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2002年CSUNツアーレポート:関根千佳(9)

3月25日 DOIT訪問

今日はワシントン大学を訪ねる日だ。アポイントメントは1時だったので、朝から構内を探検する。まずはインフォメーションセンターで学内の地図をゲットする。障害者向け情報は?と聞いたら支援センターの場所とアクセスガイドを出してきた。点字かと思うほど分厚い本で、学内のあらゆる場所の車椅子アクセスが明示されている。この情報も全部Webにあるそうだ。学内には実に多くのサービスが存在している。夜遅くまで勉強している学生をアパートまで送り届けるサービスは、無料で10分以内にやってきてくれて、更に大きな傘まで持っているので、濡れずに帰れるというのがウリだ。傘を持たず、フード付きパーカーで雨の中を歩くのがシアトルっ子の特徴だが、夜半に大雨、なんてときにはとっても助かりそうなサービスである。もちろん視覚障害者が送り迎えを頼むことも可能なのだろう。パートタイム学生のための保育サービスなんていうのもあった。日本と比較してアメリカはサービス業が盛んだと聞くが、このように、かゆいところに手が届くサービスが揃っているところがすごいと思う。決してアメリカは、ハードウェアだけですべてを解決しようなんて思っていない。最後はソフトやサービスで対応することをわきまえていると思う。

障害を持つ学生の支援センター入り口

 

障害を持つ学生の支援センター(DSS: Disability Support Service)では、Hate Free Zoneという紙が入り口に貼ってあり、入っていく勇気を与えてくれる。ADAの紹介ポスターも。ここでは、障害を持つ学生が、学内でどんな支援が受けられるかを相談する場である。テスティングルームもあり、これまでどんな支援を受けてきたか、今後どんな支援があれば授業に支障がないかを見極める専門家が常駐しているという。真っ黒でかわいいガイドドッグを連れた弱視のお兄さんが、それはそれはフレンドリーに情報をくれた。電動車椅子の女子学生も相談にきていた。なんだかとてもアットホームな場所である。
ここで机の上に、障害をもつ留学生を支援する会の案内を見つけたときは心が熱くなった。アフリカやアジア、ラテンアメリカなどから来た障害を持つみなさん、時々会って話しませんか、という素朴なものだが、言葉や文化、背景が違う環境に飛び込んで心細い留学生、それも障害のためさらに大変な環境変化に適応しなくてはならないメンバーを、人間の輪で支えようとしているのが嬉しかった。人を支えるのはやはり人なのであって、そのようにして誰かに支えてもらった人が、きっと次に誰かを支えていくのだろう。

センターでは当事者が相談に乗ってくれる
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アクセスセンター内の様子午後はDOIT(Disability, Opportunity、Internetworking, and Technology)というプロジェクトを訪ねる。ここは、1993年から全米科学財団がファンドして始まった障害を持つ学生の進路サポートプロジェクトである。94年に初めて私がCSUNに行ったとき、この考え方に感動したのを思い出す。そのころ普及し始めたインターネットを駆使し、科学技術を学びたい障害をもつ高校生に支援技術とPCを貸し出して、ネット上で進路指導を行うというものだった。今では高校生だけでなく、卒業後の支援まで視野に入れて活動しているそうだ。サポート体制も魅力的だが、セッション内容もなかなか面白い。イギリスのホーキング博士がオンラインで授業を行ってくれたりもする。サマーキャンプには全米からメンバーが集まり、大学生活を少しだけ経験するのだ。インターネットや支援技術など、科学技術の進歩を、素直に認めてもいいかという気にさせるプロジェクトである。
毎年、30名のメンバーが選ばれて、このプログラムに参加している。かつてはNSFが主なファンド先だったので全米だが、今はワシントン州がメインなので、州内の学生が中心だという。高校1年から大学や仕事を教え、進路を考えさせるところから始まる。その後、このプロジェクトは学生の成長に従って変化していった。いざ大学に入れば、多くの大学や教授陣は障害者の受け入れ方を知らない。大学への教育プログラムが始まる。次は職場の教育だ。企業の受け入れ担当者にも同様の教育プログラムが準備された。こうやって、多くのノウハウが蓄積され、毎年、30名の重度障害を持つ優秀な学生が、理系大学を出て企業に就職したり、社会で活躍しているという。視覚障害を持つ医師志望の学生もいると聞いた。これは、まさに、科学技術がどこまで人を幸福にできるのか、という明らかな挑戦かもしれない。

説明してくれたアンドリュー今回、プロジェクトを紹介してくれたSaraは、プログラムを設定する担当者である。部屋の壁には、カリキュラムが貼ってある。大学生活、科学実験、DSSの活用方法などに混じって、最後のセッションにDOIT Danceとあった。キャンプ最後の夜のパーティで、みんなでダンスを踊るのだという。車椅子やさまざまな補助具をつけた人、おそらく視覚や聴覚のメンバーも一緒に、みんなでダンスをするのだ。なんだか、私は夏のキャンプに参加したくてしょうがなくなった。なんて楽しそうなんだ!
DOITの後、教えてもらったコンピュータアクセスセンターへ向かった。何百台ものPCの中に、10台以上の支援技術付きPCが並んでいる場所がある。そこに、アンドリュ−という電動車いすに乗った学生がいて、ネットを使っていたので、またもや関根はあつかましくも話し掛け、状況を教えてもらう。支援技術は、CSUNで見るような最新鋭のものからローテクなキ−ボードまで揃っている。実に柔軟に必要に応じた支援がなされているようだ。アクセスセンターのボランティア学生も、とても気さくに説明に応じてくれる。障害を持つ学生を長く受け入れてきた経験が、この明るく自然な雰囲気のアクセスセンターに現れているような気がしてならなかった。 夕食はK氏に聞いておいたシアトルの有名なおすし屋さんへ行く。超満員だったが、ソフトシェルクラブや牡蠣などもあり、とても美味しかった。


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