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ユニバーサル・デザインって言葉を知っていますか?

みなさんは、バリアフリーという言葉を聞いたことがあると思います。まちやものを、障害を持つ人や高齢者に使えるようにすることですね。では、ユニバーサルデザインという言葉はどうでしょう?ユニバーサルデザインというのは、バリアフリーの考え方をもう一歩進めた考え方で、まちやものを作るときに、障害者や高齢者を含むさまざまなニーズをもつ人に最初から配慮して、設計していこうという考え方です。子供でも、妊産婦でも、たまたま重い荷物を持っている人や片手がふさがっている人などにも、使いやすいものを目指します。アメリカで、ロン・メイスという障害を持つ大学教授が提唱した概念です。この考え方については、今は慶応大学へ進学した清水あかねさんという方が、高校生の頃から作っていたサイトが、わかりやすいかもしれません。彼女自身も、障害を持っています。
http://www.sfc.keio.ac.jp/~s99433as/ud/

もし、重い病気にかかったりけがをしたら、学校に行くことや勉強することも難しくなります。でも、もし電車やバスが、車椅子でも自由に乗れるようになっていたり、図書館の本が、目が見えない人でも自由に読めるようになっていたら、勉強できる人の数は、ずっと増えます。

アメリカでは、障害を持つ子供たちの学習保障が、広範囲に行なわれています。障害を持つ子供は、持たない子供と同等の教育を受ける権利があります。重い障害のある子供は、特殊教育を受けることを選択することもありますが、今では地域の子供が通う、一般校へ行くことも普通になってきました。全盲の子供、自閉症の子供、電動車椅子の子供が、その他の児童と一緒に授業を受けたり、遊んだりする風景は、珍しいものではありません。学校側は、その子供ができるだけ同じ情報量を受け取れるよう、授業に参加できるよう、工夫をこらします。パソコンなどの、ハイテクも活用しています。

また、このような重い障害を持つ子供たちが、高等教育を受ける仕組みも充実しています。DOIT (Disabilities, Opportunities, Internetworking, and Technology)は、ワシントン大学で行なわれているプロジェクトで、米国のNSF(全米科学財団)などが資金を出しています。教育におけるユニバーサルデザインの考え方が浸透しているのです。
http://www.washington.edu/doit/(英語)
これは、重い障害をもち、科学や数学に興味を持つ子供たちが対象です。子供たちは、奨学生と呼ばれ、パソコン、モデム、その子の障害にあった支援技術(点字ディスプレイや特殊なスイッチなど)をプロジェクトから借ります。設定や支援技術の使い方も学びます。
そしてインターネットにつながったら、その中でインターネットを使った情報受発信のしかたに始まり、進路指導を受け、学業を進める上でのさまざまなノウハウを学びます。夏にはサマースクールがワシントン大学で開催され、それに参加してキャンパスライフを試してみることも可能です。オンラインで、オクスフォード大学のホーキング博士(重い障害を持った、世界的な宇宙物理学者です)の講義が受けられたり、進学に当たって助言してくれるサポータや、実際にその大学へ進学した障害を持つ先輩の意見も聞くことも可能です。

このようにして、ハーバード大学やスタンフォード大といった、有名な大学へ進学する重度障害を持つ学生も多いのです。また、このような学生が、地域の小学校で、子供たちに障害や、支援技術、どのようにコンピュータを使いこなすか等について、話しをする機会もあります。それは子供たちが、同級生の障害を理解し、技術の可能性について夢を持つことにもつながっています。「五体不満足」で有名になった乙武さんのような方が、地域の小学校にやってきてお話しをするようなものですね。
http://www.washington.edu/doit/Brochures/Programs/showtell.html(英語)
大学の中でも、同級生と同じ環境で授業が受けられるよう、EASI (Equal Access Software & Information)というプロジェクトが存在しています。このEASIが行なっているのは、大学の中での情報保障、実験などへの配慮、膨大な量にのぼる文献を電子化して全盲の学生に提供することなどです。アメリカの大学の授業は、日本とは比べ物にならないくらい厳しく、一晩で読みこなさなくてはならない文献の量も膨大ですが、コンピュータやインターネットを活用して障害を持つ学生が同じ力を発揮できるよう、支援しています。アメリカでは、スタートラインまでの準備は整えるから、後は能力の勝負だよ、という考え方が徹底しています。これはある意味では、大変、厳しいことだとも言えます。障害があることに、甘えることは許されず、自分の能力だけで、戦って生き抜くことが要求されるからです。しかし、向上心があり、勉学を続けたい学生にとっては、自分を鍛える最適な場であるといえます。またそのような同級生と一緒に学んだ学生も、障害をもつ人に対して、その障害(Disability)ではなく、Ability(能力)を見るようになります。障害を持つ人というものが、どうすればその能力を最大限に発揮できる社会を一緒に作っていけるのか、考えることができるようになります。これは、ユニバーサルデザインの社会を創っていく上で、とても重要なことです。

このようにして高等教育を受けた卒業生は、さまざまな企業へ就職して行きます。大学でコンピュータやネットワークを使いこなしていれば、就職に際しても有利です。Sun MicroSystemsというコンピュータの会社で働くイサムさんは、JAVAというソフトの優秀な開発者です。彼は、コンピュータサイエンスを学びたかったのですが、日本では実験ができないという理由で断られ、米国のバークレー大学へ進学し、優秀な成績で卒業してアメリカで就職しました。彼のような人を受け入れる体制が、日本の大学や企業でも整備されていくことがこれからの課題といえるでしょう。

日本でも、障害児・者のハイテク利用はだんだん一般的になってきました。みなさんは、例えば全盲の学生がインターネットにアクセスする場合にはどのようなソフトが存在するのか、不随意運動のある生徒に適したパソコンのスイッチはどうやって見つけるのか、ご存知でしょうか?このような場合、こころWebというサイトが役に立ちます。これは、香川大学教育学部の中邑賢龍研究室で編さんされた「こころリソースブック」を、日本電子工業振興協会が電子化しているものです。約700点もの障害者支援技術が掲載されており、どんな状況で困っているのか、といったユーザーのニーズから目指す製品にたどりつけるようになっています。2000年になってから、相談センターの機能もオープンしました。
http://www.kokoroweb.org/
また日本の高等教育における障害学生の受け入れ体制については、筑波技術短期大学の情報が有益です。ここは、視覚と聴覚に障害のある学生のための学校ですが、授業や建物にも、さまざまな配慮をしています。この情報も、こころWebの中に「こころWebからの提案」として掲載されています。上記で紹介した、海外の高等教育における情報保障も、日本語で簡単にまとめたページがありますので、一緒に参考になさってください。
こころWebからの提案
http://www.kokoroweb.org/tips/index.html

また、この同じページに、もう一つ提案がなされています。アクセシブルなホームページの作成方法です。みなさんは、ホームページを作成するときに、どのようなことに気をつけて作っていますか?例えば、全盲の方は、どのようにホームページにアクセスしているか、ご存知ですか?彼らは、音声ブラウザ−と呼ばれるソフトを使って、インターネットを「耳で」聞いているのです。また、点字ピンディスプレイでアクセスしている人もいます。しかし、ホームページの作り方によっては、視覚障害者にとって、ほとんど意味をなさない場合も出てきます。リンク画像にはALTというコメントをつけるという、ちょっとした配慮によって、あなた自身が、知らない間に誰かに悲しい思いをさせているという事態を防ぐことができます。また、高齢者や、初心者にとっても、見やすく、使いやすいホームページ作成を心がけましょう。このような作り方に関する情報は、(株)ユーディットのホームページにも載っています。参考になさってください。
アクセシビリティガイドライン

アメリカでは、公的機関のホームページを、誰もが見やすい、ユニバーサル・デザインで作成するよう、法律で定められています。高齢者が世界一増え、また情報化社会を迎える日本では、情報のユニバーサルデザインが、これから求められてくるのだと思います。どうか、みなさんの学校のホームページも、子供たちが、家族とともに、少し目や耳や、身体が不自由になったおじいちゃんもおばあちゃんも一緒に、楽しめる作り方にしていただきたいと思います。

- 学習研究社 発行 NEW教育とコンピュータ 2000年7月号掲載 -

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