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テレワークにこそ、ユニバーサルデザインの発想を

この題名を見て、そうそう、テレワークって、女性や障害者、高齢者にいいんだよね、と思ったあなた、まだユニバーサルデザインを理解していませんね。

ユニバーサルデザイン(UD)は、「高齢者や障害者」を念頭に置いたバリアフリーとは違う。年令や性別、能力や環境にかかわらず、多様な人々が暮らせる社会を作り出すためのプロセスだ。そこには、もちろん、若い人も、男性も入っている。だって「誰でも」が対象なのだから。

だが、IT戦略本部の出した「テレワーク人口倍増増アクションプラン」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/telework.html)を見ていると、どうも、国はテレワークの対象者について、メインは女性や障害者だと思っているような印象を受ける。どうして「誰でも」が対象ではないのだろう?なぜ自分は関係ないような言い方をするのだろう?いったいこの政策を作ったり語ったりしている人の何割が、テレワークの経験者なのだろう?

アメリカの就業者人口に占めるテレワーカー比率は32.2%、オランダでは26.4%(「総務省におけるテレワークの推進」総務省、2007年1月より http://telework-forum.jp/documentation/tyousa/070119-1shiryo06.pdf)という数字には、健康な成人男子は入っていないとでもいうのだろうか?どうして自分ができないものを、女性や障害者ならできると言えるのだろう?日本は今10.4%(同)で、これを2010年までに倍にする計画だ。この数字を男性も担うのでなければ、達成できないのは明白だ。

私たちの会社は1998年の創業以来、社長以下全員が在宅勤務というテレワーク企業である。もちろん、障害者や子育て中の女性にとって、大変働きやすい環境だ。だが、それは、若い人や男性にとっても、働きやすい環境なのである。ネットワークにアクセスでき、セキュリティーを守って働き、ITリテラシーの向上を怠らなければ、オンラインでできることはたくさんある。

週1回、2時間のミーティングを有効に使うために、必要な資料は前日までにメーリングリスト(ML)で共有し、各自が目を通しておくことが要求される。MLやイントラネットのような情報共有の仕組みと、意思決定過程をオンライン上で明確にすることが必要だ。都合や出張で出社できない社員は海外からでも電話で参加する。意思決定に「誰も取り残されない」ことが必要なのである(これはEUにおけるUDの標語でもある)。

外部からの電話は転送され、一瞬で全員のPCと携帯電話に顧客名と番号が通知される。情報も共有され、潜在顧客を逃すことも無い。各研究員の仕事はオンライン上のツールで公開され、顧客満足度もプロジェクトコストも共有する。各人は自分の報酬さえ予測がつく仕組みになっている。

アメリカでは68.9%の企業がテレワークを導入しているが、日本ではまだ14.7%だ。私は、「全員が週に2日しか出社しなくていい」会社とか、「50歳以上は週に1回しか来ない」会社が出てくるべきだと思う。看護師やホテル従業員であれば、確かに全部をテレワークにするのは難しい点もあるだろう。だがサービス業であっても、報告書や改善提案は家で書けるかもしれない。マネジメントになればなおさらだ。

目の前にいる社員しか管理できないというのでは、21世紀のマネジャーとは呼べない。グローバル化が進む今日、世界中に部下がいたっておかしくないはずだ。その人たちは、もはや時間ではなく、成果で評価されるべきだろう。もし、日本中の役所や企業で、50歳以上の管理者は全員出社に及ばず、家でマネジメントを行うと決まったら、日本の生産性も、ITリテラシーも、劇的に向上するだろう。

そして、その人々こそが、ほんとうのITの受益者となるのだ。ITが世界につながり、社会を変えることを実感し、地域においてもこの成果を生かすことを考え始めるかもしれない。社会や家族とのつながりを取り戻し、定年以降へ向けてのソフトランディングや、新たな起業への思いがわくかもしれない。日本ではITは会社の利益最大化のための道具とみなされがちだ。しかし、ITの本質はもっと深く広い。彼らは、一市民として情報社会に生きることの意味を、やっと理解するのである。そういう人々に、私は、テレワークの政策決定やツールの開発を担ってほしい。

建築のあり方や、法制度、意思決定プロセスなど、変えるべきこともたくさんある。だがあなた自身の働き方や、社会とのかかわりを、もう一度見直す契機として、テレワークを自ら推進してほしい。ユニバーサルデザインとは、「あなたのためのデザイン」なのだから。

−2007年6月22日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」

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