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6月20日 WGBH/NCAM訪問

午前中、時間があったので、もう一度MITのあたりをぶらぶらする。MITの博物館はあまり面白そうではなかったので、パス。韓国マーケットに日本食が多くておもしろい。CoopでNewAge系の本を探してみたりしたがあまりぱっとしない。やはり科学の殿堂では歓迎されないのか?20世紀のデザインという、小さいけれど、非常に美しい本を買う。さまざまなジャンルの、一世を風靡したようなデザインの製品が一堂に会している。未来のデザインというページもあって、なかなか面白い。

ついでにもう一軒、向かいのMIT Pressという本屋に入って、はまってしまった。Coopより、ずっと洗練された本ばかりが並んでいる。あっという間に2時間がたち、やむなく2冊だけ選んで買った。使いやすいデジタルデザインについての本だ。日本でこんなもの、まだ見たことが無いような気がする。「製品のデザインは、客がお金を払ってから、使いにくい!と怒っても企業は知らぬふりができる。でも、Webデザインは、これが使いにくければ客はお金を払わないのだから、企業にとっては死活問題だ。」そうなんだよ。まったく。わたしもずっとそう思っていたんだ!と叫びたいようなセリフが並んでいる。かばんが異様に重くなったので、ホテルへ戻ることにする。タクシードライバーは女性だった。

関根:「何年くらいここでドライバーやっているの?」
ドライバー:「33年よ」
関根:「まあ、パイオニアじゃない。女性ドライバーはたくさんいるの?」
ドライバー:「とっても少ないわ。ここ、ケンブリッジだから安全だけど、ボストンではいやよ。」
関根:「でも、あなた、楽しんで働いているように見えるわ」
ドライバー:「ええ、とっても楽しいわ。いろんな人に会えて、いろんな企業へ行けて、社会がどう動いているか、とてもよくわかるのよ。この仕事、大好きよ」
たくましく、しなやかで強いアメリカ女性の典型のようなひとだった。わたしはこの街がとても好きになった。

WGBHの前で午後はWGBHへ行く。ここも2度目だ。Larry Goldbergとは、もう長いつきあいで、先週もProvidenceで打ち合わせをしてからの訪問である。WGBHは、教育を主目的とした放送局で、この中のNCAM(National Center for Accessible Media)は、放送やインターネット、デジタルメディアなど、いわゆる「メディアのアクセシビリティ」にとりくんでいる100人ほどの組織である。連邦政府のファンドの他、多くの企業がスポンサーをしている。

最初に、デジタルテレビの字幕システムを見せてもらう。左がアナログ、右がデジタル、下がソフトアナログで作成したものがデジタルにも送られ、ほんのわずかな遅れではあっても、共通して使える技術のデモを見せてくれた。また、これをパソコンで見るための機材も説明してくれた。韓国のLG Technologyが開発したもので、150ドルくらいのアダプターカードをデスクトップに入れ、アンテナをつけると、これでテレビが見えるのだという。パソコンで見ると、字幕のフォントや大きさなどが自由に変更できるので、快適だ。韓国は日本よりも字幕の普及やデジタルでの配信に非常に熱心で、技術的には日米より進んでいるのではないかと思われる。ま、日本でも数社がタッピングしていると聞き、多少は安心したが、情報保障が完成するまでにはまだまだ時間がかかるだろう。聴覚障害者が、情報を制限され、困難な状況にあるということは、日本では本当に認識されていないのだ。耳の遠い高齢者が増えても、今のままではとても追いつかないと思うのだが。。

MAGpieの実演次にこういった、デジタル字幕の作成ソフト、MAGpieを見せてもらう。映像を聞きながらキーボードから文章として打ちこみ、画面に表示するのに適当な長さで切り、次の文章のための枠へカーソルを移動する。これをしばらく繰り返して、字幕の本体を作る。次に、また映像とこの字幕を確認しながら、文章の始まるところで、あるファンクションキーを押すと、そこに、Timeデコーダーが時間を刻印するのである。これでほぼ、完成だ。これまでの環境では、パソコンをシステムとしては使っていたが、実際にはビデオのほうに時間のデータを入れるため、かなりアナログの処理が必要だったため、びっくりするくらい簡単な印象である。次期バージョンで、QuickTime版や、Audio Descriptionを追加するソフトと組み合わせるという話しだったが、こういった製品開発を行える技術者が揃っていることに憧れてしまう。

次に、映画館などで必要な人にだけ字幕を見せるMoPIXのデモを見せてもらう。部屋に入ると、大きな電光掲示板に逆文字で説明が出ている。いったい、何なんだ、これは、、ときつねにつつまれたような顔をしていると、Larryが、椅子をかかえて入ってきた。ドリンク立てにきっちり入る大きさに作られたアームの上部に、半透明のスクリーンがついている。その椅子に座ってテレビを映し、スクリーンを顔の前に置くと、後ろの逆文字が写って、ちゃんと字幕付き番組になった。ふむ。これは、映画におけるClosed Captionの概念だ。もし、誰もが見えるOpen Captionで字幕を提供すると、人によっては不要な情報かもしれない。だから、映像の本体には字幕を埋め込んでおき、必要な人にだけ、過不足なく情報を提供するのだ。視覚障害者へのAidio Descriptionは、ヘッドセットが準備されていた。アーム15個、ヘッドセット15個と、バックの電光掲示板で1セットになっている。8000ドル?とか言っていた。アメリカではディズニーを始め、かなり多くの映画館やIMAXシアターからの引き合いがあるという。一本の映画を、視覚や聴覚に障害がある人と一緒に楽しめるためにはどうすればいいのか、という問題に対し、ユニバーサルデザインが解答した例であると言える。また、これを映画館に装備していないことに関して、すでに2件の代表訴訟が出されているとのことだった。技術の進歩、法律の整備、そして当事者の熱意が、こうして市場を作りだし、情報保障を支えているのだと実感する。

最後はCaption Centerへ行った。ここでの字幕作成の速さについては、見て驚かない人はいない。字幕作成の本場一般的なキーボードではなく、速記用の特殊なキーボードを使っている。ローリーという素敵な女性が実演して見せてくれたが、アルファベットの組み合わせで膨大な量の文章を話すスピードに合わせて打ちこんでいく。名前など、固有名刺は事前に辞書登録をしておくそうだが、それにしても速い。速記者の学校で2年、WGBHで1年の研修を受け、やっと仕事ができる状態になったのだと教えてくれた。

アメリカでは、2006年にすべての放送に字幕をつけることが法律で決まった。実現可能かと訪ねると、放送局によっては品質の悪い字幕しか提供できないので、%は達成できても、結果には自信がないと顔を曇らせた。たしかに、ここまで正確な字幕作成ができるスタッフを揃えているところは多くないので、大変だと思う。ただ、デジタル放送が普及し、映像の作り方が変わってくると、また違う解決策があるのではないかと思われる。

わたしは夢見ている。一つのデータ、情報が作成されると、それは最初から、さまざまな変容可能な構造になっていて、わたしたちが望む形式で、それを引き出すことができるようになることを。Webのデータは始めから画像にテキストを含み、映像には最初から音声認識でテキストが含まれる。わたしたちは、自分が使いたいように、そのデータをつかえば良い。後付けではなく、最初から、デザインの段階から、無理をしないでそのデータがアクセシブルになっている。。そうなって初めて、情報のユニバーサルデザインは完成するのだ。WGBHやWAIの努力に、もしMITが力を貸せば、そんなに難しいことではないような気もする。ま、役に立たないものを作るのがMITメディアラボの良さでもあるので、強制しないほうがいいのかもしれないけど。