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ITのUD化を促進するか米リハビリテーション法508条

 2001年6月21日は、ユニバーサルデザインの関係者にとって、歴史に残る日になるかもしれない。米国で、リハビリテーション法508条の改正版が施行されたのだ。86年に制定されたこの法律は、罰則規定がなかったため実効力がなかったが、この日以降は違う。連邦政府で購入するIT機器は障害者にアクセシブルなものでなければならず、作成するソフトやWebサイトも障害者が使えない場合、職員や市民に提訴されるようになった。

 http://www.section508.org/

 この日のために、米国のIT企業は連邦政府に対して508条遵守を謳った製品ラインをそろえるべく奔走し、政府の調達担当者は基準の把握におおわらわであった。更新が頻繁なWebサイトのアクセシビリティが最も緊急で、この日のために関連サイトがいくつも工事中になったほどである。
 この法律は、あくまで米国内のみの規定ではあるが、その影響は大きい。連邦政府のみならず、Tech Actという法律のもとに資金援助を受けている州はその影響下に入るため、実質的にはすべての州政府、大学や研究機関なども508条にそった機器調達をしなくてはならなのである。いわば、北米の公的機関へのIT機器販売は、障害者にアクセス可能なものでないと入札にも参加できない事態になったと言っても過言ではない。

 この法律は、よく96年の電気通信法255条と比較される。これはメーカーにアクセシブルな情報通信端末の仕様を定めたものであった。しかし、これも罰則規定があいまいなため、IT機器のUD化を一気に加速するという事態にまでは至っていなかった。508条はこの点、メーカーではなく、政府の調達担当者、すなわちメーカーにとっては「顧客」である側の基準である点が重要である。
 調達担当者は、常によりアクセシブルな製品を探す必要がある。これは、メーカーが常に他社よりももっとアクセシブルな製品を出せば勝てるということを意味する。製品も、取扱説明書も、Webサイトも、よりアクセシブルでかつリーズナブルなものを買いたい。そうでないものを誤って購入して提訴されるなんて真っ平だ。このようなユーザーの声が、メーカーを根本から変えようとしている。アクセシビリティが仕様競争になる時代に入ったのである。
 米国の障害者数5400万人、連邦政府に働く障害者176000人、そして、調達担当者自身が障害者かもしれない。教育省のCIO Craig Luigartは、自身も車椅子ユーザーであり、全省庁のCIOが障害者でもOKな情報インフラをアメリカは目指すと宣言した。この政府の意気込みに、公的機関と一般機関へのIT機器をダブルスタンダードで作成することの愚を悟ったメーカーは、こぞって508条対応セクションのトップに障害者を据え、製品のUD化を目指そうとしている。誰にでも使いやすい機器が、ようやく市場に出回る日も近いかもしれない。だがそこに日本企業は残っているのだろうか?

- 2001年7月23日 日経BP ユニバーサルデザインコラム-

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