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Web2.0時代の国土形成計画を

 国土審議会計画部会における国土形成計画の審議が、山場を迎えている。ほとんど毎週のようにこの計画に対する各省庁のヒアリングが開催されているのだ。最初は貢献できることは全くないのではと思っていた国土計画だが、参加しているうちに、門外漢だからこそ、言いたいことが増えてきた。21世紀の根幹を決める計画なのに、ユニバーサルデザインとITの視点がまだまだ薄いような気がしてならないからである。

 子どもや女性、外国人など、多様な人々のニーズをデザインの最初から考えるというユニバーサルデザインは、国土交通省の中でさえ、まだきちんと理解されているとは言い難い。単にバリアフリーの延長として語られることも多く、ユニバーサルデザイン先進県である熊本に、ぜひ学んで欲しいと思う。それでも今回の国土計画では、何度かこのユニバーサルデザインという言葉が出ており、かなり前進したといえる。だが、まだこれを受けた各省庁の施策には物足りない部分が多い。

 例えば文部科学省からは学校の耐震強度を向上することしか説明されなかったが、避難所や投票所として利用される学校においては、アクセシビリティーも同様に重要な改善ポイントではないのだろうか?日本は国連のサラマンカ宣言(1994年、障害を持つ子供もほかの子供と同じ環境で教育を受ける統合教育の推進を提唱)を無視して分離政策をとり続けている唯一の先進国である。このため、学校はハートビル法(「高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」、2006年国会で交通バリアフリー法との一本化が可決)の適用除外であり、物理的にも情報伝達についてもアクセシビリティーの確保には消極的だった。

 だが災害時には、誰もがガラスを踏んだりメガネを割ったりして、災害弱者になる可能性が大きい。幼児もシニアも海外からの旅行者も利用する可能性がある。高齢者の増える今後の日本では、アクセシブルなトイレの設置や、識別しやすいサイン計画など、学校のユニバーサルデザインは必須の課題なのだ。各省庁における共通の認識が必要であると思われる。

 またITの活用に関しても、今後の展開を考えるともう少し未来志向であってほしい。例えば国土利用計画に関しては、これまで地目毎であった国土利用をより横断的・総合的に行政や民間で展開していくと語られたが、私には、なぜここでWebGIS(地理情報システム)をベースとして開発しないのか、不思議でならなかった。その土地の利用状況や災害履歴、高齢者の多く住む地区などのさまざまなデータは、WebGISの中で重層的に展開して検討するべきである。

 あまり使い勝手は良くないが、すでに国土交通省は電子国土というGISを運用している。長野や三重でも独自に開発が進み、活用されている。個々の自治体で個別に開発するよりも、こういったものこそ広域で、もしくは全国での共通の基盤とすべきだろう。災害は広域で起こる可能性が高く、観光客は地域をまたがって移動する。さまざまな角度から、その地域の国土利用状況や今後の経営計画を、WebGISの中で展開し、レイヤーごとに分析・検討を進めることは、21世紀の国土計画の柱になるべき概念だと思う。

 EUではFP7(第七次研究枠組み計画)のぼう大な予算の中で、観光のユニバーサルデザインに関するアイコンや表示方法を統一し、WebGIS上で共通に検索できるシステムを開発する予定であるという。アジア全体とは言わないが、せめて日本全体でのルールを定めておけば、例えば湯布院から黒川温泉へ旅行するとき、ベビーカーで行ける一番楽なルートやホテルを探しやすくなるはずだ。

 プラットフォームをきちんと作っておけば、それから後のデータは、地元で基礎自治体や市民が作ればよい。今回の計画でも、日本の国土は「新たな公」が担うと宣言されている。官でもなく、民でもない。佐賀県で使われているCSO(Civil Society Organizations:市民社会組織)に近い概念である。21世紀の市民社会は、自らの手で、環境問題や地域の防犯や産業育成を担っていくだろう。それは、多様な市民によるユニバーサルなものでなければならず、ITを使った近代的なものであるべきだ。中央とつながることだけを目指すのではなく、地域が地域としての誇りと自立心を持って生きる新たな国土計画は、市民が自ら責任を持って情報発信を行う、Web2.0の感覚で担われるべきである。

 国はインフラを整備し、その上のコンテンツは地域の人々が担う。国民全員が、自ら情報発信に参加できる国土計画になれば、本当の意味での「くに(郷土)を愛する心」も自然に育まれていくのでないだろうか。ITの更なる活用を計画の中に取り入れて、多様な国民の立場を反映する国土計画になることを望むものである。

- 2006年12月13日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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