとMaine州から始まったが、今ではハワイやアラスカの大学でも、OLLIが設置されているという。

UCSDのOLLIは、2005年にオープンしたという。50歳以上であれば参加はできるということになっているが、実際に参加しているのは、平均75歳くらいであり、90代も相当数に上る。100歳を超す受講生もいるそうだ。2012年3月現在は、約700名が登録しているという。

年会費はOLLIによって少しずつ異なるが、UCSDの場合は、年間240ドルである。たったこれだけで、OLLIの提供する、120を超えるコースが受講でき、OLLIメンバーでの学習ツアーや音楽会などにも、料金は別途であるが参加できる。カリキュラムは四半期ごとに更新されるが、芸術、コンピューター、外国語、古典、歴史、文学、医学、政治学、宗教、科学技術などである。このようなコースは、OLLIの専用教室2つで主に行われる。各分野から特別な講師を招いて行う場合もあるが、OLLIのメンバー自身によって、ボランタリーに講義されるものもあるという。またOLLIのメンバーは、大学で一般的に行われている授業も、教授の許可があれば聴講できる。実際に学生として講義を受けたい時も割引がある。実際にはセミスターごとに1~2個がふつうであるとのことであったが、相当数の講義にシニアが参加するとのことであった。若い学生に交じってシニアが講義や議論に参加することで、学生たちにも良い影響があるという。学生のメンターになったり、進路相談に乗ったりもする。

OLLIのメンバーになれば、学内の駐車場を始め、図書館やスポーツジムなども利用可能である。学生証を発行してもらうと、生協でコンピューターやソフトを格安で買える。地域の映画館やシアターで割引になる、大学のイベントも割引が適用される、といった、数々のベネフィットがある。

特にアメリカ国籍は問わないし、住民である必要もない。La Jollaという土地柄もあり、いわゆるSnow Birdといわれる、夏は北部に住んでいるが、冬の間だけ温暖なSan Diegoにやってくる人も多いため、冬場の学期は、大変に申し込みが多く、シニア学生であふれるということであった。

OLLIのお二人

対応して下さったOLLIのマネジャーのお二人は、大変紳士的で、この仕事を心から誇りに思っているのが見てとれた。欧米では、本当に多くのシニアが大学で学んでいる姿を見かける。しかし、日本では、ほとんどが18歳から25歳までである。OECDの調査では、25歳以上の学生が高等教育機関に在籍する割合は、OECD各国では約21%なのに、日本では2%なのだそうだ。オーバードクターを入れてもこの数字であるということは、日本では、いったん学校を卒業したら、再び学ぶ機会が少なすぎるということを意味している。地域の公民館や民間のカルチャースクールなどはあるが、それはシニアの「向学心」を刺激するものではない。若い人とともに、最新の政治情勢を議論したり、科学技術の動向を元企業人の視点で議論するような場でもない。今後、日本でも、なんとかOLLIのような制度を作ることはできないのだろうか?地域の大学は、18歳人口の減少に悩んでいる。25歳以上も、ごく普通に行ける場として、大学が地域における市民教育の場として機能できないだろうか?団塊の世代の定年後の居場所としての大学の在り方を、深く考えさせられる、OLLI訪問であった。


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