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情報のUD 機器編

パソコンの使い勝手は、まだまだ一般人のことを考慮していないと前号で書いた。しかし、メーカーによっては、ユニバーサルデザインの勉強を地道に行い、設計段階からデザインに反映することで、よりわかり易いIT機器を作ろうとしているところもある。

たとえば、日本IBMがそうである。Accessibility Centerなどでの長い障害者支援技術の蓄積に加え、今ではデザインや人間工学、東京基礎研究所といった、関連機関が一堂に会してユニバーサルデザイン協議会を開催し、情報共有をおこなっている。もともとIBMは、USの法律の影響を受けるため、米国本社がリハ法508条や通信法255条の仕様決定に関与しているので、この分野に関する情報の蓄積は大きい。ハードウェアやソフトウェアのアクセシビリティガイドラインは、開発される製品のすべてに影響力を持つ。

このような部門協業によって創り出された新型ノートパソコン、Thinkpad T20は、日本のパソコン史上、画期的な、ユニバーサルデザインのPCである。暗いときに手許を照らすライト、黒字に白でくっきり見えるキートップ、他言語に取替えがきくキーボード、棒で使う方向けにノッチのついた移動キー、デザインに見える指のスライド、、、

決して障害者向けに見えないが、でもしっかり配慮された機能が、デザインも美しく埋めこまれている。もともとIBMの機械は、業界でも最もDurableと評判が高いのに、これでUDの観点からもよく配慮されているということで、福祉業界での評判は上々である。

ここでは、今後、高齢者市場をにらんで、またユーザーインターフェースをより良くする研究を行っているということだ。もっと一般の人に使いやすいパソコンが出まわる日も近いかもしれない。

もともと、日本IBMには、日本の企業に比べると、びっくりするくらい障害を持つエンジニアが多い。彼等彼女等が世に送り出してきた製品群は、さまざまな形で日本のITをUDにしてきた。例えば、東京基礎研究所の全盲の研究者、淺川智恵子氏は、視覚障害者が音声でWebを読むソフト、ホームページリーダーを開発した。ホームページの内容を選択して読むことのできる優れた製品であり、今では米国でも視覚障害者が誰でも使うめジャーな製品となっている。その後、開発の本体は米国に移されて世界8ヶ国後でサポートされる製品となったが、日本発の製品がこのように世界標準になることはIBMでさえ珍しく、快挙と言ってよい。また、これは優れたユニバーサルデザインの製品である。字を見るのがつらい高齢者にも、まだよく漢字が読めない子供にも、海外からの留学生にも、日本語のWebサイトを読む上で助けになる。障害者のニーズを熟知して作られた製品が、さまざまな人にとって使いやすいという、ユニバーサルデザインの見本のような話しである。

日本の企業も、優秀な障害者をエンジニアとして雇用し、UDのものづくりに活かしてほしいと思う。

- 2000年12月 日経BP J Businessに掲載 -

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