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パソコンボランティア・カンファレンス2003を終えて

  2月22日と23日、埼玉県の障害者交流センターで、パソコンボランティア・カンファレンス2003が開催された。これは、日本障害者協議会(Japan Council on Disability:以下JDと略す)の情報通信ネットワークプロジェクトが中心になって97年から開いているものである。今年で6回目であり、全国から200名を超える参加があった。スペシャル企画「重度障害者・二人のビッグな世界」での俳人・花田春兆氏+写真家・田島隆宏氏の絶妙なトークショーなど、多彩なプログラムであった。 

障害を持つ人のIT利用をサポート 

 パソコンボランティアというのは、障害を持つ人のIT利用をサポートする人や組織のことである。93年ごろから各パソコン通信の会議室において、ニーズを持つ障害者、技術を持つエンジニアやリハビリ関係者、ITが使えるボランティアがネット上で会話を始めていた。私もJDのメンバーと一緒に94年から、パソコン通信Peopleの「福祉工作クラブ」運営に携わり、パソコンボランティアの普及に努めたのである。 

 視覚障害者のパソコンに音声読み上げソフトをセットする。肢体不自由の人の使えるスイッチやソフトを選択して導入する。電話やメールでらちがあかないときは家まで出かけていく。ときにはマウスを掃除したり、トラブルのサポートや障害状況の変化に伴う支援も行なう。そのノウハウはネット上で蓄積され、何冊か書籍にもなった(日本評論社「パソコン・ボランティア」など)。 

 SOSを出した人のところへサポーターを送るうち、その地区にまた小さなパソボラグループが生まれる。立場や、年齢や、住む場所や、障害の違うさまざまな人々が、ネットの中でニーズと解決策を共有しあう。ITが開く新しい世界の可能性に、希望を見出した人も多かった。 

地域連携進むパソボラ組織

 それから7年、各地に誕生していたパソボラの組織は、インターネットの中で全国的な連携を保っていたが、さらに地域での連携が進んだようだ。例えば埼玉の各地にできていた10ほどのパソボラグループが、今回のカンファレンスを機に県内のゆるやかな連携に踏み出した。自転車でいけるような、中学校区に一個ずつのパソボラ組織をという夢に、また一歩、近づいたのかもしれない。練馬ぱそぼらんのように、NPO法人を取得して独自の活動を行なう組織も出てきている。 

地域サポートを行う公的機関も必要 

 だが、問題点もまだまだある。本来、ITなどを道具に情報にアクセスし発信することは、誰にとっても必要な権利のはずだ。欧米ではニーズのある人はごく普通に地域でのサポートが受けられる。しかし日本には、地域でそのような支援を行う公的な機関が皆無に等しいのでパソボラが必要なのだ。スイッチの設定など、医学やリハ工学の知識を持つ人の支援も不可欠なはずだが、実際にはIT利用支援は医療や介護の範疇とみなされないため、ソフトの導入やカスタマイズなどを行える医師やOT(作業療法士)、リハ・エンジニアの数は多くない。技術がないわけではない。届ける仕組みが弱いのである。 

日本のIT予算は、本当にITを必要とし、ITを使うことで大きな力を発揮できる人々のために使われているのだろうか?パソボラのような地道な活動は、日本のIT施策に欠けている大切な部分を、草の根から支えているのだと思う。 

- 2003年3月3日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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