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郵政省の報告書について

  1. この報告書の背景とねらい
  2. 機器の使いやすさ向上
  3. 課題と今後の方策
  4. 今後に向けて

 

1.この報告書の背景とねらい

2000年 5月23日(火)に、郵政省から「高齢者・障害者による情報通信の利用に対する人的支援及びウェブアクセシビリティの確保に向けた課題と方策」が出された。これは、郵政省・厚生省の合同研究会である「高齢者、障害者の情報通信利用に対する支援の在り方に関する研究会」の活動成果として出されたものである。所轄部署は郵政省が通信政策局情報企画課、厚生省が大臣官房障害保健福祉部企画課である。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/tsusin/000523j501.html#43

この研究会は、平成8年ごろから開催されている「高齢者・障害者の情報通信の利活用の推進に関する調査研究会」を内容的に継続したもので、高齢者・障害者のIT利用を促進している。少子・高齢化の急速な進展及びIT(情報通信技術)の発展とともに、福祉が「『措置』から『契約』へ」と変貌を遂げる中、契約当事者たる高齢者・障害者自身が必要な情報を受発信できることが欠かせない状況となっている認識に基づくものである。

また、この研究会は毎年、技術的なガイドライン策定や通信事業者などへの啓蒙を行ってきたが、昨年あたりから、研究内容を高齢者・障害者のインターネット利用に焦点を絞ってきている。今年は沖縄サミットの重要課題がIT革命であるが、国内のデジタルデバイド問題としてこの問題を取り上げた価値は大きい。報告書では、次のように宣言している。

「近年、デジタル情報格差、いわゆるデジタルディバイドと呼ばれる、所得、教育レベル、地理的要因などによる、インターネットなどの情報通信に対するアクセス機会の不平等が国内及び国家(地域)間で顕在化しており、こうした機会を持つ者と持たざる者との間の格差が拡大しつつあるとの問題が指摘されている。年齢・障害といった要因により利用面での格差が生ずる可能性のある、高齢者・障害者による情報通信の利用は、こうしたデジタルディバイドに関する問題の一つとして、地球規模で取り組んでいくべき課題となってきている。」

 

2.機器の使いやすさ向上

内容は、大きく2つにわけられる。「人的支援」と「ウェブアクセシビリティ」である。

2−1  人的支援の現状

高齢者や障害者がITを利用しようとするとき、最初のバリアになるのが、教えてくれる人や場所がないという問題である。市内の一般的なパソコン教室に行くことができれば、そして一般的なパソコンを使うことができれば特に問題はないが、そこへ辿り着けないという物理的なアクセスの問題、教室のパソコンが障害のために使えないというアクセシビリティの問題、そして教え方の速度などが高齢者にはついていけないといった問題のために、高齢者・障害者はITリテラシーの獲得が難しい状況におかれることが多い。

これを解消するため、各地にさまざまな支援組織ができつつある。
高齢者関連では、高齢者のネット化を進める「仙台シニアネット」などの活動が挙げられる。地域のさまざまな組織が連携しコミュニティの活性化に貢献したり、シニアサポーターとして高齢者が活躍する例が報告されている。また、金沢情報長寿のまちづくり協議会の取組も紹介されている。小学校の空き教室等を利用してパソコン教室を開き、高齢者が自由にインターネットを触る機会を増やしたり、簡単にホームページを作成するツールを開発して提供している。

障害者関連では、在宅の障害者宅に少しでもパソコンがわかる人を派遣する「パソコン・ボランティア」の必要性が再確認された。地域に根づいた地道な活動として、川崎パソコンサポートボランティアの活動が詳細に紹介された。またJD(日本障害者協議会)が主催するPSV(パソコンボランティアネットワーク)は、メーリングリストや勉強会を通じて、川崎のような各地のパソボラ組織を育て、支援し、情報共有を図っている。さらに障害者の在宅就労を支える仕組みとして、PropStationなどのNPOの活動も紹介された。

2−2 ウェブアクセシビリティの現状状

次に、大きく前進した内容は、Webサイトのアクセシビリティに関する言及である。2−1に見られるような人的支援を経てなんとか高齢者・障害者がインターネットに接続できたとしても、実際にWebの中に存在するコンテンツがまったくアクセシブルでないために情報が入手できないとしたら、高いお金を出してPCを買ったり、時間をかけてネットサーフィンする価値がない。しかし、現実は例えば全盲者が音声読上げソフトでインターネットにアクセスしているという事実を知らないために、障害者への配慮を欠いたデザインのWebサイトが、圧倒的に多いのが現状である。

Webのアクセシビリティの具体例については、昨年も報告書に出されたが、インターネットの国際標準を決めるWWWコンソーシアムの中のWAI(Web Accessibility Initiative)が出しているガイドラインが紹介された。
世界的に見ても、米国ではNII(国家情報基盤)の政策、および政府の調達基準を決めるリハ法508条の中で、公的機関のWebサイトをアクセシブルにするガイドが出されていたり、ポルトガルでもあらゆる公的機関のWebサイトはアクセシブルにすべしという法律が成立している。インターネットを水道や電気と同じ、国家の重要インフラだと位置付けるのであれば、それを作成する側は、さまざまなユーザーがその情報にアクセスするのは当然であるという意識が必要であろう。この問題は、国連などでも検討されはじめており、今後、デジタルデバイドの問題の中で、高齢化の進む日本独自の課題として検討されるべきである。

 

3.課題と今後の方策

3−1 人的支援

人的支援に関しては、活動の拠点となる常設の場の確保、高齢者や障害者など地域の多様な主体の参加、各地域のネットワーキング、ピアサポートの推進などが課題として挙げられた。この課題に取り組むための方策として、平成12年度から全国の郵便局1800箇所で高齢者などを対象としたパソコン教室の開催を予定している。また、今後、障害者・高齢者の活動を支える上で、NPOの存在が非常に重要であり、拠点確保事業への支援対象としてNPOや社会福祉法人を加えることなどを検討している。

3−2 ウェブアクセシビリティ

ウェブアクセシビリティの確保に関し、当面求められる方策として次の2つがあがっている。

  1. 一般のホームページについては、点検・変換システムなど高齢者・障害者のアクセスを支援する情報通信システムを制作し、具体的な問題点を抽出・改善する仕組みを作ることが必要。(中略)また、中央省庁など公的機関のホームページについては、現状、充分なアクセシビリティが確保されているとは言えず、この問題に対する認識を深めるためにも、関係機関における取組が必要。
  2. 1のシステム制作に当たっては、各地の高齢者・障害者団体などの協力を得て実証実験を行うことが必要。また、関連する施策においても、高齢者・障害者の意見を反映させる仕組みの確保が必要。

 

上記について少し解説する。一般のホームページのアクセシビリティチェックについて、米国のインターネット環境ではBobbyなどの点検ソフトが存在し、ホームページ作成者は気軽にアクセシビリティをチェックできるようになっている。日本でも日本IBMがI-Checkerという簡易点検ソフトを提供している。今後は、Bobbyのような多機能な点検ソフトの日本語版の作成や、膨大な既存のWebサイトをアクセシブルに変換できるソフトウェアの開発が必要とされるであろう。ただ、この変換ツールは、例えばALTコマンドで入力されたコメントが、絵と合っているかどうかの判断をすることは困難なため、完全自動の変換を行うことは難しく、やはり人間の目での確認が必要であろう。またここで言及されているように、ALTに英語をそのまま入れない、熟語にはブランクを追加しないなどの、日本語読上げに関するきめの細かい配慮も必要である。このあたりは、こころWebやユーディットのガイドを参照していただきたい。

公的機関のサイトに関しては、22省庁のホームページをアクセシビリティチェッカーソフト、Bobbyでチェックしてみた結果、なんと19省庁のホームページが合格しなかったという結果が欄外に記載されていた。またOKだった3省庁も、別に配慮していたわけではなく、単にテキストだけのシンプルなデザインだったために通ってしまったのだそうだ。中央省庁のサイトがアクセシブルでなければならないという認識は、郵政省から、ぜひ全ての省庁に徹底していただきたい概念である。

2制作に当たって高齢者・障害者に意見を聞くというのは理解できるが、私個人としては実証実験というのは多少疑問が残るところである。アクセシビリティ適用前、適用後のアクセシビリティの確認作業をWeb上で依頼し、意見をまとめるに留まるような気がする。もしこれを行うとすれば、アクセシブルWebに精通し、かつ各障害者の代弁者となるような技術者を揃えたほうが実効性が上がるものと思われる。

 

4.今後に向けて

サンノゼ市のADAコーディネーター、シンシア・ウォーデル女史は、その論文の中でこう述べている。「インターネットの中にどれだけ障害者がいるかと数えるのは、アクセシブルでない建物の中にどれだけ車椅子ユーザーがいるかを数えるようなものです。」

ネットにアクセスし、技術を使いこなすことによって活躍する障害者・高齢者は増えているものの、まだその割合は決して多くない。IT社会におけるバリアは、教育や就労、社会参加の上で、いつか大きな社会問題になっていく。産業界や国家がいかに情報をITで伝えたくても、2005年に成人人口の50%を50代以上が占める日本では、受け取る層がいないという事態に入なりかねない。パソコンそのものも、教える社会インフラも、そしてネットのコンテンツも、さまざまなユーザーの利用を前提としたユニバーサルな視点でのデザインが求められているのである。この報告書が、多くの福祉関係者にIT技術利用の価値を伝え、多くのIT関係者に多様なユーザーへの配慮を促すものであることを願ってやまない。

- 2000年7月 リハビリテーションへの寄稿-

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