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3月11日 ボストン Adaptive Environment Center

昨日があまりにも長い1日だったため、ちょっと朝がつらかった。地下鉄に乗り、Adaptive Environment CenterのElaine Ostroff氏を訪ねた。ここはNew EnglandにおけるADAの情報センターであり、かつUSにおけるユニバーサルデザインのキーポイントでもある。昨年NYで開催され、大成功したユニバーサルデザイン国際カンファレンスの主催者だ。来年またロードアイランドで開く第2回の国際会議の準備に大忙しという状況であった。オフィスはボストンの中心地にある貸しビルの一角で、9人のスタッフが仕事をしていた。半分はなんらかの障害をもっている。ひっきりなしに電話がかかり、スタッフは非常に忙しそうであった。ここで、このセンターの創設者であるElaine Ostroff女史、およびExecutive DirectorのValerie Fletcher女史と意見交換を行なった。

Adaptive Environment Center内. E&Cのシャンプーが見える

まず、これからUDがどうなっていくのかについて話しあった。時間はかかるが、根気よく教育プログラムや、地域に密着したプログラムを継続することの重要性が指摘された。またリハ法508条(連邦政府はアクセシブルな情報機器しか調達しないという規定)が再度、補則を検討しており、この中にUDの概念が盛り込まれるかどうかがキーだということである。米国では、常に人権思想や法律が、世界を動かしてきたことを実感した。

また、情報通信の重要性についても広く言及した。建築界より、情報通信の産業のほうが、より柔軟にUDの概念を受け入れており、ずっと話がしやすいと本音をもらしていた。建築界は、ADAやUDと聞くと、やらなくてはならないこと、として負担を感じるというのである。なかなか、自分自身の問題として取り組むことが難しいとも言っていた。これは既存の建築物に対するアクセシビリティ確保によって蒙ったコストの問題から来る態度と思われる。しかし、今後の高齢化を建築界も無視することはできないので、少しずつでもUD'94は進んでいくと思われる。

これに対し、情報通信などの比較的新しい分野の産業界は、UDによってマーケットが広がるのなら検討しようという態度があるという。ただし、関根個人の感覚としては、情報産業においても、日米ともUDをいまだに余分な負担と誤解している層が厚く、決してそれほど柔軟ではないと思われる。いずれにしても、産業界への啓蒙、マーケットの要望を伝えることの重要性を痛感した。

ADA関連の資料も豊富ビデオのライブラリー

ライブラリーで多くの本やビデオを見せてもらった。このセンターはADAやUDに関する数多くの本や資料を揃えており、かつ、自分たちでも多くの資料を発行している。ただし、量としてはADA関連のもののほうが圧倒的に多い。ビデオはすべて貸し出しのみで、購入はできなかった。ここで見たビデオは次のとおり。

  1. Universal Design in Architecture

    建築におけるUDの重要性をコンパクトにまとめたもの。家や公共空間におけるバリアと解決策、UDサンプルを、実例やインタビューで構成している。1994年

  2. Toward the Universal Design

    Good Design for everyoneを説明するビデオ。1994年

  3. Beyond Access:Universal Design at Millay Colony for the Arts 1997年

    MAとNYの境にある芸術家村を、最初からユニバーサルにデザインした例。芸術家も高齢化したり障害を持つことがあるし、障害をもつ芸術家もいるという考えで、古い建物を再設計する際に、障害を持つ人も使うことを考慮してデザインした。建物やインテリアは、非常に美しい。自然に調和して、木をふんだんに使い、いかにもアーティストがよい作品を生み出せそうな雰囲気に満ちている。片道3時間というので今回の訪問はあきらめたが、一度訪ねてみたい場所だと思った。

  4. Searching for UD 1996

    建設やデザインの関係者、支援技術の関係者などが作ったビデオ。バファロー大学の教育プロジェクトなどが紹介されている。(これ以降は、ADA関連)

  5. Beyond the ADA 1993年

    ADAの概念と、統合化がUDの基本的な考え方をもたらした、と説明する際に有効なビデオ。まだUDということばは出てこない。

  6. Serving Customer with Disabilities

    障害をもつ方を、お客様としてどのように接すればいいか、ニーズ別に本人へのインタビューを交えながらわかりやすく構成したもの。(時間がなくて見なかったが、この他にもバリアフリーやADAはビッグチャンスだというメッセージのビデオはたくさんあり、小売業やサービス産業への啓蒙ビデオが多くつくられていることがわかった)

  7. For the rest of your life 1990年

    高齢社会への準備、理解を深めるためのビデオ。ナレーターが説明しながらデザイナーや建築家にインタビューし、その合間を大学の先生がデータを示しながら理論的に説得するというもの。高齢者がずっと住める家や環境という点ではUDへつながる部分もある。しかし当事者に語らせておらず、いかにも先生向けで、少し感覚が古いと感じた。Elaineも、この感覚はUDとしては古すぎる。もっと一般人向けにこれからは作成すべきとコメントした。

    ビデオを見た感想としては、UD関係の映像が少ないのが意外だった。ADA関連の膨大な量 とは比較にならない。やはり法律から来る生活への影響度の違いだろうか? また、建築や教育に対してのものが多く感じられ、一般の生活感覚から見たUDの必要性を訴えるものはあまりないように感じた。結局、UDは、ADAによる統合化のインパクト、高齢社会への対 応などがミックスされて出てきたものであるように感じられた。Elaineにもこの印象を伝えたが、UDの映像化は難しく、かつ非常に製作に費用がかかる点を指摘されていた。

    日本でもなんとか映像化したいシナリオはあるのだが、先立つものが全くないのが現状である。つくづく、寂しい気がしてしまう。