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2002年CSUNツアーレポート:関根千佳(4)

3月20日

昨夜なかなか寝付けなかったのに、朝5時に眼が覚める。7時半からKeyNote Speechだ。Greggのプレゼンは、IT関係者には支援技術を伝え、支援技術関係者にはITの将来像を見せるというパターンを貫いている。今回は当然後者で、MITのロボットやホンダのアシモまで紹介していた。彼の持論であるITの将来像は、ユビキタスなネットワーク環境で、いかにパソコンが小さく身近なパーベイシブ利用形態になり、そのときに機能は限りなくユーザーの支援技術を内包した、ユニバーサルなものになっていくというものである。いつものことながら、彼らはそれを夢物語ではなく、実際に実現できるという視野の中で語る。支援技術およびIT環境のユニバーサルデザインの父として、業界を30年間リードしつづけてきた「おたく」の元祖が、ずっと元気でパワフルで、かつばりばりに最先端であることを願ってやまない。

さて、その後は、CSUN始まって以来の日本語セッションである。わたしはかなりサボったのだが、さむさん、武者さんの活躍で、なんとかまとめてもらえた。前夜は3時まで準備をしていたそうだ。ご苦労様でした。しかしこの膨大な内容を、短い時間で全容を伝えることはなかなか難しいと実感した。ま、大体、最初の日の見所を伝えるだけでもいいかもしれない。みな、次第に状況が掴めてくれば自分で探していくだろうから。
しかし、今年のセッションは、教育色が強い。Bud Riserの所長就任の影響が次第に濃くなっているのかもしれない。企業によるアクセシビリティのセッションは、Sun,Microsoft,IBMなどでは存在しているが、増えているという印象は薄い。支援技術メーカーなどが新製品を出す場ではなく、すでに既存の技術をどう普及させ、どう個々のケースに活かすかという段階にまで進んでしまった証拠かもしれない。また、ユニバーサルデザインという言葉も、以前に比べ定着した感がある。支援技術をうまく組み合わせて使うことで、統合教育や雇用機会を拡大している例がいくつもある。ユニバーサルデザインという言葉が、日本のように、非常に狭い意味でのデザイナーの言葉ではなく、教育や雇用のUDといった社会システムのあり方として使われているのが印象的である。更に、これは中邑先生も指摘されていたことだが、遠隔教育のセッションが多い。米国は、日本の25倍ほども遠隔教育が進んでいると日立評論に出ていたが、まさにこのジャンルでもそれを実感する。日本でも確かにコンテンツのネタはある。だが、実際にそれは機能し、在宅の障害児のもとへ届いているだろうか?科学技術も、最新の研究も、それがユーザーに使われて意味をなして、初めて評価の対象になるのではないかと思う。CSUNで紹介される技術はたしかに日本にもあるものが多い。しかし、それを作っている企業人や研究者の中に、障害者をユーザーとして考えることのできる人は少ない。その意識の落差が、実は日本の暮らしにくさを生み出しているのだが。。。 

その後はいくつかのセッションを渡り歩く。IBM基礎研の浅川女史の発表は素晴らしかった。既存のサイトを508条に自動的に対応させるツールは、たしかにあまりまともなのがなく、6月21日以降、アクセシブルなサイトが増えるにしたがって、各省庁とも、既存のサイトをどうやってアクセシブルにするか、悩んでいたはずなのだ。彼女お得意の、ドキュメントオブジェクトメソッドを使ったのだろう。ALTも画面の中からかなり適切なものを選び出し、自動的に順位を付けて出してくる。 もちろん自分で入れる事も可能だが、同じようなグラフィックアイコンが100個あったらそれを自動で修正してしまえるのだ。またNULLに変更するところ、中間にあるSKIPをトップに持ってくるところなど、視覚障害者が困る部分を熟知した彼女らしい仕様である。ホームページリーダーが日本発で世界を席巻する製品となったように、どうやらこれも、世界に通用するものになりそうだ。早く製品化されることを期待する。

午後の、Trace Centerの発表も面白かった。到着した日に、Bill Laplantに聞いていたことではあるが、家電、IT、ATをつなぐInteroperabilityの共有プロトコールを決め、それによってPDAや携帯電話、BrailleNoteなどからユニバーサルな 指令を出すというものである。これにより、一般家電の設計には手を触れずに、多くの障害者は自分の使っているマシンと一般家電やATMなどを会話させ、自分の機器に必要な情報を一般家電から送信させ、その家電が受け取れる形での必要なコマンドを自分のマシンから送ることが可能だ。かつて、StanfordのNeilたちがやっていた、アクセッサーとターゲットの考え方が、ついに業界標準になろうとしているのだ。会場では全盲の方にボランティアをお願いしてBraiileNoteから電気をつけたり消したり、扇風機を回したりといったデモを行っていた。しかし、これは実験段階ではなく、すでにNISTの中で、正式に業界標準としてANSIにすることを検討しているものである。もしこれが、完全にデファクトスタンダードになったとき、日本の企業は困らないのだろうか?BraiileNoteはまだいい。携帯電話やPDAから出されるプロトコルのレイヤー決定に、日本の企業はかかわらなくていいのだろうか?私には、少しばかり、不安が残る。またこれが、海外有力企業の締め出しにつながらないといいのだが。。。内向きになっているアメリカ、をふと思い出す。

デモの開始前に部屋に戻った。お肌がものすごく荒れている。なんだか、疲れてそのまま部屋にこもってしまった。アメリカに来てから、私は食欲というものが消えうせてしまっている。誰かに誘われると断れないような気がして、部屋でずっとパソコンを使っていた。クライなあ。。。


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