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ITのユニバーサルアクセスが実現か?

年齢や障害にかかわらず、自分の使いたい入出力で身近な機器を操作し、それから出た指令で周囲の環境を制御する。携帯電話やPDA、点字ディスプレイから、パソコンや情報家電、ATMや券売機を制御するプロトコルが、米国では標準化されようとしている。

■CSUN2002の目玉はURC

 今年も恒例のCSUN2002へ出かけた。これは「障害者とテクノロジー」という会議で、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校が毎年開催している世界最大の支援技術コンファレンスである。3度目を迎えた弊社のツアーに、今年は30名が参加した。ここでは毎年、米国のITエリアにおける障害者支援技術動向が把握できる。今年は508条の影響を受けてPDAやATM、電子投票システムなどのアクセシブル化、e-learningや大学のアクセシブルな授業などが目立った。

 技術動向として私が注目したのは、ユニバーサル・リモート・コンソール(URC)である。これは、米国の政府、産業界、大学などが集まったINCITS(International Committee for Information Technology)の中の研究グループV2が研究し、標準化を検討しているプロトコルである。支援技術業界を常にリードしてきたWisconsin大学TraceCenterのGregg Vanderheiden氏やMicrosoftが提唱し、現在20のIT企業や組織が参加している。

■ユビキタスワールドに加わる「誰でも」の概念

 これまで、ユビキタスな情報環境は、「いつでも、どこでも」という文脈で語られ、「誰でも」が付け加えられることはあまりなかった。誰がそれを使うのか、という観点が少なかったのである。しかし、ITが成熟した産業となり、すでにユーザーがプロだけではなくなってきている現在、機器のユーザーインターフェースや使い勝手は、製品価値を左右するものとなった。しかし、多岐に渉るユーザーの好みや要望を、全て満足させるインターフェースを作ることは難しい。障害をもっていたり、高齢である場合は特に一般機器へのアクセスが困難だ。その解決策となるのがURCである。

■URCとは何か

 URCは、簡単に言えば常にリモコンを持ち歩くようなものだ。しかしそのリモコンは強力で、自分の周囲のあらゆる機器を制御できる。V2は、そのリモコンと機器の間のプロトコル(AIAP:Alternatiove Interface Access Protocal)を決めようとしているのだ。携帯電話、PDA、そして数多くの点字や音声入力を備えた支援機器が、このコンソール(操作盤)になる。ターゲットとなる機器は、パソコンやワークステーションはもとより、ATM、券売機、情報KIOSK、電子投票システムなどの公共端末、家中の家電製品やオフィスのコピー機なども含まれる。もはや、一般機器は、あらゆるユーザーに合わせる必要はなく、ただ、コミュニケーションがとれればよい。ユーザーは、忠実な介助犬のように自分のくせを飲み込んだ機器だけを使えれば、周囲をすべて制御できるのだ。

■日本企業はどうするのか?

 自分の使いたい機器(アクセッサー)を自分の手許に置き、それが周囲の機器(ターゲット)と会話する。これはかねてからスタンフォード大学のアルキメデスプロジェクトやSUN MicrosystemsのJINIで語られてきた概念だったが、ついに標準化にまで進んでいたかと思うと感無量である。XMLのTranscodingともつながって、データをユーザーの好みに応じて変化させて渡すという部分も考えられており、AAIML(Abstract/Alternative Interface Markup Language)というXMLベースの言語もできつつあるそうだ。しかし、この委員会、米国の企業が主導権を握っており、すでにANSI標準化を計画しているという。日本の家電や携帯電話業界、いやIT産業界自体も、なんらかの形で参加しておく必要があるのではないだろうか?障害者支援技術など自分には関係ないという思い込みに、いつかIT産業全体が足元をすくわれる危険性を、私は予感している。

- 2002年4月16日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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