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u-Japanの理想はどこまで実現したか

「スローなユビキタスライフ」を出版して以来、未来のユビキタス情報社会について話してくれという依頼をよく受ける。そんなとき、私は常に、総務省サイトのU-Japanの概念図を紹介する。Ubiquitousの下に、Universal、User-Centered, Uniqueの3つの軸が並ぶ素敵なものだ。だがこれを語りながら、私は一抹の寂しさを禁じえない。いま、政府の中で、いったいどれだけの関係者が、この図に示された理念を理解しているのだろう。この図が望んでいた未来を、目指して動いているというのだろう。

画像:U-Japanの概念図
図は、総務省「u-Japanの理念」より引用

Universal という点では、たしかに関係者の努力でシニア向けの携帯電話は普及した。自治体のWeb担当者の中にはアクセシビリティへの理解も増えた。だが、U-Japanが掲げた「2010年までに国民の80%がICTは課題解決に役立つと評価する社会に」という目標は達成できるだろうか?「高齢者のネット利用率を3倍に」という目標はどうだろう?携帯電話にネットアクセスの機能がついているからといって、実際にメールやWebをケータイで使っているシニアの率はごくわずかだ。これを統計上の利用者数にカウントするのは、いかがなものだろうか。地方ではメルアドのついた名刺を持たない人が大半であり、都会でも中小企業のトップは自分ではメールも打てないことが多い。自治体サイトのアクセシビリティはかなりよくなったが、企業サイトは、まだユニバーサルデザインには何の配慮も無く、法的規制がなければ何もしなくていいと公言する良識のない担当者さえ存在する。U-Japanの中のユニバーサルデザインの導入促進の目標は、まだほとんど効果が上がっていないのに、2007年で終了しているのだ。サイトの中にはたくさんのPDFがあるが、みな大変に重く、ダウンロードの途中でやめたくなるものばかりだ。多様な人へのアクセシビリティどころではなく、誰にもアクセスできない!という状況かもしれない。

User-Centeredについては、もっとミゼラブルな状況だ。このU-Japanのサイトそのものが、大変ユーザビリティが低い。そしていったい誰に向いて作られているのか、ぜんぜんわからない。どうも、U-Japanについて国民よりも、総務省の中でその前のe-Japan計画を作っていた役人向けのように思える。電子政府や電子自治体の利用率が上がらないのは、サイトやシステムのユーザビリティが極端に低いためであるという、インターフェース研究者の間では常識(?)となっている事実を、国はまったく理解していないように見える。PDCAの最初から、きちんとユーザー中心設計のメソッドに基づいてデザインをしたのか?計画時にはユーザーニーズ調査、公開前にはユーザーテストを行い、ユーザビリティに問題がないか確認を行ったか?その際、多様なユーザーにも見てもらってアクセシビリティも確認したか?公開後も常に読者の意見を受け取れるページを設け、課題があれば常に修正を続けているか?良識ある企業サイトやECサイトであれば、顧客満足度向上のために必ずやっているこのプロセスを、政府のサイトも、きちんと踏んで欲しいものである。

Uniqueに関しては、あまりコメントしたくない。そういえば、情報大航海時代プロジェクトってどうなったのだろう?日本から国際標準を出していく方針には賛成するが、グローバルなこの時代に日本のITはあまりにも内向きではないだろうか?国内でそこそこの市場があるため、そこに安住してしまい、結局は国際市場の進化に乗り遅れるガラパゴス現象からの脱却はできるのだろうか?一般製品の中には、すでに日本の狭い市場を越え、海外でまず認められて、それから日本に再上陸するものも出てきている。ミラノサローネのような国際展示会で、使いやすさとデザインの美しさで、世界の人気をさらうものも出はじめているのに、さて、U-Japanではどうだろう?次のxICT戦略では?

私は今頃になって、自分の著書名が、「スローなユビキタスライフ」だったことを後悔しはじめている。なんだか、政府は、ユビキタスの成果を、ものすご〜〜くスローに、ゆっくりと進めていいんだと誤解したのかもしれない。もちろん私にそういう意図は、さらさら無かったのであるが・・・。

−2008年6月17日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」

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