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情報のユニバーサルデザインについて

  1. 障害者と情報通信技術
  2. 情報のユニバーサルデザイン
  3. 今後の展望

1. 障害者と情報通信技術

グラハム・ベルが聴覚障害者のコミュニケーション支援のために電話を開発したように、タイプライターは最初、視覚障害者が文字を書く道具として開発された。また音声認識技術は、頚髄損傷者の入力用として研究が始まったのである。このように、障害をもつ人のニーズを解決しようとして、社会を変える技術革新がなされていったケースは多い。障害者・高齢者の存在が、情報通信の進展に寄与したものは大きいのである。

また、情報化社会の進展が、障害者に与えた影響も大きい。インターネットのメール機能を駆使する障害者が増えてきた。覚えるまでにはそれなりの困難もあるが、使いなれてくると便利さを実感するようだ。オンライン環境では、誰とでも、他の障害者とも、自由に会話できる。インターネットは障害者にとって、眼鏡やはしごと同じような、バリアを解消する道具となってきたのである。メールだけでなく、WWWでさまざまな情報が検索できるようになったことも、障害者の自由度を増した。注文がオンラインでできるようになると、ゆっくりカタログを眺めて、必要な製品を選ぶだけで買い物が済むため、電話や店頭でのコミュニケーションに苦労することもなくなった。質問もネットから可能だ。今やホテルや航空券の予約、パソコンや本、お中元の品まで、ネット上の豊富な品物から比較検討して自由に選択できるようになっている。

社内研修なども、WWWやCD-ROMなどで提供されるものも増えてきたため、質問などもメールで可能となった。また障害者自身の作成するホームページも増加してきており、表現力のあるインターネットの情報が、自由に受発信できるようになってきた効果は大きい。筆者が95年から保守している、障害者の情報機器利用を支援するWebサイト「こころWeb」に、「障害を持つネットワーカーたち」というコーナーがある。ここにはネットワークを使って活動するさまざまな障害者が自分の意見を述べている。
http://www.kokoroweb.org/example/index.html

このように、障害者・高齢者には大きなメリットがある情報通信だが、必ずしも浸透しているとはいえない。そのようにデザインされていないからである。次章ではその原因と解決策について述べる。

2.情報のユニバーサルデザイン

今は1年でかつての6〜7年分進むといわれる情報化社会である。多くの産業が情報通信によって激変し、また生活の分野においてもさまざまな変革が起きている。しかし、来世紀は、同時に成人人口の50%が50代以上となる、高齢化社会でもある。パソコン・通信機器、インターネット、さまざまな情報通信機器やサービスは、膨大な高齢者や主婦、子供たちや障害をもつ人々を抜きにしては存在し得なくなるであろう。来世紀の情報化社会を誰でも使えるものとするには、情報通信技術や社会インフラを、できるだけ誰でもが使えるよう、ユニバーサルにデザインする必要があるのだ。ユニバーサルデザインとは、障害者・高齢者を含む、より多くの人ができるだけ使えるよう最初から配慮して設計することである。情報通信のユニバーサルデザインを実現するためには、次のような点に配慮する必要がある。

2.1 パソコンをもっと易しく

なんとか使えている若い世代でさえ、本当にパソコンが「簡単だ」と思っている人はまれである。ふだん触る機会の少ない高齢者層や主婦層にとって、情報機器は便利だとわかってはいても敷居が高い。音声認識や赤外線入力を始めとする、もっと易しいユーザーインターフェースの開発が急務である。パソコンは、キーボードをベースとしたCUI(文字ユーザーインターフェース)、マウスをベースとしたGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)と進化してきたが、今後は声での入出力を中心としたAUI(音声ユーザーインターフェース)の開発が中心になるだろう。現在、この機能の応用は、さまざまな障害者や高齢者からも期待が大きい。今後、このような「非接触型のユーザーインターフェース」が主流になる可能性が高い。

2.2 アクセシブルなホームページ

生活のあらゆる分野において情報化が進展しつつある現在、その人々を対象外とした自治体や企業の情報発信は無意味なものになってしまう。インターネット上のデータも画面も、障害者や高齢者の利用を考慮して設計されるべきである。視覚障害者は音声読み上げソフトで、弱視者は拡大ソフトと組み合わせて、また肢体不自由者は自分の使いやすい入力装置を工夫してWebから情報を得ることができる。その際に使いやすい設計とは何かを、インターネットの標準団体であるWWWコンソーシアムの中のWeb Accessibility Initiativeが検討している。アクセシブルなホームページを作成したい方は、後半の濱田の資料を参考にしhttp://www.udit.jp/ または「こころWebからの提案」http://www.kokoroweb.org/tips/index.htmlなどを参照していただきたい。

2.3 支援技術と連動するデザイン

一般製品を設計する際に、その製品を障害者・高齢者が使う支援技術と連動させて使うことを考慮した上で設計することが肝要である。2.2で説明したホームページを音声リーダーで聞きやすくデザインする、などのように、基本的な情報をさまざまに可変なデータ形式で作成しておけば、障害者は自分にとって使い勝手のいい支援技術を利用して、その情報を扱うことが可能になるからである。このためにも、障害者支援技術業界と一般製品業界との積極的な交流が求められる。

2.4 UD普及のための社会インフラ

UDは、高齢者・障害者の意見をフィードバックしながら、より進化していくものである。そのためにも、障害を持つユーザー、高齢者ユーザーの意見を企業や自治体が聞き、それを製品に反映して行く体制作りが必要である。支援技術とパソコンが、情報を得、意見を伝えるための道具として普及し、当事者と設計者、福祉と技術の分野の人間が意見を交換しあう場ができることが望ましい。生活者の視点で、地域からの情報発信を可能とする情報インフラの普及と情報リテラシーの向上が求められる。

3. 今後の展望

これまでは、障害者だけのニーズを解決する研究開発が多かった。しかし、今後は、高齢化社会の進展と、在宅介護の増加などに伴い、高齢者・障害者が、家族と共に使えるということが重要になってくる。「障害者専用」から「障害者・高齢者を含むメンバーで一緒に使える」という「ユニバーサルデザイン」の観点から見た製品開発が必要とされてくる。このような観点で開発された製品は、

  1. 障害者同士の意思疎通を図り
  2. 障害者と健常者の意思疎通を図り
  3. 異なる種類の障害者間の意志疎通を図る

ことが可能となる。

 インターネットなどは、適切な支援技術と共に使えば、上記の3つを可能にするものである。始めるときの敷居の高さとサポート体制、通信料金などの問題が解決されれば、多様な障害者にとってメリットが大きい。しかし、これまで「障害者専用」部分を後付けで追加することに慣れている企業にとって、「最初から高齢者・障害者の利用を考慮して」「一般製品を作る」ことは全く未知の分野であり、どこから手をつけていいかわからない企業も多い。これまで障害者向け製品を作ってきた企業との連携が望まれる。また、ユーザーである障害者・高齢者の情報発信を支え、その意見を製品やサービスに反映することも必要である。

情報化社会の進展に伴い、障害者の進学、社会進出も次第に進んでいくものと思われる。新しい技術の発展が、新たな情報障害者を作り出さないためにも、さまざまな障害者や高齢者が、新技術の開発動向に留意し、ユニバーサルなアクセスを確保する方向で開発が行なわれるよう、企業や政府に常に働きかけていく必要がある。また、そのような配慮がないまま市販されている製品群の改良については、ネットワークを通じて企業や自治体へ市民の意見を伝える独立した機関の存在が必要であろう。

これまでの情報化社会では、障害者が流れてくる情報を過不足なく受け取ることを課題としてきた。しかし今では、障害者や高齢者がインターネットなどの情報機器を使うことで、自らの意見を述べ、討議し、提言をまとめていくことが可能になってきたのである。障害を持つこと、高齢であることは、21世紀の社会に対し、先輩として提言する立場であるということだ。情報化の進歩が、障害者の新しい社会参加の在り方を拓くことを期待するものである。

- 1999年10月 -

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