Home » レポート » 研究レポート » 情報のUDレポート » 障害者とテクノロジー2004のツアーを終えて

障害者とテクノロジー2004のツアーを終えて

今年もまた、ユーディット恒例のロサンゼルスツアーが終わった。ユニバーサルデザインや障害者支援技術に関心を持つ参加者は、オンラインとオフラインを組み合わせたコミュニケーションで深い一体感を持つ。ITが人をつなぐ道具だということを、再認識させられる旅である。

世界最大の障害者支援技術の展示会

5回目を迎えるこのツアーの、今年の参加者は36名。IT産業のユニバーサルデザイン研究者をはじめ、障害者支援技術の研究者や実施NPOなど、多彩な顔ぶれがそろった。私が非常勤講師をしている大学から女子大生も多く参加するので、IT関連のツアーとしては珍しく男女比が半々である。今年も2月の半ばで早々と定員を超えてしまい、慌てて締め切った。 

ツアーの目的は「テクノロジーと障害者」Technology and persons with Disabilities というカンファレンスに参加することだ。このカンファレンスは、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN:シーサンと呼ばれる)が主催する世界最大の障害者支援技術の展示会と研究発表の会で、世界中から4000人を超す参加者がある。

IT技術の厚さが障害者の一般就労を支える

私自身は世界の趨勢(すうせい)を見るため、また海外のキーマンとつながるために8回も通っている。初めて参加した方は、まずその膨大な展示に圧倒されるようだ。日本の福祉機器展ではごくわずかしか見かけないようなIT系の支援技術が400社以上によって出展されている。IBM、HP、マイクロソフトといった大企業から小さなベンチャーまで、視覚や聴覚、肢体不自由、認知や学習障害といった、幅広いジャンルの支援製品がこれでもかというくらい続く。 

音声認識、視線入力、Webアクセシビリティー、ATMに電子投票機等々。統合教育をはじめ、企業への障害者の一般就労を支えるIT技術の厚さに、みな声も出ない。科学技術が、ITが、人間の幸福に役立つのだという当たり前の成果を目の当たりにして、自分の人生を問い直す研究者もいる。それらを支える制度や法律、教育のあり方に、日本を問い直す大学人もいる。 

もう一つ、参加者を圧倒するのが、盲導犬と電動車椅子の膨大な数である。企業の研究者やベンチャー企業の社長、大学教授や政府高官として参加する自立した重度障害者の多いこと。彼らとトーキングエイドや視線入力で会話しながら、人間の可能性について考える。 

もちろん、日本の方が技術的に優れている点もある。今回は、現在かかわっているやおよろずプロジェクトの成果からGPS機能とカメラ付き携帯で地域情報を受発信する研究を発表したが、このようなモバイル系のアプリケーションは少なかった。ユビキタスで先行する日本が、この分野で貢献できることは本当は多いはずなのだ。

ネットがつなぐユニバーサルな人間関係

たった1週間のツアーなのに、ここでできた人間関係はかなり長続きする。ツアーの開始1カ月前からメーリングリストを立ち上げているのだ。自己紹介、視察へ行きたい先の情報交換、生まれて初めて海外へ出る方への荷造りの指南、仕事を休むことの苦労など、ツアー参加前にオンラインでできた人間関係が、成田でオフラインミーティングと化す。飛行機の中では旧知の間柄のように語り合う。これが1週間続くのだ。戻ってからも感想や意見の交換、日本に戻って見えてくる社会のあり方の違いなどが語られる。同窓会をすることもある。 

このツアーに参加する人は、まだまだ日本社会では少数派かもしれない。だが、そのような数少ないこころざしのある人を、つなぐのがネットの役割なのだ。障害も年齢も住所も環境も超えて、ユニバーサルにひとを結び合う。そうやってつながった人々が、いつか日本の状況をより良く、より住みやすいものに変えていくのだと思いたい。

- 2004年4月7日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

Buzzurlにブックマーク Googleブックマークに登録 はてなブックマークに登録