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2011年CSUNツアーレポート:関根千佳(3)

3月16日 その2 セッション一日目

気を取り直して、12時からのグレッグ・バンダーハイデンのセッションに出る。発表しているのは、全然知らない人で、グレッグは後ろで控えている。 スマートフォンを聴覚障害者にもアクセシブルにするように、テキスト・音声・ビデオを統合して情報保障をするというものである。コンセプトはよくわかるの だが、なんだか、それほど目新しいものには思えない。スマートフォンであれば、当たり前のように思えてきてしまう。ま、今回のテーマとして、全ての発表 が、パソコンからiPadへ、フィーチャーフォンからスマートフォンへと、なだれをうって移行しているという事例の第一号ではあったのだが。

次のセッションでは、アメリカの各省庁からの、アクセシビリティへの取り組みが紹介された。日本の総務省にあたるFCCからは、2010年の10月 に発表されたCVAA(Communications and Video Accessibility Act)の内容が伝えられた。これは、かつて情報通信業界のアクセシビリティ法であった、情報通信法255条の後継である。

パネルの様子

Title I コミュニケーションに関する主な変更点として、以下のような内容が示された。

  • 255条をICTの進化に併せて更新したものであること
  • インターネットブラウザーやモバイル機器を追加したこと
  • 盲ろう者への対応を入れたこと
  • 災害時の対応として新世代911へのアクセス方法を追加したこと

Title II ビデオプログラミングについては、以下のような言及があった。

  • これまでの字幕付き番組にインターネットからもアクセスできること
  • 緊急情報へのアクセス
  • ビデオ番組機器とアクセス機器との連動性
  • アクセシブルなユーザーインターフェース
  • アクセシブルな番組ガイドとオンスクリーンメニュー

ICTの進化に、アクセシビリティをカバーさせていこうというアメリカ政府の意思であり、デジタルデバイドを、平常時も災害時も絶対に出さないとい う意思でもあった。また、進化する通信と放送の融合を見越して、テレビとPC,放送とインターネットを、どちらもアクセシブルにしていこうというものであ る。本当は日本もこの分野でがんばらなくてはならないはずなのだが、総務省にはその気配もないようだ。
GSA(公共調達庁)の省庁間政策担当からは、リハビリテーション法508条の状況説明があった。コンプライアンスの状況確認やクイックリンクなどのツー ル準備などの状況が伝えられた。連邦政府のCIO連絡会においても、アクセシビリティは重要な項目であり、2010年の春に、CIO連絡会の中にアクセシ ビリティ委員会ができたと報告されていた。全省庁から出る担当が、毎月会合を持っているとのことである。日本の障害者対策本部が、宙に浮いている状況とは かなり違うようだ。また、私は参加することができなかったが、今回、ホワイトハウスからも担当官が来ており、アクセシビリティ推進のための新たな方針が説 明されたという。2010年の7月に調達局やe-Govオフィスが出した新しい方針は、アクセシビリティを、調達要件として、より明確にするということの ようだ。このあたりは、日本では全く消えてしまっているので、彼我の差はますます開くということだろう。

次に出たセッションも衝撃的だった。昨年秋、ADA20周年を祝う席で、ホワイトハウスの高官から提案が出されたそうだ。せっかくだから、まだ課題 になっていることを解決するプロジェクトを起こさないか?これに、各省庁やアメリカの企業が乗ってきた。で、出された課題が「障害者の旅行をもっとアクセ シブルに」というものだったのだ。出かける上での町、宿、観光施設、交通機関など、あらゆるものが、自分の障害なら行けるのか、使えるのかがわからない状 況を無くそうという活動である。もちろん、それをICTで行う。国交省や運輸省のデータを地図上に落としこみ、観光地などのデータを貼り付け、顧客が出し たツイッターなどの評価内容を連動させ、と、アクセシブルな旅のポータルを、ソーシャルメディア込みで作ろうというのだ。コンセプトを聞いて愕然とした。 昨年、総務省に提出して、嬉野で実証実験をやってきたものと、ほとんど同じじゃないか。ニーズの把握や解決策の提示は、私の方がずっと早かったのに。なん だか、アメリカの省庁横断で、IBMやAOLまで参加しての体制で、きちんとした組織で動いているのを見ると、羨ましくもあり、寂しくもあった。シカゴや サンディエゴ、ブラジルやEUも参加している。こうやって、世界標準になっていくのかもしれない。

(写真:1、システム概要イメージ 2:アプリの画面例)

システム概要イメージ

後で主催者の一人であるJim Toviasに、「ねえねえ、日本はどこか参加しているの?」と聞いたら、「まっさか。君が来いよ」と誘われてしまった。ま、私さえ知らないプロジェクト なんだから、日本政府から打診があるわけないか。日本でこそ必要なアプリなのに、たぶん縦割の日本では、DB共有など夢のまた夢かもしれない。ソーシャル メディアとの連動も、まず霞が関では出て来ない発送だろう。Crowd sourcing とか、Citizen science という言葉もここで聞いた。市民の中にある知恵をネット上でつなげていくという試みだ。スマートフォンやタブレットPCでみんなが集めた情報が、地域に、 地図上に蓄積されると、それは、そこを訪れた人にとって、有益な情報源になる。障害別に、ニーズ別に、アクセシブルに、提供できたなら。。


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