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SOHOという働き方 その光と影

SOHOという言葉がかなり浸透してきました。自宅やその近くで働けるというワーキングスタイルに、憧れを持つ方も多いのではないでしょうか?

しかし日本では、小さなオフィスを借りるというSmallOfficeが会社組織で、自宅で仕事をするSOHOは下請け的な在宅ワークという二極分化が進んでいるような気がします。自宅をベースに大きな会社を経営している人に、私はまだ日本では会ったことがありません。住宅事情も影響していると思います。

自宅をオフィスに株式会社を設立して、2年が経ちました。今では正社員4名、登録スタッフが90名ほど一緒に仕事をしています。正社員はミーティングで週1回オフィスに来る他、客先との打ち合わせ以外は、それぞれの家で仕事をしています。メーリングリストとWeb上での情報共有が仕事の基本となります。

弊社では正社員、登録スタッフとも、性別、年令、障害の有無を問いません。むしろ、ユニバーサルデザインの普及という会社の目的から、高齢者や障害者であるということは、メリットになる場合もあります。重度の障害をもつ人がほぼ3分の1、年令も18歳から75歳まで、また、要介護の親や子供を抱える人もいます。在宅でできる仕事を探している人には、メールで送られてくる「この納期までにこの内容のレポートを」とか「この金額でこういったWebを作って」という仕事は引き受けやすいかもしれません。

確かに、いいお天気の朝に洗濯ができる環境は、女性にとっては魅力的です。深夜勤務が多かった会社員時代に比べ、家で夕食を準備する機会も多少は増えました。社会とつながっていたい障害者や高齢者にとっても、新しい働き方だと思います。

しかし、バラ色に見えるSOHOライフも、いいことづくめではありません。まず、登録スタッフは、正社員と違って収入の保障がないので、生活は不安定です。また、正社員も同様ですが、どうしても一人での仕事が増えるため、情報不足や技術力の低下が心配されます。 企業としては、社員への情報の配布と共有、スキルの伝達が思うようにいかないことが悩みの種です。ネットではどうしても伝えきれない思いを、どうすれば相手に伝えることが可能なのか、距離の遠さを実感することもしばしばです。

日本的な商慣習も、SOHO企業にとってはバリアとなります。押印のない添付ファイルを正式書類として認めてくれる日本企業は少なく、どうしても最後は誰かが社判を押さねばなりません。海外出張の間など、扱いに苦慮します。また、自宅に企業の方をお招きするとどうしてもまっとうな会社として扱ってもらえないこともあります。外側しか見ないのですね。生活者の実感が必要と口ではいいながら、お役所ほどその傾向が強いような気がします。

会社だけではない新しい生き方や働き方を選択したいにもかかわらず、実際は、日本の社会構造に合わせなければならない、SOHOは今、そんなジレンマの中にあるのかもしれません。でも、高齢者や女性の声がユニバーサルデザインを進めていったように、IT革命が進むに連れて、さまざまな立場の人の意見がSOHOをより進化させていくのだと思っています。

- 2001年1月25日 日経PCビギナーズNETメールマガジン 第020号 -

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