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市民には見えない政府のIT戦略・縦割り行政が阻害

鳴り物入りで出されたIT戦略だが、国民の側からすると、いったいこれで自分たちのIT環境がどう変わるのか、ちっとも見えてこない。渋谷あたりで熱くなっているネットベンチャーのおにいちゃんおねえちゃんたちと、東北や九州でまったくITとは縁もゆかりもない平和な?生活を送っているおじいちゃんおばあちゃんたちとの間をつなぐ政策が、いったいこれで可能になるのだろうか?
政府の施策を見てみよう。

教師にIT集中講義を

1.学校のパソコン導入を促進

現在、パソコンに詳しい教師は非常に少ない。少しでも操作できるようだと「パソコンに関わるすべての仕事が自分に来てしまう」ので黙っているそうだ。まず最初に教師のIT教育を集中講義ですべきではないか。講師は地元のエンジニアでもいい。英語や郷土史と同じで、全部を学校内部でまかなおうとせず、外部の力を借りればいいはずだ。学校のコンピューター関連機器は、ほとんど使用されていないとも聞く。実にもったいない話である。学校のインターネット接続率がまだ30%台の県もあるのだ。

2.公民館で高齢者にネット学習

これも、題名は悪くないのだが... いま地方の公民館は、どれくらいの大きさで、パソコンが何台くらい置けて、詳しい職員がどれくらいいて、そして最も大事な点だが、高速の通信インフラにどのくらい接続できているのか。政府関係者はどこまで把握して話しているのだろうか。光ファイバーの出力先に、公民館は対象になっていたのか。今から何年かけて整備するのだろう?

3.郵便局でパソコン指導

これは場合によっては可能性が高いかもしれない。何と言っても郵便局は地域の拠点。でも、特定郵便局は高齢化も進んでいるので、技術的なてこ入れも必要か?大きな郵便局は、アクセシビリティも確保されている場合が多いので、高齢者にも来やすい環境かもしれない。さすがにインターネットの主務官庁だから、ネットの整備は大丈夫?

参考情報(郵政省)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/tsusin/000523j501.html#43

4.職業訓練校でのPC&ネット学習

ITになじみのない中高年求職者を中心に、職業訓練校などでIT特訓という案。ただ、いったい誰が何を教えるのかなあと、少し不安である。何故ならいろんな友人たちがここの講師をしているけれど、ものすごく講師料が安いので、ボランティア精神が旺盛でないとやっていられないとこぼしているのだ。労働を司る省の末端はこんな状態である。

参考情報(労働省)
http://www.jil.go.jp/kisya/noryoku/20000825_03_n/20000825_03_n.html

むかしゼネコン、今パソコン

上記4つは、中味は似たようなことを場所だけ変えたにすぎない。多少、対象者は違うように見えるが、地方では公民館も学校も郵便局も近い。似たようなプログラムを、同じようなお金をかけて、また全国で開発するのか?しかし、教えるのは結局地元の人間であれば、最初から共通プログラムを流すほうがよっぽど効率がいいのでは?なんだか、介護保険システムのときと同じ、壮大な税金の無駄使いに見えるのは私だけだろうか?原因ははっきりしてる。主務官庁が違うからなのだ。文部省や郵政省に労働省!テキストや講師選定、パソコンの入札も、全部ばらばらにやるわけ?確かに景気対策にはなるかもしれない。

少なくともパソコンは売れる。でも、パソコンメーカーはかつてのゼネコンみたいになるのか?

情報担当省の設置を

ぜひ、シンガポールやマレーシアのように、情報担当省を設立してほしい。担当大臣は兼任ではなく、専任でないとこなせないはずだ。IT企業のトップを据えてもいい。CIOが方向性を示し、各省それぞれの役割分担を明確にする——という企業では当たり前の方針展開が行なわれないかぎり、3月になれば何度も道路工事...というこれまでのやり方と変わらない。迷惑するのは地元の住民だ。分担の例を見てみよう。
「通信インフラは○○省さんにお願いします」
「機器と入力装置の選定は○○省さんの管轄ですね」
「地域での支援のために、パソコンボランティアの育成は○○省の担当ですね」

情報システムというものを理解する人間が、トップに立たないかぎり、この国は省庁の守備範囲の中でしか、ITを考えられないだろう。逆に言えば、ITは、省庁の縦割りを横につなぐことのできる、唯一の手段なのかもしれない。IT戦略会議の成果を期待する。

- 2000年11月7日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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