Home » レポート » 研究レポート » 情報のUDレポート » 行政のユニバーサルデザインは市民との協働で

行政のユニバーサルデザインは市民との協働で

仕事柄、さまざまな自治体に呼ばれてITとUD(ユニバーサルデザイン)について話をすることが多い。何度か通ううちに、共通点に気づいてきた。ITやUDを行政や地域が理解し、推進しているところは、民度が高いことが多いのである。

UD、ITが成功しそうな自治体とは

いま、数多くの自治体が、UDに取り組もうとしている。また、ITもe-Japanの第2フェーズ、活用という時代に入る。企業とユーザーのあり方は、ものづくりの最初からユーザーが参画するUDの導入で大きく変化した。行政と市民のあり方も、政策決定の最初の段階から多様な住民が参画し、自分たちの使いやすいまちづくりを共に担おうという協働意識へと変わってきている。 
UDやITが成功しそうな自治体には共通点がある。

  1. 行政トップがUDやITの価値を理解し、個々の部局・職員に活用を考えさせている
  2. 住民側の市民活動やNPO設立が盛んで、行政とも対等な関係を構築している
  3. オンラインとオフラインの適切なバランスを保っている

行政側は、住民を中心に考え、できれば良いパートナーシップを保とうと思っているし、住民側もクレームではなく建設的な意見の交換や共有を望んでいる。顔の見える関係でありながら、ITも道具として駆使し、立場を超えた議論を展開している。民度が高いのである。

市民と行政の協働を

自治体で進めるUDは、政策決定の初期のフェーズから多様な市民参画を促し、途中の評価を行政と協働で行ない、次のステップへ向けて進化するスパイラルなプロセスをとる。パブリックインボルブメント(PI)と、密接な関係があるといえるだろう。

駅前広場の動線のあり方、公共交通機関の連携、公共建築物の使いやすさなどをはじめ、保育や介護時間の延長、図書館の本の借りやすさといったサービス、また広報物や表示が高齢者や外国人にもわかりやすいか——といった情報なども、行政が配慮すべきUDの範ちゅうに含まれてゆく。 

UDに配慮した製品でないと21世紀を生き残れないことから、商工部は地場産業や観光業へUD普及を進める。教育や雇用も、社会人のリカレント教育などを含み、UDの観点が欠かせない。いずれも、世界最高齢国家日本では、当然の配慮であるが、それは何よりも、地域の市民が行政と協働で推進すべきものである。

議論の場の確保を

ここで、市民のITリテラシーが、重要な要素となる。高齢者や障害者、女性や在日外国人など、多様な市民が自らITで発言してきている自治体では、ネットを介して多様な意見の集積・共有・議論が可能となる。UDが目指す、コンセプトレベルからの多様な市民参画が可能となるのである。市民側も、ネットで建設的な議論ができると自分たちのまちをより良くしていける実感があるので、シチズンシップの向上に寄与する。民度が上がるのである。 

UDの進んでいる企業は、最初から多様なユーザーの意見に耳を傾けて物を作ることが当たり前になってきた。事前、事後の評価を経て、スパイラルな改善が可能になってきている。行政の進めるUDも、政策決定のプロセスにできるだけ多様な市民が建設的な議論をする場をどうやって確保するかにかかってくるのだろう。これから楽しみである。

- 2003年9月9日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

Buzzurlにブックマーク Googleブックマークに登録 はてなブックマークに登録