Home » レポート » 研究レポート » 情報のUDレポート » 届かない情報はないのと同じ  広告のユニバーサルデザイン

届かない情報はないのと同じ  広告のユニバーサルデザイン

「読みやすさ」をPRする読みにくい広告

JRや地下鉄に乗ると、あらゆる広告が出ている。雑誌の見出しでトレンドを知ることもあるし、メーカーの新製品やイベントのチェックにも役立つ。朝の通勤時間に見るにはかなり不適切な週刊誌のきわどいキャッチコピーには閉口するが、メディアも国民の文化度を表すのだから仕方ないのかもしれない。だが企業の広告では、ときおり、一体誰がこれから情報を取れるのだろうかと、心配になってしまうものもある。字が小さすぎて、ほとんど読めないのだ。

 先日も、某社の新型カーナビの広告を眺めていて、次第に悲しくなってきた。画面が大きくなって、字が読みやすくなりました、というキャッチの下に、その説明が書いてある。でもその説明は、普通の新聞などよりもはるかに小さいフォントであり、目を近づけても見えない。網棚の上の広告ならまだしも、座席の背に張ってあるものなのに、読めない。無理やり身体を近づけて読もうとしたら、座っていた女性ににらみつけられた。私が男だったら車掌さんにつきだされてしまったかもしれない。

 いったい、この電機メーカーは、誰に宛ててこの広告を打っているのだろう?文字が大きく、読みやすくなった、使いやすくなった、ということそのものは、カーナビがシニアや女性を含む多様なドライバーを対象にし始めた、ユニバーサルデザイン(UD)のものづくりがやっと日本の企業にも浸透してきた証拠で、歓迎すべきことである。しかし、そのメッセージは、これで伝わるのだろうか?

 確かに私は近視で乱視だが、その日は眼鏡をかけていた。一般的なものが見えない状態ではない。電車の広告としては、不適切に文字が小さかったから読めなかったのだ。余白はたくさんあった。なぜもっと字の部分を大きくとらないのだろう。デザイン重視で、視認性を無視したのが明白だった。

 こういう例は、実はたくさんある。かつて、某航空会社が金婚式プランを打ち出していたが、この広告は赤の背景に金色の小さな文字(それも明朝体!)で詳細情報が書いてあり、私はどんなにがんばっても細かい情報を読むことができなかった。対象はどう考えても私より年上の人のはずだが…。 

 車内広告だけではない。新聞にも、あっと驚く「読みにくい」広告が出ることがある。某ソフトウエア会社の広告は、薄い背景色にこれまた薄い文字で会社の内容が小さく書いてあって、コントラストがほとんどなく、よっぽど時間のある人でなければ読もうとは思わないものだった。これが全面広告なのだから、森林資源と広告費の無駄使いでしかない。新聞社もこういうエコロジーとUDに反するものは掲載を見送るくらいであってほしい。今でもこの広告は、弊社では良くない情報提供の例として教材に使わせてもらっている。

より詳細な情報はネットで、が当たり前の韓国

 広報部や広告代理店の中に、見かけさえよければ読む人のことは二の次という、誤ったデザイン感覚はないだろうか。かつて、真っ黒の背景に真っ黒な文字で書かれたイベントの案内状を受け取ったことがある。これはアーティストが芸術だと思って作った遊びの案内で、読めるものは別に添付されていたし、Webサイトも示してあったから特に困ることはなかった。こういう表現の自由をとやかくいうつもりはない。しかし、公共空間の企業広告は、相手に伝わらなければ意味がないのだ。そして、こういった国内の「読めない」広告には、Webサイトのアドレス、URLがない場合がほとんどである。 

 数年前韓国に行ったとき、ビルには社名の代わりにURLだけがあるのに驚き、車内広告がURLを中心にしていることにも驚いた。より詳細な情報は、ネットで確認するのが当たり前になっていたのだ。しかし、日本の広告では、韓国のように必ずついているわけではない。興味を持ってくれた顧客に、限られた広告スペースの中で、必要最低限の情報をわかりやすく提供しよう、そしてより詳細には、Webサイトで見てもらおうという意図が感じられない。こういった身近なところから、ITやユニバーサルデザインに対する感覚の違いを感じてしまう。 

 情報は、相手に届いてこそ意味がある。独りよがりの情報発信は、相手にとって情報がないのと同じだという自覚を持って、メディアや広告業界は情報を発信してほしい。またユーザーも、わかりにくい広告やWeb、そしてそんな情報発信をしている企業の製品には、きっぱり「NO」と言おう。賢い消費者となるための第一歩が、広告の評価かもしれない。

- 2003年7月17日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

Buzzurlにブックマーク Googleブックマークに登録 はてなブックマークに登録