Home » レポート » 研究レポート » 情報のUDレポート » 情報のユニバーサルデザインとは何か

情報のユニバーサルデザインとは何か

IT社会が進む。それは、誰もが使えるようになることを目指すことである。ITが水道や電気と同じ、インフラの一部であるとすれば、国民はその成果をできるだけ平等に享受できることが望まれる。そのとき忘れてはならないのは、日本がまもなく、有権者の過半数が50代以上となる、超高齢国家であるということである。IT産業においても、ユニバーサルデザインの考え方が必要な時代がやってきている。

ものづくりの基本は、かつて健康な成人男子を中心としていた。Mr. Averageと呼ばれる18歳男性を基礎にまず設計し、その後、女性や子供を視野に入れる方法だった。しかし、このパターンでは、人口の変化に対応できない。2005年には日本は成人人口の50%が50代以上となる。女性に限っては2001年、実に今年の話なのだ。有権者・消費者・納税者の半分が50代以上という、人類の歴史始まって以来の事態を日本は迎えている。

若い健康な男性だけでなく、女性や子供、高齢者や障害を持つ人、外国人など、多様な人々のニーズをできるだけ考慮してものづくりやまちづくりを行なうこと。これをユニバーサルデザイン(以下UDと略す)という。障害者や高齢者に使いやすくなるという点でバリアフリーに近いが、バリアを消すのではなく、最初からバリアを作らないデザインを目指す。主にものづくりやまちづくりにかかわる人々に、この数年浸透してきた概念である。ユーザーにとっては、使いやすくなれば名前はどちらでも構わないとも言える。できるだけわかりやすく、障害のある人や高齢者に使いやすいものは、若い人にも使いやすい場合が多い。タイプライターや音声認識が、最初は障害者支援技術から始まったように。

IT産業においても、このUDの考え方は重要である。すでに若年層の利用は頭打ちだ。18歳人口は減り続けている。まだ使っていない中高年層を、始めから切り捨てるか、潜在顧客と見ることができるかどうかが、企業の生命線を分ける日が来るかもしれない。これは、ある意味で大きなチャンスでもある。米国はまだ若く、UDにはそれほど興味がない。2バイトコードを必要とする韓国、中国とも、今後日本と同様の高齢社会を迎える。膨大な市場が、まだ手付かずで残っていると考えて良いのかもしれない。

もっと簡単なPCの入出力や、もっと見やすく理解しやすいWebデザイン。経済省や総務省はさまざまな指針を出して企業の啓蒙に努めている。しかしまだまだやるべきことは山積している。デジタル放送に最初から字幕や音声解説を準備すること。マルチリンガルの音声案内装置(今は専用機だが将来は携帯電話やPDAになる)を美術館や国際空港などに装備すること。これはユビキタスネットワークのサンプルにもなりうる。ITSを誰もが使いやすいものにすること。各省庁や企業が、取り組むべき課題は多い。高齢者や障害者に使えるものを提供することは、もう社会貢献ではない。利用できるユーザーを広げ、顧客満足度を高める現実的な方法なのだと、それこそ「誰もが」理解すべき時期なのかもしれない。

- 2001年3月13日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

Buzzurlにブックマーク Googleブックマークに登録 はてなブックマークに登録