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これでいいんかい 国の委員会

会社を興してから、前にも増して国などの委員会に出る機会が増えた。大企業の枠に縛られない自由な政策提言も、独立した目的の一つだったので有難いことではあるのだが、会によっては首をかしげることも多い。果たしてこれで日本の将来は大丈夫なのか?

■得策ではないベンチャーの委員
 私はIT、福祉、ベンチャーとさまざまな立場で活動しているため、関連する省庁も多岐に渉る。各省庁の委員会で雰囲気の違いがわかって面白い。だが、いったいなぜ私が呼ばれたのか理解に苦しむ会もある。某省庁の委員会で、大臣が挨拶するような会に呼ばれた。別の委員会でご一緒している大学教授が隣だったので「なぜわたしのような門外漢がこの会のメンバーなんでしょうかね?」と聞くと、「まあ、ランダムサンプリングでしょうな」とおっしゃったので納得した。よっぽど日本は人材が不足しているのだ。門外漢が決める政策によって、何十億ものお金がこれで動くのかと思うと、空恐ろしい。
 しかし、ベンチャーにとってはこのような委員になることは決して得策ではない。評価を中心とする委員会では、審査したプロジェクトにかかわることは許されないので、素晴らしいと思って推薦する案件ほど、参加も助言もできなくなる。仕事の幅を減らしてしまう。委員会からアサインされる仕事の量も、半端ではない。今年も連休は完全につぶれた。10個近くも委員会に参加すると、月の半分は委員会ワークで埋まるような場合もある。そして、その報酬は驚くほど安い。大学の非常勤講師料より少ないのではないか。大企業や国立大学の先生は、給料が保障されたうえで出ていらっしゃるのだから少しでいいのだろうが、時間でノウハウを売るコンサルタントとしては、この価格は信じられない低さである。

■多いITが貢献できる余地
 委員会もさまざまで、事務局を勤める企業・団体により、全く性格が変わってくる。私は基本的にメーリングリストを立ち上げ、委員会作業を効率化することを勧める。しかし省によっては参加する先生方がメールを使わないという理由でメーリングリストが成立しないものさえある!果たしてこれで日本の科学技術は大丈夫なのかと、私でさえ不安になる。
 事務局が完全にストーリーを決め、委員はそれを承認するだけ、ほとんどガス抜きという会では、事務局の意向に添わない発言は議事録に載らないこともある。毎年度末の報告書を書くのも大変だ。あるとき、できるだけ濃い内容にしたいと思い、自分で出かけた海外の状況報告を入れていいかと打診したことがあった。同列の委員会で多くの大学教授が海外事情を報告する予定だったので、この会でも並べて出せば委員会の価値をより理解してもらえると思ったのだ。だが事務局は丁重に断ってきた。理由は、他の委員会ではみな、海外調査の予算がついた結果としての報告書なので、私が勝手に行った報告は掲載できないというのである。「内容も非常に技術的なものなので、一般の方が読まれてもわかりませんよ。」なんでそんなもの国費を使って印刷するんだ、なんてことは言わない。でも、委員が持つ情報を国民に知らせるのが報告書の役割だと思っていた私には、なんとなく割り切れなかった。ちなみに紙媒体だけで、Webでの公開は予定されていないという。

 国の委員会とは何だろう。時間やノウハウをいくら提供してもそれが実際の政策に反映されなければ、まともな人ほど出る気がなくなるのではないか?知識を共有し、有効な政策に結びつけるために、貴重な時間や人材を無駄にしないマネジメント能力が求められている。同じメンバーで別々の省庁や自治体が似たような委員会を開くのだけは避けてほしい。ナレッジマネジメントや議事録のDB(データベース)化など、ITが貢献できることは多いのではないだろうか?

- 2001年5月25日 「NIKKEI NET」ITニュース面コラム「ネット時評」 -

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