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あなたの老後の楽しみは?湯治宿でUnplugging!

 このところ、40を過ぎた人に会うたびに、「あなたの老後の楽しみは?」と聞いてみる。みな、一瞬びっくりし、そして遠くを見るような目で、いろんな夢を語ってくれる。それはまるで、「大きくなったら何になる?」と聞かれた子供のようだ。

「そうだね、孫とレーシングカーを作りたいな」「自分の焼いた器に、こだわりの手料理で人をもてなしたい」「家族と世界を旅して回るんだ」「森の中で暮らしたいと思っている」  IT産業の中で功成り名遂げた人々も、そうでない人も、描く「老後」のイメージは、穏やかで慎ましく、自然や人間とつながっている。平和で優しい。それは、今の生活が、そうでないということの証かもしれない。花の香りをかぐ事も、夕陽を暮れるまで眺めることも、都会の生活では忘れてしまった。年をとったら、仕事を離れたら、さあ、今度こそ、やりたかったことをやるんだ、自分に戻るんだ。白髪の少年・少女たちの目が輝く。人生が長いって、いいことだなあ。

 そう、わたしも、このところ、老後の楽しみを見つけた。「湯治宿」を巡って老後を過ごすのだ。そのためにこれから何年間もかけて、「湯治宿」を復活させたいと思う。アメリカに住んだころ、一番恋しかったのは、温泉と新鮮な魚だった。温泉は、日本酒や茶道のように、日本が世界に誇っていい文化だと思う。そして、それはそこにいかなければ味わえないものだ。中国にアウトソーシングできない産業。

 わたしは夢見ている。日本中の温泉地が、美しい湯治場として復活している。循環していない温泉力の高い立ち寄り湯が、町のそこここにあって、毎日違う泉質を楽しめる。湯治宿は、日本建築の粋を集めた美しい建物で、古民家や古い小学校などが活用されている。でも建物や設備は、素敵なユニバーサルデザインで、高齢者にも子供にも使いやすい。共同のも楽しいが、個室にも立派なキッチンが付いている。そこでは、孫たちや海外からのゲストを招いて、料理の腕を披露しよう。

■つながっていない居心地

 旅館ではないから、買い物は町でする。その土地でしかとれない海や山の幸が、作った人の顔の見えるところで手に入る。料理をしたくない日には、地元の人が行く小さな店で食事をする。その地でしか味わえない口福(こうふく)。それを求めて、日本中を回る。初めての場所を尋ねたい。一度行った場所にもまた行きたい。老後って忙しいのだ。

 毎日、ネットにつながっている今の生活もいいけれど、湯治宿に来たら、自分から電源をいれないかもしれない。Unplugging(ネットに接続しない)するのだ。いえ、これはつなごうと思えばつながるもの。そのころ温泉地は、ばりばりのブロードバンド地区になっている。だが、わざとネットにつながらない部屋も、実は人気が高い。Unplugged roomを予約して、ネットはわざわざ街のネットカフェに出かけていく。昼間は抹茶と地元の銘菓、夜はうまい地酒と肴の出るまちの店で、地元の住人と情報を交換しつつ、一日に一回だけアクセスするのだ…。サスティナブル・ツーリズム(環境に優しい旅)には、自分で制御できるネットワーク環境こそがふさわしい。自分の時間、自分の人生を取り戻すのが、湯治宿の目的なのだから。

 おやおや、メールボックスには、老後の楽しげな世界にはまっていないで、現実へ戻れという無粋な指示だ。そろそろ2002年へ帰るとするか。つながれっぱなしの世界へ。

- 2002年6月17日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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