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これでいいんかい、国の委員会 Part 2

 先日、国会の某所で話をする機会があった。国会議事堂などというところには、一生縁がないだろうと思っていたので、ミーハ−気分もあって承諾したのである。

 打ち合わせに行ってみた。建物は確かに古く、なかなか重厚ではある。だが、ユニバーサルデザインというコンセプト以前の建物なので、アクセシビリティーには課題が多そうだ。

バージョンアップは不公平!?

準備段階では、少し不安な会話が続いた。 
 「パワーポイントは使えますよね?」「はい、でもあまりお勧めしません」 
 「は?」「みなさん、手許の資料しかご覧にならないのです」 
 ふむ。会場が暗くならないのか、またはそういうプレゼンテーションに慣れていないのか。ま、使うなとは言われなかったので、とりあえず準備を始める。 
 「すみませんが、Powerpoint97でファイルをください」「えっ?そんなバージョンありませんよ」 
 「その形式で保存できますので」「でもそうするとプレゼンの機能に影響は出ませんか?グラフィックのサイズも大きくなってしまいますよ」 
 「国会全体が、このバージョンしかないのです」「プレゼン用だけバージョンを上げたらいかがですか?」「それは不公平になるので、不可能です」 
 なるほどねえ。不公平……。公務員の中で、新しいOSやソフトのバージョンを持つ人がいるのは、不公平になるから禁止なのか。それが議員さんや国民に不便を強いることになっても……。なんとなく納得がいかないまま、準備を進めた。プレゼンのデータをメール添付で送る。やはり、97では、圧縮がかかりにくく、ファイルサイズが10倍にもなってしまった。電話がかかってきた。 「すみません、国会のメールアドレスでは受け取れないサイズなので、家で受け取ります。個人アドレスに送ってください。」 
 フロッピーに落とせるサイズではとてもない。嫌がられるのは覚悟で、自分のノートPCとアダプターも持ち込んだ。担当者は深夜まで巨大なファイルと格闘したらしい。

議会もITを通じた国民との対話が必要

 会場について唖然とした。これではたしかにプレゼンはしにくい。会場の広さに比べ、スクリーンが悲しいほど小さいのだ。プロジェクターもあまり品質が良くなくて、確かに見づらい。あんなに担当者が格闘してくれたのに、申し訳なさでいっぱいになる。しかし、これではどこかの公民館で講演するような気分だ。議員さんたちが、手許の紙しか見ないのもわかる。しかしなんとか、画面の写真に意識を向けてもらって、やっと終了した。

 数日後、紙で報告書が来た。速記者が作ったデータは確かに正確で素晴らしい認識率だ。米国で速記者と字幕作成者が同じ教育を受けるというのもうなずける。だが、残念なことに、私のプレゼンについては自分が詳細に説明しない限り、写真やグラフは記録には残らないのだ。報告書ももっとビジュアルになっていいと思うのだが……。 
 両議院とも、ホームページは充実しており、アクセシビリティーへの配慮もある。だが、実際の審議過程は、サイトからはほとんど国民にはわからない。いまホットな議題に、どうすればパブリックコメントを寄せられるのか、その回答はどうなっているのか、サイトからはほとんどわからない。行政だけではなく、立法や司法においても、ITを活用した国民との対話や、パブリックインボルブメント(市民による政策立案関与)は必要なのではないだろうか?それは担当者の孤軍奮闘ではなく、国全体の課題なのではないだろうか?

永田町がデス・バレーになる?

 5月19日の朝のニュースでも、委員会記録を全員に紙で配布するのを見直すと言っていた。サイトに掲載される前に紙で配布されていたのだそうだ。紙???なんでメールじゃないの?なんて聞かないでほしい。国会議員さんの中で、メールが使える人はまだ少ないのだ。定期的にメルマガを発行している方は数えるくらいだ。 

 隣の霞ヶ関では、世界最高のIT国家に、と騒いでいるのに、そのお隣の永田町では、ITの意識が本当に薄いのはどうしてなのだろう。ここが新たなデス・バレーにならないことを祈ろう。

- 2003年5月28日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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