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情報のユニバーサルデザインの進展

1.障害・高齢者のデジタルデバイド問題

情報通信の進歩は、高齢者や障害者を含む誰にとっても利益のあるものでなければならない。2005年に50代以上が成人人口の50%を越える日本においては、これは焦眉の問題である。携帯電話は障害者にはかなり普及してきたが、50代では5%以下である。また、パソコンやインターネットは、20代から30代の利用率が40%弱であるのに比べ、50代では、5%程度に減少する。この差はどこから出てくるのだろう?機器が難しいからである。インターネットや携帯電話を使わなくとも、必ずしも生きるのに困難はない。しかしより安い製品をネットで選んで買ったり、緊急時に携帯で連絡をつけることが可能といった多くのメリットは享受できない。また地域の医療や福祉に関する情報など、当事者が最も有益な情報を持っていても受発信できない可能性もある。

日本におけるデジタルデバイド(情報格差)の問題は、高齢者・障害者の場合、顕著である。ここでは、デジタルデバイド解消のためにユニバーサルデザインの考え方が貢献できるものは何かを概括する。

2.機器の使いやすさ向上

高齢者にとって、携帯電話やパソコンのキーボードなど、細かいキーを識別して入力を行わなければならないものは、アクセスが難しい。これは、券売機やATM,情報KIOSKにおいても同様である。このような機器の開発において、ボタンの見易さ、識別のしやすさ、適切なフィードバック、UNDO機能などが、人間工学に基づいて配慮されるべきである。使いやすさの基準については、ISO COPOLCOにおいて、検討が継続されており、成果が待たれるところである。視覚障害者と共に使えるATMなどもTrace CenterのGregg VanderheidenやUSのAccess Boardで検討されており、日本でも業界の意識改革が始まっている。パソコンのアクセシビリティに関しては、通産省アクセシビリティ指針が2000年5月に改定され、多様なユーザーへの配慮をメーカーに求めている。

これらは、まず「共に使える」ユニバーサルな製品開発をメーカーに要望するものである。後付けではなく、最初から配慮を組み入れることで、コストを削減し、ユーザーがその機器や情報にアクセスしやすくなる。更にその機能がカスタマイズ可能であったり、支援技術と連動するように設計されることで、個別対応についてもより柔軟に対処できる環境が整う。UDの考え方が機器開発の中心となる時代がくると、障害者に対する技術援助は、かなり満足のいくものになると思われる。

3.インターネットのアクセシビリティ

機器が使いやすくなっても、その内容であるコンテンツがアクセスできるものでなければ、情報はやはり取ることができない。企業や自治体が発信しているホームページは作成者が若い場合が多く、高齢者への見易さの配慮や障害者へのアクセシビリティへの配慮がない場合も多い。インターネットの標準化組織であるW3C WAI(Web Accessibility Initiative)は、ホームページ作成のガイドラインを、Webコンテンツ、作成ツール、ユーザーエージェントの3つで公表している。米国は508条で、ポルトガルは独自の法律を制定し、公的機関のWebサイトがこの指針を守ることを勧めている。

日本でも郵政省が2000年の5月にコンテンツのガイドラインを発表した。この中に、22省庁のホームページ中、実に19省庁がアクセシビリティに配慮していないという現状が報告されている。今後の改善が望まれる。 これも、最初から配慮をしておけばさまざまなユーザーに対応できるという点でUDの問題であるが、有害情報を見せないV-Chip同様に、UDでないhtmlは顧客に見せないツール等も今後検討されるべきである。

4.放送のアクセシビリティ

放送は、緊急時を始めとして公共性の高いものであるため、障害を持つ人や高齢者に同等の情報をユニバーサルに提供する必要がある。しかし、日本においてはニュースの字幕は、やっと2000年の3月に試験的に提供が始まったレベルである。米国では、字幕は聴覚障害者だけのものではなく、高齢者、英語を母国語としない人、学齢期の子供等、さまざまな年齢、立場の人々にできるだけ多くの情報を伝える手段の一つとして確立している。2007年までにすべての生放送を含む番組に字幕がつく予定であるが、日本ではまだ数%にすぎない。今後デジタル放送の普及やインターネットとの融合が進むに連れ、情報をよりユニバーサルに伝える必要性が増していくものと思われる。当事者を含む多くの関係者が一堂に会し、技術的な問題点のクリアと法制度等の整備を話し合う時期であろう。

5.企業や国、当事者の意識改革

これまで、高齢者や障害者は、経済力のない弱者とみなされることが多く、その利用する製品は特殊な福祉機器として企業の社会貢献として開発されることが多かった。しかし、高齢者人口が増加し、その購買力が見直されるに当たって、考え方は変わりつつある。すなわち高齢者層を新たな市場と捉え、そのニーズにあった製品を一般市場に提供して行こうという方向に変わりつつあるのである。これは高齢者や障害者に使いやすくかつ安価な製品が市場に出回るというメリットだけではなく、障害者のニーズに企業側が耳を傾けるという良い傾向を助けるものである。障害者は、もはや企業にとって、社会貢献で援助しなくてはならない特殊な層ではなく、高齢者マーケットへの対応製品を開発するためにその意見を拝聴すべき存在に変化したのである。

また障害者側もその意識変化に答えるべく、より高等教育を受け、自らがデザイナーや製品企画者として企業の中枢を担う役割に適応していく必要がある。大学のインダストリアルデザインのコースで、障害を持つ学生の受け入れを希望したい。教育におけるユニバーサルデザインの普及が、実は根本の問題であり、時間はかかるが最も効果的な解決策になると思われる。

- 2000年6月 リハ工カンファレンスでの発表 -

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