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<テロ後1年の米国>内向きになっていないか?アメリカ

【Fairnessを何よりも重んじたUSは健在か?】

 あの9月11日から1年が経とうとしている。一人一人の悲しみは、まだ癒えてはいないだろう。だがあれから、アメリカを旅すると、国旗を掲げた家が目につく。それは悪いことではないのだが、どことなく不安を感じるのは何故だろう?ITの世界でも、アメリカが内向きになっているような気がするからかもしれない。何よりもFairness(公平さ)を重んじたアメリカは健在なのだろうか? 

【何故進まない?米国企業のUD理解】

連邦政府が購入するIT機器のアクセシビリティを保障せよというリハビリテーション508条が発効して1年以上が経った。米国のITメーカーはこぞって部門を作り製品開発にあたっている。政府へのPRもさかんだ。巨大な高齢市場を狙ってもいる。しかし、不思議なことに、世界最大のシニア市場であるアジア各国のアクセシビリティ確保に対し、米国のIT産業は冷淡な例が目に付くのである。日本法人の担当者は孤軍奮闘しているが、トップの反応は鈍い。米国は意図的に、このエリアで日本への働きかけをやっていないのではないかとさえ思える。

【日本では知らされないシニア向け機能】

 これはかなりうがった見方ではあるだろう。だが私は、この問題の背後に「自国さえよければ」というアメリカの内向き政策の影を感じてしまうのだ。もともと508条は、見えない非関税障壁と言われた。アクセシビリティを理解していない日本製品は米国市場から締め出されてしまうからだ。しかし米国企業がそのノウハウを日本やアジアで展開すれば、高齢市場を席巻することも不可能ではないのに、全く無視するのは何故だろう?USのシニア向け講習では必ず触れられるWindowsのシニア向けカスタマイズ機能は、日本のIT講習会ではほとんど教えられなかった。マイクロソフトの社員でさえその存在を知らないこともある。PDFのアクセシビリティ機能は日本ではかなり遅れて実現されたが、使い勝手が悪く不完全な点も残っている。本国では熱心にアクセシビリティ準拠を謳う企業なのに、日本ではWebに情報が全くないこともある。

【日本の国力をそぐIT戦略】

 日本のデジタルデバイドは、高齢者の問題である。シニアがもっとITを使うようにならないと、市場は広がらない。リストラ対象になる50代以上のほとんどは、ITリテラシーが高くない。もしITがよりシニアに使いやすくバリアが低ければ、日本は多くのリソースを有効活用できるはずなのだ。シニアや初心者からの膨大な量の質問の電話やメールに回答する時間と労力の総和は、日本のITメーカーにとって大きなコストのはずだ。米国の企業は、商務省の意図を受けて、日本のメーカーや国力を弱らせようとしているのではないかと、かんぐりたくもなってくる。

【インフラとしての国際協力を】

 日本を始めとするDBCS(ダブルバイトコード)を利用する各国では、今後一層のIT化と高齢化が予想されている。膨大な市場がこれから生まれるのだ。USのIT産業は、508条で得たアクセシビリティの知見を日本法人にも公開してほしい。日本法人も日本のメーカーも、日本からの情報発信を増やすと共に、US側にも国際協力を迫ってほしい。自国さえよければ、という態度は、どこの国であっても決して良い結果を生まないということこそ、9月11日から得た最大の教訓なのだから。USのFairnessを信じたい。

- 2002年8月23日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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