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SOHO企業のユーウツ

 雨が降ってきた。

わ、洗濯物を取りこまなくちゃ。あわてて2階へ駆け上がる。こんなときだけは、SOHOで仕事をしていることのメリットを感じる。

弊社は正社員4名、登録スタッフ120名のSOHO企業だ。全員が在宅でMLとWeb上で仕事をするバーチャル・カンパニーである。シニア、子育て中の女性、障害を持つ人などが、クリエーターやプログラマー、コンサルタントとして活動している。社長の私も含め、全員がSOHOワーカーだ。もう都心にオフィスはいらない。

会社員時代、私は通勤に片道一時間半はかけていた。それが今はゼロなのだから、確かに楽にはなったと言える。2階から降りたらもう、そこは職場。気持を切り替えるために、きちんと化粧をして、9時半には家事をすませて、PCの電源を入れる...。ここまでは、予定された通りの、花のSOHOライフだった。その後がいけない。

物事には、つねに、光と影がある。

まず、終わらないのである。気がつくと、もう午後1時半、あ、なんか食べなきゃと席を立つ。凝ったものを作るヒマも気力もなく、そのあたりのもので簡単にすませてしまう。お茶のカップを持ってそのまま机に直行。次に気がつくと夜の9時半だったりする。またとりあえず、の食事をして仕事。職住接近というのは、始まりはともかく、終わりのない仕事を意味するものかもしれない。26時ごろ、元の会社の同僚から「帰れないよ〜」とメールが届き、こっちも負けずに「終わらないよ〜」と返事する。なんだか、以前と変わらないじゃないか。

次に、家がきれいになった。これはいいことでもある。なんせ、来客が多い。日に3組も来る。で、せっせと掃除をする。実はこの時間がバカにならない。オフィスが別にあれば気にならないであろうキッチンも、見えるかもしれないと思って、A型の私はつい磨く。これが実際にはストレスになる。亭主は喜ぶが、私は複雑な心境だ。そりゃ通勤時間よりは掃除のほうが短いが、前は週1回だったのに...。

郊外にオフィスを構えること、いや、郊外の家をオフィスにすること。これは都内に出かけるのが減ることを意味するが、行くときはどっちゃり仕事を詰めることでもある。10時に学会発表、17時に国の委員会、などと決まると、真ん中を埋めるのに苦労する。顔を出したほうがいい顧客がそばにないか、未定だった取材依頼をここで受けられないか、調整が大変だ。VAIOとH(エッジ)でどこでも仕事はできるが、何時間も粘れて電源のある喫茶店は多くない。一日が終わると、ぐったりしてしまう。

ネットですべての情報を共有できると思って始めた在宅ワーク。私の家である本社も、4名の正社員も120名の登録スタッフも、みなSOHOである。しかし、実際には送られてくる紙の量ははんぱではない。委員会資料、研究報告書、機関誌、雑誌、新製品資料、etc.。これをすべて社員間で共有することは不可能だ。週1回のミーティングでは読みきれないものが増える。情報や技術の伝達は偏ったものになる。未だにハンコを必要とする日本の文化も完全なネット企業の妨げだ。契約書に判を押すためだけに、社員が出社する場合もある。

IBMのような企業の社員が、在宅ワークを行なうのとは、全く違った困難さだ。物理的な事務所を必要としない新しい働き方をSOHOに求めたが、この環境で一億円企業をめざすには、まだまだクリアしなくてはならないことが多すぎる。社会全体がいまだに「大企業・通勤・都会」を前提にしているからでもあるだろう。IT社会の目指したパラダイムシフトは、残念ながらまだ実現しているとは言いがたい。

「ああ、今日はいい天気だ、仕事の合間に洗濯しよう!」と言える生活を夢見て選んだSOHO Life。実際には気づいたら今も、夜11時。何か少しは食べないと...。

- 2001年9月 日本IBM Women's Column -

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