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IT戦略会議のささやかなメリット

鳴り物入りで始まった「IT戦略会議」は、出井(伸之)氏の陣頭指揮のもと、なかなか大胆な提言を進めている。日本もこれでようやくIT先進国の仲間入りなるか?と、淡い期待を抱いている人も多いだろう。実際、韓国やシンガポールのはるか後塵を拝しているのだから。

■示された「情報バリアフリー」への配慮
 しかし、私自身は、この会議の結果にかなり満足している。これまで何度もはねかえされてきた「情報バリアフリー」に関して、省庁を越えたさまざまな施策が明確にされたからだ。
 例えば、11月6日の議事録を見てほしい(第5回IT戦略会議・情報通信技術(IT)戦略本部合同会議)。この資料7に、情報バリアフリーの推進や、官公庁ホームページのアクセシビリティ(近づきやすさ)確保についての指針が掲載されている。特に、ホームページを視覚障害者に配慮して、(見えない人への説明のために)きちんとALTタグをつけるよう、新省庁のすべてに指示したのは、画期的なことである。昨年までは、実は各省庁のホームページに高齢者や障害者に対する配慮は、ほとんどなかったと言ってよい。某省庁が独自に調べた結果では、22省庁のうち、米国の厳しい点検ソフトを合格したのはたったの3つで、それも、テキストしかない地味なページだったから「通ってしまった可能性が高い」という哀しい状況だったのである。
 今年の1月6日、私ほど、うきうきしながら、新省庁のホームページをサーフィンしたネットワーカーはいないだろう。今回は国内で作られた、基準の緩やかな点検ソフトでチェックしてみる。さて、どこまでこのIT戦略会議の指示は行き渡ったか?さすがにALTタグはほとんどの省庁がつけていた。しかし法務省のサイトはチェッカーソフトでは10個ほど×が付く。ただし、内容的には問題は1箇所だけだ。国土交通省も、チェックにはひっかかるが、音声ブラウザでは問題はなかった。ほぼすべての新省庁のサイトが、合格したと言って良い。合格したサイトも、ALT以外の点では、色使いやCSSの使い方など、改善の必要はある。しかし、大きな進歩であることは間違いなかった。

■画期的だったアクセシビリティの指針
 ちょっと意地悪なように見えるかもしれない。だが、パソコンの内蔵音源と読み上げソフトを利用している視覚障害者や、薄い黄色の文字が読みにくい高齢者のことなど、さまざまなユーザーのことを考えて、公共機関のホームページはデザインされるべきだというのは、実は先進国では当たり前のことなのだ。
 インターネットの標準を決めているW3C(World Wide Web Consortium)の中に、WAI(Web Accessibility Initiative)という分科会がある。ここでは、Webサイトを、できるだけ多くの人々が読みやすいように作成するにはどうすればいいかを話し合っている。
 このガイドラインを受けて、米国では政府や自治体のWebサイトはアクセシブルに作ることが義務付けられたし、ポルトガルでは公的機関と名がつけば幼稚園に至るまで、すべてのWebサイトをアクセシブルにすべしという法律が通ってしまった。国連でも検討が始まっている。
 日本でも、この動きを受けて、97年ごろから郵政省を中心に研究会が組織されてきたが、これまではその結果が広く知られているとは言い難かった。このIT戦略会議の中で、新省庁のWebサイトに明確な方針としてアクセシビリティが盛りこまれたことは、だから画期的なことなのである。

■技術論から使う人間へ
 高齢者や障害者に読みやすく、耳で聞いても情報のとれるサイトを作る。このことは、一見大変そうだが、最低限のルールを守るつもりであればそれほど難しくない。弊社が作ったガイドラインなどを参考にしてほしい。

(ユーディット:見る人に優しいホームページを作りましょう) 
(こころWebからの提案:アクセシブルなWebデザインについて)

 本来は、さまざまなホームページ作成ソフトが、自動的にアクセシブルなHTMLを吐き出してくれればもっと事態は簡単なのだが。人に合わせて内容を変更できるツールも欲しい。今後開発されるXMLなどの新技術も、携帯端末の使い勝手も、さまざまなユーザー層にもっと配慮をしてデザインされれば、より多くの市場を獲得できる。IT産業においてユニバーサルデザインの考え方が求められてきている。日本は2005年には、成人人口の50%が50代以上を迎える。女性に限っては、それは実に、2001年、今年のことなのだ。そしてその層は、実は日本の個人資産の7割以上を持っている。
 IT戦略会議が、国民の多くをネットにつなぐことを宣言している。その国民とは、これまでのような健康で若い都会のネットワーカーだけでない。地域に住む多くの初心者、子供、高齢者や障害者などの、多様な人々であるという認識が必要だ。そろそろ、ネットにかかわる議論も、インフラなどの技術論から、それを使う人間へと、シフトしてもいいのかもしれない。

- 2001年1月18日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」-

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