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障害者やシニアの目から見える携帯電話の死角

ケータイ電話によるインターネット利用は増える一方だ。携帯でしかメールしないという層は、意外なことに若い人だけでなく、中高年にも増えているらしい。それこそ、携帯するデジタルという感覚なのだろう。障害者の間でも、携帯電話の利用はうなぎのぼりである。

■障害者にとって必需品のケータイ

 ほとんど知られていないことだが、障害者にとって携帯電話は本当に必需品だ。車椅子ユーザーはもうアクセシブルでない公衆電話BOXに四苦八苦することもなく、短縮ダイヤルで自分のよくかけるところに簡単に電話できる。聴覚障害者にとっては、まさに動くFAXが登場したようなものだ。思う存分チャットで会話できると幸せ一杯である。バスで隣同士に座りながらチャットしている二人をみかけたら、手話ではしにくい会話をしている聴覚障害者かもしれないと考えてほしい。コミュニケーションのあり方が劇的に変わったのだ。FOMAで手話が送れるかテストしてみたが、これも伝送速度を気にしなければかなり実用に耐えられそうだ。楽しみな分野である。 

 視覚障害者にとっても、携帯電話は必需品だ。まず、公衆電話を人に教えてもらわなくてはならないという事態から開放される。また、知らない相手と駅などで待ち合わせるときは、「私の着メロはラデッキー行進曲です。」「あ、わたしはFirst Loveですので」と打ち合わせておけば、駅でお互いの曲を手がかりに出会うことができるのだ。洋服の色などでは判別しにくかった視覚障害者には、とても便利なのである。

■使えないメールやiモード

 しかし、こと、メールやiモードに関しては、視覚障害者は便利に使いこなせているとはいえない状況にあった。パソコンではごく一般的になってきた画面の音声読み上げなどの機能が存在しないからである。メールやボタン、入力された内容の漢字の詳細読みなど、パソコンではスクリーンリーダーといわれるソフトが普及しているが、携帯電話ではCPU速度や音源の問題があって搭載されていなかった。

 キャスビーなど情報端末で「メールの読み上げが可能!」という謳い文句で出てきたときは、視覚障害者は狂喜した。だが、結果はだめだった。ごく一部しか読み上げてくれなかったのである。次にらくらくホンIIが出た。これはそれなりに工夫すれば使えそうだ。神奈川NetViewのメンバーが横浜市立盲学校でメーカーと共にテストした結果が公開されている。(ユニバーサロンの記事へ)膨大な情報がパソコンではかなり自由に手に入るようになってきた視覚障害者にとって、携帯電話や情報端末も使いたいものの筆頭なのだ。

 メーカーの方と話していると、「ユーザーとして想定していない」という反論が必ずある。しかし、自分と同じビジネスマンしか対象にしていなくて、それで市場を広めようというのは無理な話だ。世の中には多様な人がいる。眼や耳や指が次第に不自由になる膨大なシニア層のニーズに、どのモバイルメーカーが先に耳を傾けて勝ち組に残るのだろうか?

- 2002年1月28日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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