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情報機器やバーチャル空間のユニバーサルデザイン

水道や道路と同じように、情報空間も、わたしたちの大切なインフラとなってきた。いまや電話やテレビのない生活を想像するのは難しく、さらに人によっては、インターネットのない生活は考えられない。実は私も、インターネットにどっぷり浸かって生活している一人である。コンピュータ会社をやめ、自宅で起業した理由の一つは、家のほうがインターネットが早いから、であった。ケーブルテレビのインターネット接続が開始され、24時間使い放題、月額3000円ちょっと、という状況は、日本では非常に恵まれた環境である。

インターネットの中で,わたしは2名の正社員と40名の登録スタッフを使っている。北海道から鹿児島まで、住んでいる場所も、年齢も性別も、そして障害の状況も違うメンバーが、ネット上で意見を戦わせ、共同で調査研究を行ない、ホームページを手分けして作成したりするのである。視覚障害者も、70才以上の高齢者も、ベッドで寝たきりの重度障害者も、ここでは対等な、一人の社員である。仕事をする上での能力(アビリティ)だけが問題なのであって、その人のもつ障害(ディスアビリティ)はここでは問われない。むしろ、企業からの依頼によっては、その人の障害が、「売り」になる場合だってある。他の人がもっていない「ノウハウ」を彼ら・彼女らがもっているからである。

バーチャルな空間では、従来存在した障害者と健常者のこころのバリアが消え、対等な人間としての会話が可能になる。また、これまでかなり困難だった、違う障害者同士の会話も可能になるのである。重度肢体不自由者は手話を使うことが困難であり、またその読唇も,聴覚障害者には困難だった。視覚障害者は手話を見ることができないので聴覚障害者との会話は難しかった。このようなバリアは、バーチャル空間では全く存在しない。各人が独自に使いこなす支援技術や、最初からユニバーサルにデザインされた機能のおかげで、自由に意見を受発信できる環境が整ってきた。

しかし、このような情報環境は、障害者や高齢者の利用を考慮しない機器やソフトの開発競争によって、常に危機にさらされている。どれが業界の標準になりうるか、生き馬の目を抜く厳しい情報産業の中で、高齢者や障害者が使えるよう、最初から考慮してデザインされる必要性は、まずます増大してきている。情報機器メーカーや、コンテンツクリエーターと言われる職種は、10代後半から20代後半までが中心である。都会に住む彼らに地方の高齢者のニーズを理解してもらうことは、なかなか難しい。

例えば、インターネットの標準を決めているW3Cという世界的な組織には、Webをアクセシブルにするためのガイドラインがあり、米国の政府や大企業は揃ってスポンサーになっている。自分たちもそれを守って、障害者や高齢者に見やすく、音声でも聞きやすいWebサイトを作成することが当然のエチケットとされている。

日本国内でも郵政省などが呼びかけてはいるが、高齢者や障害者を市場として見る経験のない一般企業からは、全く顧みられていない。知られていないというのが正しいだろう。政府の刊行物も、新聞も、企業の新製品も、インターネットで見ようと思えば、視覚障害者は音声で聞けるし、ページを繰るのが困難な肢体不自由者も読めるし、放送が聞けない聴覚障害者も理解できるのである。そのような人々にきちんと配慮して、情報機器やインターネット上の情報を、ユニバーサルにデザインしていくことが、高齢化の進む日本で、今後必要とされる情報化のあり方なのだ。ホームページを作る人も、読む人も、そのことを、こころに留めておいていただきたい。

- 2000年2月 -

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