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子供の想像力をかきたてる教育

子供たちが、エンジニアの、そしてアーティストの眼をしている。どの子もものすごく真剣だ。パソコンとレゴブロックの間を走って行き来しながら、自分の思い通りに動くボール投げロボットの開発に夢中だ。CAMP(http://www.camp-k.com/)のワークショップには、子供の想像力をかきたてる、デジタルとアナログの融合があった。

■随所に新しい発見促すしかけ

 ここは、けいはんなの研究地区の一角、大川センターである。CSKの故大川(功)氏が、晩年、心血を注いだ子どものための教育センター、CAMP(=Children's Art Museum & Park)だ。茶室にセミナールーム、そして子どもたちのワークショップの部屋に明るい光が差し込んでいる。大川さんが好きだったという桜がたくさん植えてあり、花のころはさぞや美しいだろう。MIT Media Labの技術協力を得て、デジタルを道具に新しい発見を促すしかけが随所に見かけられる。
 私が見学させてもらったのは、冒頭で紹介したレゴのロボットを動かすものだったが、二人一組の小学生たち6人が、およそ3時間、無我夢中でマインドストームのプログラミングやロボットの動きの制御に没頭していた。アームのなめらかな動作、多くのボールを運べる仕組みなど、参加者が競いあう要素も多く、また二人が協力しないと時間内に開発が終わらない。女の子たちも元気だ。(http://www.camp-k.com/museum/index.html
 ワークショップには、この他、たわしや毛糸、木の実など身近な素材と小型PCを使ってロボットを作る「クリケット」などがある。作品をいくつか拝見させていただいたが、自由な発想がとても新鮮だった。また、Media Labのテッド・セルカー教授が訪れて直接指導したものもある。これは、「お母さんがけがをして手が不自由になったとしたら、どんなものがあれば便利?」という問いかけに、子供たちが自分で考えて身近な工夫を見つけ出すものだ。セルカー教授もあっと驚く発明が続々と出たという。ユニバーサルデザインや支援技術の開発にも結びつく、素晴らしい教育プログラムだと思われた。

■なぜ、国家レベルで存在しないのか

「誰のために、なぜ技術が必要なのか?」という視点からものづくりを始める科学教育は、ややもすればシーズ先行でニーズ軽視になりがちな日本の研究開発体制に、一石を投じるものかもしれない。子供たちが嬉々として誰かの役に立つ道具を考える。その瞳の輝きこそが科学技術の原点だと思う。この他にもインターネットを使って世界の子どもたちをつなぐプロジェクトや、海洋生物の視点で海中を探索するNational Geographicのプロジェクトなど、子どもならずとも、わくわくしてしまう企画がいくつもある。アメリカならNSF(全米科学財団)がファンドするような内容だ。
 いったい、どうしてこのようなものが日本では国家レベルで存在しないのだろうか?デジタルとアナログがつながっていく近未来、その無限の可能性を、子どもたちの瞳の輝きの中に見出すのは、私一人ではないとおもうのだが。センターではワークショップの出前も検討しているという。Media Labの、あのいたずらっ子のような眼差しの科学者たちの夢が、日本の子供たちにも受け継がれることを願って止まない。

- 2001年12月11日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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