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日本のデジタルデバイド

先日、ECの招きでウィーンにおいて開催された会議に出席した。デジタルデバイドの各国の状況について現況と今後の対策を話し合うものである。欧米露を始め、インド、ネパール、エチオピア、モルドバなどの発展途上国も参加していた。私はIT機器のユニバーサルデザインが日本国内のデジタルデバイド解消に貢献するのではないかという発表を行った。

■日本のデジタルデバイド

 これまで、デジタルデバイドの問題は、先進国日本が、発展途上国をどう支援するかという視点で語られることが多かった。しかし、日本国内に目を向けてみると、まだまだやるべきことが山積していると感じる。2001年の情報通信白書に、デジタルオポチュニティという章で詳しくデータが掲載されているが、これを見ると日本のデジタルデバイドには明白な傾向があると思われる。

 最も大きなものは年齢による格差である。20代ではインターネット利用者は80%を越えているが、60代では15%に下がる。携帯電話からのネットアクセスに至っては、たったの1.3%にすぎない。これは、2005年には成人人口の50%が50代を超えるという、人類の歴史始まって以来という事態を迎えている日本の人口構成からすれば、明らかに偏ったユーザー層というしかない。

 他にも地域や年収などによる格差が、年齢ほど大きくないが存在する。また、性別による格差は他国ほどは大きくない。これらは、携帯電話によるネットアクセスの普及がもたらした成果ともいえるだろう。しかし、これらを総合すると、「地域にすむ比較的低収入の高齢者はネットアクセスの率が低い」という印象を裏付けるデータであるともいえる。原因の一つがITへの距離感であることを考えると、来年3月までに550万人が受講予定というIT講習会が果たす役割は大きい。何らかの形で継続が望まれる。

■日本が貢献できる環境配慮型のIT製品

 他の大きな原因として、IT機器のわかりにくさや配慮のなさが上げられる。私も今年の前半、シニア層の携帯電話に対する意識調査を行って愕然とした。90%を超えるシニアが、実は画面が読めていなかったのである。便利だとは思っているが、電話の機能しか使えていないため、不要な機能にお金を払っているという不満感が強かった。ボタンは小さすぎ、マニュアルは厚くてわかりにくい。同じメーカーでも機種ごとにユーザーインターフェースが全く違うという今の状態は、誰にとっても使いやすいとはいえないだろう。機種によっては配慮したものも増えてはきているが、今後はユーザビリティの向上が市場の拡大に最も貢献するものと思われる。

 また、白書でほとんど触れていないが、障害者のアクセス率は聴覚障害者の携帯アクセスを除いてはまだ高くない。平成10年の郵政研究所のデータでは、身体障害者の7.8%しかネットにアクセスしていないのである。使いたいという明確なニーズがあるにもかかわらず、最もネットアクセスを阻害されている層であると言える。機器のアクセシビリティは各社の努力でそれなりに向上してきているが、Webや放送などコンテンツのアクセシビリティはまだまだである。サポート体制もリハ・エンジニア育成体制の欠如のため、パソコン・ボランティアに頼っているのが現状である。高齢化とともに障害者の割合が増えることは明白な現在、真のニーズを把握した技術研究と体制整備が急務であるといえる。

 デジタル技術の先進国である日本が、国家間のデジタルデバイド解消のため、発展途上国へ技術支援を行うべきことは論を待たない。しかし、国内にもまだ7割もの未ユーザーが存在する。この、内なるデジタルデバイドの解消も、国際協力とともに、日本で必要なことではないのだろうか。そのために、アクセシビリティとユーザビリティを兼ね備えたIT機器のユニバーサルデザイン化が急がれる。日本の高齢者や障害者に使いやすい、環境配慮型のIT製品は、また、発展途上国においても受け入れられやすいものとなるであろう。環境とデジタルデバイドは、21世紀の最大課題と言われるが、日本が技術で貢献できる分野は、まだまだ存在しているのではないか。そう感じたECの会議であった。

- 2001年11月2日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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