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テクノロジー・フェアから10年、20年

92年のIBMテクノロジー・フェアで、一緒に「社会とともに」のブースを担当したメンバーから、一度会いませんか?とメールが来た。一気に10年前に気持ちがワープした。

IBMテクノロジー・フェアは、当時、10年に一度の大イベントだった。世界各国の最先端研究の成果を集め、日本のお客様に見ていただくというものである。20年前、新入社員当時はカラー・インクジェット・プリンターなどのデモを担当した。当時の技術はいまでは本当に広く普及しているものばかりだ。が、まさか10年後に、ブース・マネジャーをまかされるとは!わたしのブースはIBMの社会貢献を表す、かなり地味な内容だった。環境への配慮というコーナーでは野洲工場の環境保全や、PCの環境配慮型設計について展示した。そしてバリアフリー・コーナーで、障害者がPCを使うための技術を展示したのである。東京基礎研究所が長く研究していた点字関連のシステム、USで開発された聴覚障害児の発声発語訓練ソフトなどが集められた。

中でも目玉になったのは、ワトソン研究所が開発した、世界初の視線入力システムだった。小型のCCDカメラで微弱な赤外線を発し、モニターに映る瞳の位置からどこを見ているか検出するという、当時としては、いや、今でさえ画期的な技術だった。オン・スクリーン・キーボードの文字を例えば0.5秒見つめるとその字が入力される。キーボードもマウスも何もいらない。ただ、そこに座って画面を見ればよい。頭を動かしてはいけないとか、周囲の照度の問題はあったが、慣れるとかなり快適に入力できた。これは、ホーキング博士のようなALS(筋萎縮性索側硬化症)の方が、最後の入力手段である「視線(Gaze)」で意志を伝達する道具として開発されたのだが、私には、全く新しい、直感的なユーザーインターフェースの夜明けのように思われた。

フェアはマスコミにも大きく取り上げられたため、市民のみなさんからも問い合わせが相次いだ。視覚障害のお嬢さんを伴って訪れたある会社員は、「これは、売ってはいただけないものですよね・・・」と点字表示ソフトを触りながら残念そうに言った。海外では製品として流通しているこのような技術が、なぜ日本では手に入らないのか。私はこの方に、そして日本の多くの障害者に、この技術を製品として使っていただきたいと願った。フェアの打ち上げで、当時の北城社長に直訴した。翌年、多くの方の尽力で、メーカーとしては日本初の障害者支援技術センターがオープンした。

今となって振り返れば、あのフェアが今の私の仕事の原点になっている。新しくわかりやすいユーザー・インターフェース、誰にでも使いやすいIT機器、そして海外とのネットワーク。IBMの力を結集して開かれたあの会が、わたしの人生を決したのだ。卒業生として、どれだけ感謝しても、し足りない。そして10年前、20年前にあのフェアに出されていた技術は、今では当たり前のように普及した。IBMの技術力と、そして懐の深さを、今更のように思い起こしている。

- 2002年3月 日本IBM Women's Column -

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